序 解決を迫られる大都市交通

  わが国の運輸経済に関する年次報告は,昭和39年以来,いわゆる運輸白書として毎年公表し,それぞれ過去1年間の運輸経済全体の推移についてできるだけ広範囲に,かつ詳細に実情を明らかにすることに努めてきた。同時に第1回「変革期にある輸送構造」,第2回「近代化の過程にある物的流通」,第3回「世界における運輸近代化とわが国の方向」,第4回「地域経済と輸送構造」をそれぞれ副題に選び,わが国運輸交通の問題点と対策について特に掘下げた検討を加えてきた。
  今回の副題テーマに「解決を迫られる大都市交通」を選んだゆえんのものは,今日わが国運輸交通の当面している諸問題のなかで,最も日常の国民生活に結びついた深刻な経済問題であると同時に社会問題であり,しかも当該地域の問題にとどまらずわが国経済社会全体につながる問題であつて,その解決にあたつて国民各層のひとびとの理解と協力を得ることが必要であり,具体的な対策の樹立とその実現が急がれている課題となつているからである。
  わが国における都市化,特に大都市集中は世界に類例をみない大規模なものであり,同時に急激な形で進んでいるが,高密度社会のわが国として国土の合理的利用の見地から経済の長期的成長と国民生活の福祉に貢献するための最も効果的な解決をはからなければならない。そのためには,都市構造の改革の方向と人と物の輸送のあり方について検討を行ない,その方策の具体化を押し進めなければならない必要に迫られているわけである。