第1節 国鉄財政再建問題
国鉄財政は,近年,輸送構造の変化に伴う収入の伸び悩み,人件費の増嵩,資本経費の増加等により,39年度に300億円の赤字を計上して以来,年々悪化の一途をたどつてきた。
このため,政府においては43年5月以降運輸省において「国鉄財政再建推進会議」を開催し,43年11月に国鉄財政の抜本的な再建策と長期にわたる国鉄の能率的合理的経営方策に関する同会議の意見書が提出された。この意見書に盛られた施策を実行するため第61回国会において実収約10%増,改定率15%の旅客運賃改定を内容とする国有鉄道運賃法の一部改正案とともに「日本国有鉄道財政再建促進特例措置法」が提出され,成立した。政府はこの法律の規定に基づき44年9月12日田本国有鉄道の財政の再建に関する基本方針」を閣議決定した。基本方針は,財政再建推進会議の意見書の内容をほぼ全面的に織り込んだものであり,44年度以降10年間の再建期間中に国の強力な施策と相まつて国鉄の徹底した合理化近代を確実に実施することにより,少なくとも最終年度において償却後黒字を生ずるよう健全財政の確立を図ろうとするものである。国鉄においてはこの基本方針に基づき45年2月16日本国有鉄道の財政の再建に関する経営の基本的な計画」を定め,同月19日運輸大臣の承認を受けた。
再建計画においては第1に,業務の運営の基本方針として国鉄が将来の総合交通体系においてその役割を十分発揮できる近代的経営体制を確立するため,都市間旅客輸送,中長距離大量貨物輸送及び大都市通勤通学輸送の三つの分野に重点をおいて,近代化,合理化を行ない体質改善を強力に進め,管理体制の強化,職員対策等により全社的再建意欲の高揚をはかりつつ,職員,設備および資金を結集して再建の達成に万全を期すること,
第2に,収入の確保のための諸施策として,再建期間中の鉄道旅客輸送量の目標を48年度,約2,270億人キロ(対43年度23%増)53年度,約2,930億人キロ(対43年度58%増)とし,鉄道貨物輸送量の目標を,48年度,約740億トンキロ(対43年度43%増)53年度,約960億トンキロ(対43年度63%増)とし,輸送力増強及び輸送近代化施策の推進,運賃料金制度の合理化,販売システムの整備,関連事業等の整備を行なうこと,
第3に,業務の運営の能率化に関する諸施策として全駅数の約4割の合理化,非採算線区の道路輸送への転換,能率的勤務体制の確立,管理機構の近代化及び約6万人の要員縮減を行なうこと,
第4に,安全の確保策として,新技術の開発促進による鉄道の近代化,職員の管理体制の確立,指導訓練,適性管理等の徹底をはかること,
第5に,国鉄の投資規模を,おおむね3兆7,000億円(通勤輸送約5,500億円,新幹線約9,300億円,幹線輸送力増強約1兆1,400億円,合理化,近代化等約1兆800億円)を限度とし,再建計画の進ちよく状況に応じ,その前半に重点をおき,財政再建のための効果の高いものから実施すること,
第6に,損益その他に関し,将来の運賃水準の改訂については,政府の基本方針に定めるところによるが,収入の増加,経費特に人件費の節減に努め国の施策とも相まつて,再建期間の最約年度において償却後黒字を生ずるように健全財政の確立をはかること等を定めている。
国鉄では以上の再建に関する諸施策を実施中であるが,44年度収支実績では,収入面では,運賃改定の遅延,東名高速道路の開通による自動車への移転,定期旅客の減少等により鉄道旅客収入が予算に対し減少し,また,一次産品の減送等により鉄道貨物収入もまた予算よりも減収になつてきたのに対し,一方,経費については仲裁々定実施による人件費の増加等により予算よりも増加し,この結果,1,316億円の純損失が生じ,累積欠損額は4,137億円に達するに至つた。しかも45年度においては,安保自動延長問題を背景に鉄鋼業界の高額賃金獲得など賃金闘争が例年よりも活発で,国鉄においても,仲裁々定により1人当り基準内賃金を8.8%相当額プラス2,000円の引上げを行なうことになつたが(所要資金701億円),この金額は当初の予想を大幅に上回つたため,諸経費を一層節減しても,45年度の赤字額はさらに増大し,まことに憂慮すべき事態となると思われる。
今後の対策としては,国鉄がさらに一層の増収,合理化努力を続ける心要があることはもちろんであるが,企業経営としては成り立ち難くとも公共的使命から運営を維持すべき輸送線区については,国等が何らかの運営維持のための措置を講ずることが必要となろう。
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