第1節 交通事故の現状とその原因


  昭和41年度中に発生した交通事故による死者は約1万6,000人(1日平均44人),負傷者は広島市や仙台市の40年の人口とほぼ同数の52万人(1日平均1,400人)であり,これを33年度の死者1万1,000人(1日平均30人),負傷者19万人(1日平均520人)と比較するとこの8年間で死者で1.5倍,負傷者で2.8倍となつており,今後も増加する傾向を示している。これは今後50年以内に平均4人世帯の家族のだれかが交通事故の被害を受ける確率となる。この41年度の数字によれば1時間平均60人が交通事故による死傷を受けていることになり,これに対する事故防止対策は政府の当面する重大な施策の一つである。
  交通事故を防止するためには,まず交通事故の発生状況およびその原因を把握することが必要であるので,まず外国の交通事故の状況について,自動車事故による死者数をみると,自動車の普及率の著しいアメリカ,欧州諸国は 〔1−5−1図〕に示すとおり,人口当り死者数が多いが,自動車台数当り死者数は,わが国が最も多くなつている。
  アメリカと日本の自動車事故の死者数を発生状況別にみると,アメリカでは自動車と自動車との衝突による死亡が35%で最も多く,自動車と歩行者との衝突による死亡が19%であるのに対し,日本の場合は,自動車と自動車との衝突による死亡が7%であるが,自動車と歩行者との衝突による死亡の割合は39%に達している。これは日本の場合,歩行者のための交通安全施設が具備されていないこと,すなわち人と車の混合交通が多いためである。

  つぎに踏切事故について,列車キロ当りで諸外国と比較すると, 〔1−5−2図〕のとおり,日本がフランスの7倍以上も多く発生している。これは欧州諸国に比較して日本が営業キロ当り踏切数が多く,かつ交通安全施設の整備されていない踏切が多いためである。(日本は,しや断機付の踏切数が全体の4.7%にすぎないが,欧州諸国ではイギリス17%,スペイン20%,オランダ24%,ドイツ36%,フランス40%がしや断機付踏切である。)

  航空機事故についてみると,日本の事故率は,世界定期航空の平均事故率と比べて, 〔1−5−3図〕のとおりやや高率となつている。しかしながら傾向としては,航空技術および科学の発達により事故率は減少していくすう勢にある。
  日本の41年度の交通事故について輸送機関別発生状況をみると 〔1−5−4表〕でわかるとおり,全交通事故件数の92%あまりが道路交通事故であり,この比率は年々高まつている。鉄道および海難事故件数が全交通事故件数に占める割合は7%および0.6%である。海難事故の最近の特徴は,船舶の大型化に対応して遭難船舶が大型化する傾向を示している。全交通死傷者のうち道路交通事故による死傷者の占める割合は99%に達している。鉄道,海難事故の死傷者は前年度より減少した。航空機事故は,41年は連続して重大事故が発生したため,40年より著しく死傷者が増加したが,全交通事故死傷者に占める割合は0.1%に満たない。しかし航空機の大型化と航空機輸送の特殊性のため,ひとたび航空機事故が発生した場合は,大量死亡にむすびつくため,なお一層の航空機の安全に対する努力が望まれる。


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