むすび

  われわれはいま,鉄道,乗合バス,タクシーの公共輸送機関が,大都市においても,地方においても,国民生活に大きな比重を占めていること,しかし,これら公共輸送機関が経済社会の急速な変化に必ずしも十分対応できなかつたこともあつて,国民の足として満足すべき機能を発揮できないでいることをみてきた。
  地域の交通において,現在,各公共輸送機関ともそれぞれ大きな問題をかかえているが,公共輸送機関が,真に豊かな国民生活を築いていくうえにおいて,欠くことのできない生活基盤施設であり,日常生活の一部となつていることを深く認識しなければならない。国民の所得水準の向上に伴い,自家用乗用車など私的な交通手段はいつそう普及し続けるものと考えられるが,こうした私的な交通手段をもちえない地域住民の日常生活のために不可欠のミニマムとしての公共交通サービスを維持確保するとともに,さらに進んで,より安全,正確,迅速,随時,大量,快適,低廉な交通サービスを提供する豊かな交通を実現するため,公共輸送機関の健全な発展のための方策が進められる必要がある。
  われわれはそのための方策の方向として,第3章第2節にその一端を示したが,これらの実施に際しては,さらに次のような配慮が必要である。
  まず第1に,生活環境の保全をはかることに留意しなければならない。地域社会に多大な利便の増大をもたらしている交通は,一方でその量的な増大に伴い,騒音,排出ガス等による公害や,年間100万人に近い死傷者を出している交通事故等の増大をもたらし,生活環境の悪化の要因となつている。今後は,人の生命,健康にかかるこれらの害悪の除去を最優先に栂策を進めていかなければならない。
  第2に,地域交通の再編に際しては,その地域の全体的な地域計画の中で,これと一体性をもつた交通システムを確立していくことである。過密・過疎の弊害を除去して,国土の均衡ある発展を可能にするためには,生産機能の再配置,観光開発や地方都市における都市機能の充実を促進させる施策を講じなければならないが,輸送機関はその不可欠の要素として,戦略的に整備する必要がある。
  第3に,交通計画に地域住民の意向を反映させることである。地域交通は,地域住民の日常生活の一部であり,その利用範囲がおおむねその地域の住民に限定されるものであるので,輸送機関の選択やその維持の方法などは,日常生活の足の問題として,地域住民の意志を尊重することが必要である。ただ,大都市においては,都市空間の制約から,政策による需要の誘導,現制が必要となるが,その際にも,住民の納得をえられるものでなければならないことはいうまでもない。
  以上述べてきたことは,いずれもその実行には多くの困難を伴うことが予想されるが,真に豊かな国民生活を可能にするための基本的方策となるものであり,運輸省としてはその実現のために最大限の努力をはらつていく考えである。


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