第1章 わが国における大都市化傾向と交通

  産業の高度化に伴う人口の都市集中は世界的に共通してみられる傾向であるが,わが国における昭和30年代から今日にかけての経済のめざましい高度成長はまた急激な都市化傾向をもたらした。
  昭和30年当時都市人口(人口10万人以上の都市に居住する人口)は全国人口の34.9%ににすぎなかつたが4O年には46.5%に増加した。一方,この間に第1次産業就業者数は全就業者数41.0%から24.7%へと減少した。このような産業構造の高度化に伴う都市人口の増加傾向は全国的な傾向であるが,さらにその増加率を都市規模別にみるとその間には大きな差異があり,人口規模の大きい都市ほど人口増加率は高くなつており,人口10万人以下の都市ではむしろ停滞もしくは減少傾向にある。
  都市機能は行政機能(政府および地方自治体),情報・文化機能,業務管理機能,工業生産機能,流通機能,各種サービス機能,信用機能等が集まつて形成されるが,これら諸機能を十分に発揮させるためには迅速,適確な情報を入手することが今日の高度化しつつある情報社会において不可欠なことである。このため経済活動を行なう企業などにとつて,国際的にも国内的にも情報の入手しやすい中枢管理機能の集積した都市が魅力ある都市として考えられ,集中が行なわれる結果,これらの都市がますます巨大化していく傾向にある。
  したがつて都市のもつ諸機能のうち特に中枢管理機能を備えている東京,大阪等の既成大都市へ企業および人口が集中してくる。企業数についてみると,昭和41年で全国会社数58万社のらち東京都に25%,大阪市に9%が集中し,特に資本金10億円以上では全国の59%(604社)が東京都に集中している。こうした企業の集中に伴つて昭和40年で東京都には全国総人口の11.1%に当る1,087万人が居住し,周辺3県(神奈川県,千葉県,埼玉県)を含めて2,102万人となり全国人口の21.4%がこの地域に集中している。他方,大阪においても人口集中は進み,昭和40年で666万人となり,周辺一府二県(京都府,兵庫県,奈良県)を含めて1,390万人,全国総人口の14.1%となつている。昭和30年には東京圏(東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県)が1,542万人(対全国比17.3%),大阪圏(大阪府,京都府,兵庫県,奈良県)が1,095万人(対全国比12.3%)であつたから,この間に全国総人口が5%増加したのに対して,それぞれ36%,27%と大幅な増加となつている。この傾向は今後も続くものと考えられ,人口問題研究所の推計(メディアム値)によると,昭和60年には東京圏は全国の26.6%に当る3,088万人,大阪圏砥16.4%に当る工,908万人になると予測されている。
  こうした東京,大阪を中心とする地域における人口および企業の集中はある意味でわが国経済の高度成長をささえてきたともいえるが,そこに住み,働く人々にとつて決して快適な生活環境が確保されてきた訳ではなく,住宅難,水不足,通勤・通学難,公害,交通事故など住みづらさを増しつつある。
  今日,大都市における都市機能を維持するうえに交通・通信の役割がきわめて大きいことはいうまでもない。近代都市はいずれも交通機関の発展とともに地域を拡大してきたのであつて,たとえば東京の都市形成についてみるに 〔2−1−1図〕に示すとおり,その拡大地域は郊外鉄道網の建設と密接に関係していることが知られる。このことは今後の都市住宅地の拡散を交通網の整備の方面によつてかなり誘導することが可能であることを示唆しているといえよう。

  東京,大阪の都市圏の拡大は国内的および国際的な交通・通信網の発展にしたがつてますます拡大し,都市集積をいつそう高あることによつて人口および企業の集中をさらに強めてきている。同時にこれら大都市におけるちゅう密な交通網の整備は都市集積に必要な人と物の移動を容易にし,これによつて大都市に集中した人口および企業の経済活動を活発にし,その都市機能の経済効率を高め,日本経済全体の成長に大きく寄与することとなった。
  しかしながら,東京,大阪に見られるような急激な都市人口の膨張によつて交通需要は激増し,たとえば旅客輸送についてみると 〔2−1−2図〕に示すとおり人口の伸びを著しく上回り,地域によつては交通機関の輸送力も今やその限界をこえているところも見受けられるにいたつている。このため都市機能の停滞,低下にまで及ぶことが懸念されている。