第3章 輸送構造変化と輸送対策の方向

  経済成長がもたらした輸送需要の量的拡大と質的変化,これに対応すべく各輸送機関が続けてきた輸送容量の増大と輸送近代化への努力の結果,今日の輸送構造が形成されてきたが,今後における経済社会の発展は輸送構造変化を一層急速に進展させていくものと考えられる。新全国総合開発計画をベースにして昭和60年の輸送量を推計すると昭和40年に比べて旅客人員で2.2〜2.8倍,貨物トン数で3.5〜4.1倍となるものと予想される。
  このような輸送需要の量的拡大とともに,貨物にあつては,重化学工業化,エネルギー革命の進行に伴い,輸送需要の品目別および地域構造の変化が進み,また物的流通コストの低減に対する要請が一段と強まるであろう。旅客にあつても,都市への人口集中に伴い,大都市における輸送需要の急増,過疎地域における減少が目立つとともに,情報化社会の進展による業務輸送需要の増大がみられよう。また生活圏,行動圏の拡大,時間距離の短縮への期待の高まりなど旅客輸送需要の質的変化が大いに進む方向にある。
  今日まで輸送需要の増大に対して交通関係社会資本の対応が不十分であつたため,鉄道における通勤・通学輸送の混雑,主要幹線における過密ダイヤ,道路における慢性的な交通渋滞,主要港湾および狭水道における海上交通のふくそう,空港および航空路における交通のふくそうなどあらゆる輸送分野にわたつて問題が生じつつある。このようなあい路現象は経済活動を阻害するにとどまらず,おびただしい交通事故・交通公害の発生によつて大きな社会問題となつており,このまま推移すれば今後予想される輸送需要の増大に伴つてますます深刻化するものと考えられる。
  こうした事態を解消するとともに,多様化する輸送需要の要請に応えて質の高い輸送サービスを提供するためには,産業活動および消費活動の水準にふさわしい輸送が確保されるように,国内総資本に占める交通関係社会資本のウエイトを適正ならしめるような投資を行なうとともに,さらに進んで均衡のとれた国土利用を図るために,先行的な交通関係社会資本投資について配慮すべきである。
  このような交通投資にあたつては,各輸送機関間を有機的に連絡させた協同輸送体制を推進し,国民経済的にみて合理的な輸送分担を形成させるよう,各輸送機関別に最も適正な投資配分を行なう必要がある。
  つぎに,輸送構造変化の進展に伴う運輸企業経営の在り方が問題となる。今日,運輸金業は一方では競争輸送機関の出現によつて輸送機関間,あるいは運輸企業間のサービス競争激化の時代を迎えるとともに,他方では運輸企業にとつて特に深刻な影響を受ける労働力不足の時代を迎えて,抜本的な体質改善の実行を迫られている。
  このような運輸企業自体の体質改善とあわせて,時代の要請に応じた輸送サービスの提供,交通施設投資の源資の確保の見地から,輸送機関に対する各種の事業規制や補助金その他の助成措置についても総合的に調整を進め,適切な施策の遂行が必要となる。これと併行して,現行の運賃料金制度やその価格水準についても,物価政策その他の政策との関連を考慮しつつ,その適正を確保することが必要であろう。
  運輸省はこれらの諸問題を解決することにより,各輸送機関をしてそれぞれの特性を最大に発揮させるとともに,新たな輸送需要の要請に応えるための体制を確立させ,明日の日本にふさわしい総合的な交通体系の形成を目指す考えである。


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