第1章 世界の観光

  国際観光は長年にわたつて高度の成長を続けてきているが,1967年から1968年にかけては 〔IV−1表〕に示すように低い伸びに止まつた。これは主としてヨーロッパにおける経済情勢の不安によるもので,1967年11月に実施された英国のポンド切り下げと海外旅行の制限措置,1968年のフランスのストライキ,経済危機,旅行制限が観光客の動きにかなりの影響を与える結果となつてあらわれた。また,世界最大の観光客といわれる米国人の海外旅行にも若干伸び悩みが見られる。

  1967年および1968年の観光客の受入状況を地域別にみると, 〔IV−2表〕に示すように,ヨーロッパ中東の伸びは両年を通じて悪く,また,中,北米地域が,1968年に減少を示したのが注目される。

  わが国が属する太平洋,アジア地域は,他の地域と比較して,もつとも観光客の成長の著しい地域となつている。1968年に同地域を訪れた観光客の総計は,前年を12%も上回る334万人に達し,他地域の不振にかかわらず依然活況を呈した。各国別の観光客受入状況は 〔IV−3表〕のとおりハワイ,香港,台湾の伸びが目覚ましい。太平洋地域の最大の顧客は,米国人観光客であるが,1966年頃からわが国の海外旅行者が著しく増加し,かつ,域内の観光往来も徐々に活発になりつつあるため,その相対的地位は低下しつつある。

  つぎに主要国の観光収支の状況をみると 〔IV−4表〕のとおり,カナダがモントリオール万国博覧会の開催により,1967年に一挙に55%の収入増をあげたのを唯一の例外として,1967年の伸びは,ほとんどの国において低率に止まつた。過去数年間増勢の著しかつたスペイン,ギリシア及びイタリーにおいて,観光収支の黒字が減少したのが特に注目される。

  1969年においてもヨーロッパの通貨危機は依然として続き,8月にはフランスフランの切下げが行なわれるなど状況は悪化しており,英国およびフランスの旅行制限も緩和されるに至つていない。したがつて,世界の観光往来の大宗を占めるヨーロッパの旅行市場が再び活況を示すまでには若干の時間が必要であろう。しかし,大幅な旅行収支の赤字からその動向が注目されていた米国は,ニクソン新政権が米国人の海外旅行制限を行なう意向はないと発表しており,また,グループ運賃を中心とする航空運賃の引下げの実施,1969年末に予定されているジャンボ・ジェット機の就航による大量輸送時代の到来など明かるい材料も多く,長期的には国際観光が今後も発展を続け,国民経済および国際経済におけるその重要性を増して行くことは確実であると考えられる。