第3節 臨海工業地帯の海岸防災


  わが国の地理的条件および都市の発達状況から臨海部における工業発達が著しく,海面堀立による工業用地造成が盛んである。
  これら工業地帯の大部分は湾奥部にあり,その上,既存工業地欝における地下水揚水により地盤沈下を生じ,高潮,波浪に対する防災施設の機能劣化を招いていることとあわせて,浸水に対する危険度が倍加している区域となつている。これを東京,大阪,神戸,尼崎,新潟など地盤沈下の激しい港湾都市についてみると,いずれも背後にいわゆる0m地帯と呼ばれる海面より低い地域をかかえており,通常の潮汐においても侵水のおそれがある状態である。
  因みに,これを東京都についてみると,通常の満潮面より低い地域の面積は84.9km2,居住人口は約81万人に達し,江東区,江戸川区等,計8区に関係する広さとなつて防災上憂慮すべき区域となつている。
  一方,これらの埋立地はその大規模化とともに水深の比較的大きい地点に進出することとなり,波浪の影響を直接受ける条件のものが多く,浅い海岸における通常の設計による保全施設では越波による被害の増大が予想され,天端高,壁体構造等について検討を要するところである。
  これらの諸問題に対処するものとして,湾奥に位置する港湾都市に対しては伊勢湾台風による大災害にかんがみこれと同程度の台風に対する防災施設を計画しており,いわゆる0m地帯の低地に対しては緊急に整備しているところである。これらの地域は,一般に工場人家等の密度が高いうえ,港湾を場とする生産活動が盛んであることから,それらの機能を阻害しないよう配慮した計画とされている。
  地盤沈下に対しては沈下の原因である地下水汲上げに対する規制が着々とその効を奏しており,特に過去において大きな沈下量を示していた地域の沈下速度の鈍化が著しくなつている。一方,比較的規制のゆるやかな周辺部の沈下が進行し,いわゆる沈下の目が移動する傾向があることは注目に値する。さらに地下水利用の制限に対処するものとして工業用水の別途確保についても,工業用水道の建設,排水の再利用等積極的に取組まれているが,これは地盤沈下問題に明るい見通しを与えるものであり,海岸防災上好ましいことである。
  これらの地域における防災施設は将来の沈下量を適確に予測して計画する必要があるが,そのため観測井堀さく等により地下水位変動地盤収縮を定量的に把握するための現地調査もあわせて進められている。
  また,,地盤沈下と海岸侵食の問題が併存する新潟の例で見られるごとく,このような地域では旧来の護岸の嵩上げのみで防災の目的を達することは困難であり,この対策としては離岸堤,突堤等と護岸を併用する防災方式による必要がある。特に港湾の機能上および海岸の特性上等の理由により,養浜による新しい防災方式に依存するのが最も適した場合があるので,今後後背地の情勢に対応して本工法を検討する必要が生ずるであろう。

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