第2節 大都市交通の方向


  現在,われわれが解決を迫られている大都市交通問題を根本的に解決していくためには上に述べたような都市機能の分散,適正配置による都市構造の変革によらざるを得ないと考えられる。しかしながら,このような構造改革を一挙になしとげることは不可能であり,現実的になし得ることは将来の都市像へ一歩でも近づく方向で目前の問題を解決していくことであろう。このためには常に先行的な投資による交通網の整備によつて望ましい都市構造に誘導していく必要があろう。
  今後の東京,大阪という大都市圏における交通対策は,通勤・通学輸送ならびに今後都心部において増加する用務交通に対して地下鉄網および高速道路網の現行諸整備計画を遅滞なく実施するほか,面の輸送において公共輸送機関としてのバスの果たす役割を重視し,バス路線網の整理,再編成と優先通行の確保を行なう必要があろう。
  このためには自家用乗用車の都心乗入れを制限する必要がある。しかし,自家用乗用車の都心乗入れを全面的または用途別に交通規制という方法によつて制限することは技術的にも困難であるので,経済的負担を課することにより時間帯別,地域別に抑制しながら,一方において徴収した収入をもつて鉄道,バス等大量公共輸送機関の整備,郊外パーク・アンド・ライド用駐車場(駅前駐車場)の整備等都市交通機能の回復のための資金に充てることが検討されている。
  また郊外への諸機能の分散を促進させるためには,これら諸機能と都心部の業務機能との連絡を容易にする鉄道と高速道路を優先的に建設,整備を行なう必要があろう。物的流通機能については周辺部に流通センターを設置する現行諸計画の実施にあたつてインターモーダル・トランスポーテーション(協同一貫輸送)時代にふさわしい複合ターミナル構造をとり入れるとともに,その機能を十分発揮させるための連絡道路の整備を進めるべきであろう。このほか,従来くりかえしてきた住宅地のスプロール化と交通施設の追随的整備の悪循環をたち切るため,郊外新開発によるニュータウン建設にあたつては,通勤超高速鉄道を先行的に建設する必要があろう。
  また,東京,大阪がいずれも東京湾,大阪湾という世界にもまれな良湾を有しており,これを広域的に利用することについてはすでに港湾整備基本構想を策定しているが,広域的観点から計画的に利用することにより,海上貨物輸送量の増大に対処し,また必要な用地を造成するなど大都市圏の発展に果たす役割は大きいものがあろう。さらに,大都市のもつ国内的および国際的な中枢機能を考えるとき空港の整備も積極的にすすめるべきであろう。
  これらの都市交通の整備にあたつては,東京圏あるいは大阪圏という広域交通の見地から,総合的に判断された長期計画を検討し,各交通機関がこれに基いて計画的に行なわれなければならない。特に通勤鉄道の建設をはじめ各種の都市交通施設の整備には巨額の資金を要し,通常の資金調達方法では採算ベースに乗せることがきわめて困難である。運輸経済懇談会は,この問題について1年余りにわたつて検討を重ねた結果,次のような見解を得た。
  都市交通施設の整備を行なうにあたつては,長期低利の資金の確保等国の積極的な助成を行なうとともに,各種交通機関の基礎施設に対する投資財源を公共の必要性と便宜性を考慮しつつ最も効率的な輸送手段に重点的に用いるようにする必要がある。特に鉄道新線建設を行なうに当つては受益者負担制度を確立し,鉄道等の交通施設の整備により地価が上昇した場合には,地価上昇という形をとる開発利益の相当部分はその投資主体に還元されるような制度を確立する必要がある。
  この開発利益の吸収方策としては,(イ)宅地分譲価格に組入れる方法,(ロ)沿線の土地から負担金(または税)を徴収する方法,(ハ)沿線の土地の売買差益に対して課税する方法等が考えられ,これら各種の方策を有効に組合せて実施することが必要である。なかでも当面は(イ)の方法が最も実効的な施策と考えられるので,これを具体化する必要があり,たとえば鉄道建設主体と宅地造成主体の住宅公団,公共団体等が住宅地開発を一つの大規模プロジェクトとして採算上協同して実施していく方法,あるいは鉄道建設主体が鉄道路線用地と同時に,駅予定地周辺の未開地を買収し,これを分譲することにより,その差益を鉄道建設費に充当する方法等についてこれを具体化するための財政及び行政上の措置を検討する必要がある。
  この見解は都市交通問題の解決のためにきわめて多くの示唆を含んだものであり,今後の施策の進展にこれをどのように盛り込むべきか検討が急がれるわけである。

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