第1章 海運の現況

  44年の世界経済は,世界的なインフレの激化,国際通貨不安の持続がみられたものの,主として,EEC諸国の景気の上昇に支えられて,引き続き拡大を続け,わが国経済もまた実質12.5%という高い成長率を示した。
  わが国の貿易量は,輸出3,683万トン,輸入3億8,773万トン,合計4億2,456万トンとなり,はじめて4億トンをこえ,貿易収支も36億9,900万ドルというこれまでの最高の黒字を記録した。
  わが国商船隊は,新海運政策の初年度にあたる44年度に計画造船247万総トンをはじめ大量の船舶が建造される等その整備が進められ,44年6月末における船腹量(100総トン以上の鋼船)は2,399万総トンで,わが国はリベリアに次いで世界第2位の商船保有国となつた。
  邦船の輸送量および運賃収入をみると,外国用船を含めてそれぞれ定期船2,292万トン,2,708億円,不定期船1億2,383万トン,2,711億円,油送船1億2,301万トン,1,315億円で,いずれも前年より著しい伸びを示し,運賃収入についてみると,定期船15.9%,不定期船16.6%,油送船13.7%と,それぞれ増加した。なお,外国用船は数年来増加の傾向にあつたが,とくに44年度後半に撒荷貨物を中心とした輸送需要の急増により大幅に増加したことが注目される。
  この結果,邦船積取比率は,輸入48.1%,輸出38.8%でいずれも43年より若干改善され,船舶の大量建造の効果をうかがうことができる。また,外国用船を含めた積取比率も,輸入60.8%,輸出56.1%と改善された。一方,海運関係国際収支は,8億8,400万ドルの赤字となり,43年よりわずか200万ドルではあるが赤字幅が縮少し,ここ数年来はじめて赤字幅の縮少をみた。
  海運企業の企業体力は,39年度から43年度にわたる再建整備計画の達成により相当程度回復し,財務内容は改善の方向に向つているが,収支状況をみると,主として定期船部門とくに在来定期船部門において貨物費船費等の費用の上昇が収益の伸びを大きく上回つており,利益率が低下してきていることが憂慮される。
  このようなわが国外航海運をめぐる環境はますますきびしさの度を加えつつあり,その前途には必ずしも楽観をゆるされないものがある。
  すなわち,石油,鉄鉱石,石炭をはじめとする輸送需要の予想を上回る急増は,これら物資の安定輸送の観点から商船隊のいつそうの増強を要請しており,これに対する資金手当,企業体力,造船能力等を含めて,新海運政策を再検討する必要性も提起され,また,世界の主要航路におけるコンテナ化は著しく急速なテンポで進められ,国際競争は一段と激化している。このほか,各国の自国海運育成策の強化,発展途上国の国旗差別政策の拡大等の国際関係,情報化の進展に対応した情報システムの導入等についても解決すべき問題が山積しており,さらに,港湾整備,船員の確保,船舶の安全の確保等もあわせて検討すべき問題があると考えられる。
  わが国海運が,これらの困難な問題をはらみながら,今後なお国際海運界において指導的役割を果たしつつ,国民経済に占める重要な使命を達成していくために,関係者のなおいつそうの努力が期待される。
  一方,内航海運の貨物輸送量は,44年度においても10%を上回る伸びを示し,輸送活動量において42%の比率を占めて国内貨物輸送の中で重要な役割を果たしており,とくに基幹産業と結びついた石油,鉄鋼,石炭等の大量専用輸送においては70〜80%の比重を担つている。41年からの内航海運対策の推進により,船腹過剰は是正され,また,合併,協業化等の集約も進められたが,さらに今後わが国経済における重要な使命を果たしていくためには,いつそうの近代化,合理化が期待される。
  また,近年におけるカーフエリー事業の発展はめざましいものがあり,海陸一貫輸送の観点から,海上のみならず貨物の流通体系全体の問題として,国内輸送におけるその位置づけが重要な課題となつてきている。