むすび

  わが国は昭和42年,国の総生産額において西ドイツとならび,自由世界第2の規模となつた。のみならず,わが国経済活動の伸びる力は引き続き盛んであり,狭い屋上と乏しい資源というハンディキャップを克服して,なおいっそう成長する勢いにある。一方,このような急激な成長によるひずみが日本経済の内部において表面化しつつあり,今日,物価問題,労働力の問題,中小企業の問題あるいは資本自由化の下での国際競争力の問題が大きな問題として指摘されているが,これらと並び,この諸問題を背景とした輸送問題一特に物的流通の合理化と大都市交通の問題一がおこり,その解決が迫られている。
  (物的流通革新の方向)
  戦後20年は技術革新の時代といわれ,運輸活動の分野でもつぎつぎと新らしいアイディアの輸送手段と方式が導入されてきた。鉄道の分野では,東海道新幹線の登場,各種専用貨車とコンテナによる輸送の発達,電化とデーゼル化など,自動車の分野では,モータリゼーションの進展に伴う都市間および都市内高速道路の建設など,海運の分野では,商船の大型化,高速化,専用化,さらにコンテナ化など,航空の分野では,航空機の大型化,高速化など,過去においては数十年かかつてようやくなしえたような輸送革新が短い期間に導入されてきた。近年のわが国経済の高度成長と国際競争力の強化に果たした運輸部門の役割はきわめて大きい。たとえばわが国製鉄業,石油化学工業など,重化学工業は近年めざましい発展をみせて世界の注目を受けているが,その原村料,燃料およぴ製品の輸送技術革新による輸送費の軽減が,各産業の国際競争力強化に大きな貢献をしたとみられている。したがつて,この方向は今後ともますます進んでゆくであろうが,さらにこれら各輸送分野における個別輸送技術向上の成果を結集して,異なる輸送機関を一貢したインターモダルな輸送(協同一貫輸送)の方向へと進んでゆくことになろう。この面では,各輸送分野で偶々にはすでに実用化をみているコンテナあるいはパレット輸送の方式が有利性を特に発揮しうる見込みであり,その意味において,これまでの各輸送分野における努力の成果は,協同一貫輸送によつていつそう便益の向上をもたらすものと期待される。
  (都市交通体系の方向)
  一方東京,大阪の巨大都市の交通問題は,今日依然として解決を迫られている大きな問題である。今日まで,大都市交通をになう各輸送機関は,それぞれ長期拡充整備計画をたて,地下鉄網,高速道路網の建設,郊外電車の都心乗入れ,線増,電車の長編成化,運転時間の短縮など,輸送力の増強に努力を続けてきた。しかし,都市内の通勤通学時間帯における混雑,道路交通の渋滞,流通機能の低下の事態は,人口の都市集中とそれに伴う輸送需要の増大におされて,国民の期待ほどには緩和されず,また交通事故と公害の発生も増大してゆく方向にある。
  従来の都市交通対策のように,混雑のあるところを皮相的に追いかけては成果に限界があるので,今後は,交通が都市形成を体系付けるという考え方に立つて,大都市再開発問題あるいは周辺新都市建設問題と取り組むべきであると考えられる。それにはまず大都市の機能を最大限に発揮さ迂るために,都心,副都心,郊外部,都市周辺部など地域的な役割を明確にし,それぞれの地域機能を有機的に結びつける高速鉄道網,高規格の道路網の整備を,計画的かつ先行的におし進めることが必要であろう。
  (運輸基礎施設の整備)
  物的流通と都市交通の問題を含め,すべての運輸交通問題の解決に当つては,経済成長と生活水準の向上に見合つた運輸基礎施設(鉄道,道路,港湾空港およびこれらを有機的に結ぶターミナル施設等)の蓄積が必要である。
  わが国では,欧米諸国の例に徴しても,また,わが国経済の高度成長,社会開発のテンポに比べても,その蓄積が不十分であり,今後の整備・拡充が急がれる。特に物的流通の分野では,大幅な設備革新や物的流通ターミナルなど共同施設の設置,都市交通の分野では,高速鉄道網,道路網の建設が必要である。運輸基礎施設の整備には,巨額の資金を要するが,必要資金を確保してこれを効率的に運用しなければならない。資金の確保については,受益者負担の徹底や開発利益の還元の提案がなされており,また効率的な運用については,コスト便益比較のための計量経済学的な手法が提案されているが,今後物的流通革新と都市交通体系づくりを推進してゆくうえに国民の協力を得て各般の施策を講じ,その速やかな実現を期し国民の期待にこたえなければならない。


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