3 世界一周線とモスワ線の開設


(1) 世界一周線

  世界一周線は,昭和42年3月6日開設された。これは,41年11月乗入れを実現したニューヨーク線をさらにロンドンまで延長し,ここで従来の南回り欧州線と結びつけたもので,この結果,東京-ホノルル-サンフランシスコ-ニューヨーク-ロンドン-パリ(またはフランクフルト)-ローマ-カイロ-テヘラン-ニューデリー-バンコック-ホンコン-東京の各地が結ばれることとなり,日本航空(株)は国際線運航開始以来13年にして世界の航空会社の「最大の夢」である世界一周線を完成したわけである。
  現在,ニューヨークを経由する世界一周線を運航しているのは,日本航空以外は英国海外航空(英),パンアメリカン(米),カンタス(豪)の三社だけである。このうちパンアメリカンは日本航空開設時には米大陸の上空を飛んでおらず,カンタスは中部太平洋を飛んでいない。従つて中部太平洋を通つて米大陸を横断するゴールデンルートによる世界一周線は,英国海外航空についで,日本航空が世界で二番目となるわけである。
  この世界一周線の開設は,国際航空におけるわが国の地位の向上に著しく貢献するとともに,増大しつつある日本人旅客の便益を増進することはもちろん,さらには,莫大な経済的価値を有するニューヨークおよび北大西洋市場を獲得したという点においても大きな意義がある。
  しかし,この世界一周線の前途は必ずしも楽観ばかりはできない。大西洋線は世界でも最も輸送量の多い路線で,昭和41年12月における北米-欧州間の運航便数は週間495便もあり,太平洋線の約9倍にのぼつている。このなかに日本航空が週2便の運航を開始するわけで,日本航空としてもよほどの営業努力が必要となろう。

(2) モスクワ線の開設

  モスクワ線は,42年4月17日に週1往復で開設された。
  本路線は,シベリヤ上空を経由する世界で初めての路線であり,日本航空とソ連のアエロフロート両社が共同で運航することになつている。この共同運航は,日本航空およびアエロフロートが独自の運航を開始するまでの間,暫定的に行なわれるものであり,その内容はほぼつぎのとおりである。
  日本航空およびアエロフロートは,共同してソ連民間航空省よりTU-114型4発ターボブロップ機を乗員付きで賃借する。この航空機には日本航空及びアエロフロート両社の社名およびマークが描かれる。乗員はソ連民間航空省より提供されるが,日本人も運航乗務員のメンバーに加わることができる。またスチュワーデスなどの客室乗務員は,日本航空,アエロフロート両社から提供し合うことになつている。収入の配分,経費の分担その他この共同運航を実施するに必要な事項はすべて両社間の商務協定に定められている。
  本路線を従来の路線と比較してみると,距離的にも時間的にもまた運賃面でもずつと経済的となつている。
  北回り欧州線で,東京からコペンハーゲンまで行き,ここからヘルシンキ,モスクワと行くと,19時間30分(DC-8とカラベール),南回り欧州線でニューデリーを経由して行くと19時間35分(DC-8とB-707)かかる。これに対し,東京-モスクワ直通ルートで行くと平均11時間で飛ぶ。運賃の面でも東京-モスクワの片道はエコノミークラス538ドル60セント,ファーストクラス875ドルであり,エコノミーで中近東経由の場合に比べ128ドル70セント,欧州経由の場合に比べて223ドルも安くなる。
  本路線は,世界に先がけてシベリア上空を経由する路線であり,暫定共同運航とはいえ日本航空が本路線を運営することは,国際航空界における日本航空の地位の向上に大きく貢献するとともに,国際線における「東京」の地位の向上に寄与するものである。また,本路線は欧亜を結ぶ最短路線であり,将来東京-モスクワ-ヨーロッパ間が直通で運航されるようになると,本路線が東京-ヨーロッパを結ぶメインルートとなることは必至であり,モ第2節 国内航空輸送状況
  国内航空路線の輸送需要は,昭和40年度において,東海道新幹線の影響ならびに一連のジェット機事故により幹線はすでに逆調を示し,ローカル線も延び率は鈍化傾向にあつたが,41年度は,更に11月の松山沖YS-11型機事故の影響により遂にローカル線も昨年度を下回る結果となつた。
  以下国内線における41年度輸送実績を幹線およびローカル線に分けて述べることとする。

 1 幹線

      札幌から東京,大阪を経て福岡に至る路線を国内航空路線の大動脈として幹線と呼び,昭和41年6月まで日本航空(株),全日本空輸(株),日本国内航空(株)の3社が事業を営んでいたが,同年7月日本国内航空は幹線運営を日本航空に委託したため,現在では,日本航空,全日本空輸の2社運営となつた。その運航状況は 〔III−12表〕のとおりである。
      幹線における輸送実績は, 〔III−13表〕のとおりであつて,国内航空輸送に占める比率は,旅客人キロで62%を占めるが,旅客数ではローカル線を下回る結果となつている。
      実績を路線別にみると,東京-札幌間,東京-福岡間,大阪-福岡間はいずれも対前年度比10〜11%増であるが,東京-大阪間は28%減となつている。前記3路線が,いずれも十分でないが同率の伸びを示しているに反し,東京-大阪間のみ,28%も減少していることは東海道新幹線への転移とみるべきであろう。

 2 ローカル線の輸送状況

      札幌,東京,大阪,福岡の各都市間を結ぶ幹線以外の路線をローカル線といい 〔III−14表〕のとおり,全国的な路線網がしかれている。
      現在,これら路線を運営する企業は,全国的に路線を有する全日本空輸(株)日本国内航空(株)のほかに大阪以西から中国,四国,九州および南方諸島のローカル線を運営する東亜航空(株)と長崎を中心とする路線を運営する長崎航空(株)の4社がある。
      年々,発展の一路をたどつてきたローカル線は,41年度においては新たな空港の完成(福井,宇部,旭川,出雲)に伴い新規路線として,東京-福井,東京-宇部,大阪-宇部,札幌-旭川,大阪-出雲の各路線が開設された。
      このほか,おもなものとして,高知-宮崎,名古屋-大分,大分-福岡,広島-出雲の各路線が開設され既設路線網が拡充された。
      輸送実績についてみると41年度旅客数2,464千人と40年度より3%減少した。旅客利用率も40年度66%が41年度は58.7%と低下した。
      これは41年2月および3月に相ついで発生した航空事故による影響が回復に至らぬうち,同年11月松山沖YS-11型機墜落事故の発生による打撃が大きく旅客需要に響いたためと考えられる。

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