第2節 大都市における鉄道輸送力増強計画の問題点


  ここ十数年の,わが国の経済の発展と産業構造の高度化に伴い,都市とくに大都市圏への人口の集中はきわめて激しく,集積の利益を求めて都心部に企業の中枢管理機構などがますます集中し,昼間人口の増大は著しくなつている。しかも,住宅開発は輸送力の整備とは無関係に地価の安い遠隔地を求め,かつ大規模になつたためいわゆるスプロール現象を招いている。そのため通勤・通学輸送は長距離化し,かつ,朝夕に逆流する方通行的様相を強め,通勤時間の長大化,混雑の激化と鉄道輸送の効率の低下を招いている。
  しかし,一方,混雑の緩和および通勤・通学時間の短縮といつた快適な輸送サービスを求める社会的要請はきわめて強い。これに応えるために,郊外鉄道と地下高速鉄道との直通運転による乗換時間の短縮,駅間距離を長くするか急行運転することによる列車のスピードアップ,列車の編成両数の増大,運転間隔の短縮,線路増設による輸送力増強等により輸送サービスの向上を図る必要がある。これらの鉄道輸送力の整備により,住宅適地は飛躍的に拡大され,地価問題の解決の一方策ともなろう。
  このため,国鉄においては第3次長期計画により,総額5,190億円を投入し,通勤・通学輸送対策を推進し,また大手私鉄14社においては,昭和42年度を初年度とする大手私鉄輸送力増強等5か年計画を策定し,'約4,465億円の資金を新線建設,線路増設,ホーム延長等の輸送力増強対策とこれに対応する運転保安の同上対策に投入することとなつている。また,地下高速鉄道網の整備については,都市交通審議会の答申に基づき,東京・大阪は50年度,名古屋は60年度を完成目標として,都心部を貫通し,業務輸送需要にも応じ得る路線の整備を行ない,あわせて,その両端においては既設線との相互乗入れを行ない,スピードアップを図るとともに,乗換駅の混雑緩和を図るよう予定されている。
  これらの計画においては新たに大規模な用地を必要とする輸送基礎施設の根本的整備が必要となつており,輸送力増強対策は,今後ますますこのような傾向が強まることとなるが,これらの用地は鉄道沿線の地価の高騰した土地であることが多く,地主の売惜しみと相まつて用地取得を困難なものとし,工事の遂行上大きな障害となつている。この対策として,用地取得を容易化する公用制限制度,より強力な先行取得等の新しい制度を検討することが必要である。
  また,現在鉄道整備によつて近郊の地主や都心のビルディングの所有者等が多大の利益を得ているので,受益者負担金制度の確立に十分な考慮を払う必要があろう。
  また,輸送力整備は緊急の課題であり,かつ輸送基礎施設の整備は莫大な資金を要するにもかかわらず,鉄道事業は固定比率が高く,収益性の低い事業であるため所要資金の確保が困難であるので,長期・低利の巨額の資金が確保される措置が講じられなければならない。政府としても国鉄に対する財政投融資の確保および民鉄に対する開銀融資のあっせん等資金の確保に努めているが,事業者も資金調達能力を拡大するため経営基盤の強化をはかる合理化等の諸策を講ずる必要がある。
  次に,これまで都市周辺部での大規模な住宅開発や都心部での高層ビル等の大規模な業務用施設の建設といつた輸送需要を大量に発生させる大規模な開発が,輸送力の裏付けなしに行なわれ,鉄道は追随的にこれらのための輸送力の整備を要請されることが多かつた。すなわち,大規模な住宅団地などが開発され末端の輸送需要が飛躍的に増大すれぱ根幹の輸送力増強のため線増工事等を要することとなり,しかも地価の高騰した用地を取得して,輸送力整備工事を行なわなければならず,これらの工事の遂行をきわめて困難なものとしている。このような問題に対処するために,鉄道の輸送力整備計画と住宅計画等との一層の調整を図る必要があり,これは通勤・通学輸送と都市構造との理想的調和という観点から検討されなければならない。例えば都心に設置する必要のない学校や工場を大都市周辺に配置することにより通勤・通学輸送の一方通行的形態を解消させるようなことも,検討されなければならない課題であろう。

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