第2章 運輸における生活環境改善の努力

  これまで述べてきたように,生活基盤としての運輸について各方面で様々な充実化への努力がなされてきており,ある程度の成果を収めてきた。しかしながら,市民が日常肌で感じる交通環境は通勤難,交通事故,公害など暗い影におおわれ,とても充実したものといいえないというのが実感であろう。この原因としてはわが国の経済発展パターンが民間設備投資中心であつたために,社会資本の整備が相対的に遅れをとり,各方面で歪みを生じてきたこと,この歪みは典型的な社会資本である運輸において最も顕著に現われていることを第一にあげねばなるまい。
  交通関係社会資本ストツクの不足は交通資本係数の逐年の低下にもつとも端的に現われている。交通問題を激化させたもう1つの要因として都市化の進展に伴う人口の都市集中があげられる。都市部への人口の集中はめざましく,国土の2%にも満たない人口集中地区に住む人口の比率は,35年に43.7%であつたものが,45年には53.5%と大幅に増加した。これを人口密度の国際比較でみても,1平方キロメートルあたり,東京(23区)14,600人,大阪14,500人,ニューヨーク6,400人,パリ8,600人と東京,大阪の人口密度は著しく高い。
  このため,大都市の通勤難,交通事故,交通公害,道路混雑は激化し市民生活は大きな脅威にさらされている。他方,人口の都市への流出の結果過疎問題が深刻化し,交通需要の減少により赤字経営に陥る交通企業が続出して住民の足の確保が大きな問題となっている。
  市民の側では,このような現状をどう受けとめているかを経済企画庁が47年5〜6月にかけて行なつた「国民選好度調査」で見ると,経済成長のプラス面とマイナス面との国民の評価については,生活全般について満足するものが55%と過半数を占めており,自然環境に満足しているものも59%と多いが,個別にみると,各種公害で日頃迷惑を受けていると答えたものは多く,騒音に関しては45%と最高で,ついで振動が34%となつている。また,交通事故に関しても46年夏東京都が行なつた「都市生活に関する世論調査」にはつきり現われているように,生活環境に対する不満のうち第1位を占め,生活の安全をいかに脅かしているかがうかがえる。


第1節 交通公害対策

第2節 交通安全対策

第3節 都市交通の混雑緩和

第4節 過疎地域および都市周辺部の足の確保