総論
第1部 昭和46年度の運輸経済

  46年度のわが国経済は,45年秋からの景気後退が続き,6〜8月の回復のきざしも,8月15日に発表された米国の新経済政策とその後の国際通貨不安により再び低迷状態となつた。その後,公定歩合の再引き下げ,公共事業を中心とする補正予算による景気振興策,12月18日の多角的通貨調整の決定等で景気はしだいに明るさをとりもどしてきた。しかし年度を通しては停滞ぎみに推移したため,国民総生産は前年度比で名目10.8%,実質5.9%の増,鉱工業生産指数も4.4%増にとどまつた。一方,個人消費支出は,名目13.1%,実質7.1%の増であり,給与所得等の伸びにささえられ概して順調に推移した。また,46年度のわが国貿易は,国内景気の低迷により輸出圧力が増大し,輸出は前年度比24.1%増となったが,輸入は原材料等を中心に伸びが減退し,4.7%増にとどまった。この結果,貿易収支は84.6億ドル,総合収支でも80.4億ドルの大幅黒字を出すにいたつた。
  このような経済情勢を反映して,46年度の運輸経済は,国内貨物輸送量の伸びが大幅に鈍化し,総合輸送活動指数は314.8で,前年度比93%増と6年ぶりに10%を下回り,低調であつた。このうち,国内輸送活動は,旅客が13.5%の伸びを示したが,貨物が4.2%の伸びにとどまつた結果,9.2%の伸びであつた。国際輸送活動は,旅客が前年を上回る17.4%の伸びを示したが,貨物が10.4%の伸びとなり全体で11.1%の伸びであつた。
  46年度の運輸経済,運輸政策の動きをみるとき,内外の経済社会情勢を背景として・次のような特徴をあげることができる。
 (1) 貨物輸送は,景気低迷により,大幅な伸び率低下となった。とくに,鉄鋼・石炭の減産,石油生産の鈍化により,これら大量物資の輸送を主とする内航海運の受けた影響は大きい。このため,従来,国内貨物輸送トンキロで4割以上を占めていた内航海運のシエアは,38.4%に低下し,34年度以来確保してきた首位の座を自動車にゆずることとなつた。
  内航海運は,現在このような輸送量の減少により船腹過剰に陥り,不況に苦しんでいるが,今後の国内輸送における内航海運の果たすべき役割は依然として大きいことが考えられ,したがつて内航海運業の企業体質の強化が重要な課題となつている。
 (2) 低迷の貨物輸送のなかにあつて,フレートライナー,長距離フェリ一,トレーラ等の輸送需要は急速に伸びている。これら輸送需要の増大につれ,フレートライナー網は46年度末で19区間となり,長距離フェリーも47年7月末で15航路に達するなど,ほぼ全国的ネットワークを完成し,さらに高速道路網の整備の進展と相まつて協同一貫輸送はいまや幹線輸送体系として定着してきている。協同一貫輸送の接点としてのターミナルの役割は大きく,複合ターミナルを含め,ターミナルの整備が緊急の課題となつている。

 (3) 46年度は,わが国の基本政策の方向が高度経済成長から豊かな福祉社会の形成へと大きく転換した年である。運輸部門は,豊かな福祉社会の形成の基盤の1つとして,その整備が急がれている。
  かかる観点から,46年7月に運輸政策審議会が運輸大臣の諮問に対し,「総合交通体系に関する答申」を出し,また,12月に臨時総合交通問題閣僚協議会により「総合交通体系について」と題する総合交通政策が決定されるなど,豊かな福祉社会の建設を目指して総合交通政策が第一歩をふみだすこととなつた。
 (4) 近年,大気汚染,海洋汚染等の公害による生活環境の破壊が著しく,市民生活の脅威となっている。これらにかんがみ,大気汚染防止としては,45年7月運輸技術審議会の答申「自動車排出ガス対策基本計画」に基づき,46年度に道路運送車両法等を改正し,自動車排出ガスの規制の強化を図り,海洋汚染防止としては,45年12月に画期的な「海洋汚染防止法」を制定するとともに,46年度に監視と取締りのための組織,人員の充実強化を行なうなど,公害防止対策が着実に進められた。
 (5) 輸送需要の増大とともに増加を続けてきた交通事故は,安全対策の進むにつれ,このところ事故件数は減少してきている。交通事故のほとんどを占める道路交通事故は,46年には死者数,負傷者数とも戦後はじめて前年を下回り,47年前半でも減少するなど明るいきざしがあらわれてきた。しかし,46年7月に連続して2つの大航空事故が発生したほか,46年10月の近鉄,47年3月の国鉄総武線等の列車衝突など運行側の責任である大事故が発生するなど,新たな問題を生じさせている。
 (6) 46年12月18日の10か国蔵相会議によって,多角的通貨調整が実現し,わが国は1ドル=308円の新基準レートを適用することとなった。このため,海運,造船は,為替差損の影響をまともに受けるほか,西欧諸国に比べ3〜8%円の切上げ幅が大きいことからくる国際競争力面での影響をも受けることとなつた。
  政府はこの為替差損に対する対応措置をとることとしたが,今後,国際協調を保ちつついかに競争力をつけるかが両業界にとつての大きな課題となつている。