第1章 海運の現況

  昭和46年のわが国経済は,45年後半より引き続き景気後退を続けてきたが,46年8月の米国の新経済政策の発表およびその後の国際通貨不安により,さらに混迷の度を強め,年間を通じる実質成長率も,5.7%と6年ぶりで10%を割つた。このような国内景気の停滞を反映して輸出圧力が働いたため,輸出は5,012万トンと前年に比べて25.2%増加したが,輸入は4億8,919万トンで,前年比4.6%という低い伸びに止まつた。
  このような貿易活動は,わが国の外航海運にも大きな影響を与えた。外国用船を含めた邦船輸送量は,輸出で2,604万トンで前年に比べ19.0%増加したのに対し,輸送量の大きい輸入は3億1,892万トンで,8.2%の増加に止まつたため,総輸送量は45年が対前年比27.5%増加したのに比べて13.9%の増加であつた。また,邦船積取比率も,貿易量の伸びのは行状態を反映して,輸出で前年に比べて2.6ポイント減少して52.0%,輸入で前年に比べて2.2ポイント増加して65.2%となつた。46年の海運関係国際収支も輸入の伸び悩みと計画造船を中心とする船腹拡充によつて外国船へ支払う貨物運賃が減少したことなどにより,前年に比べて3億3,000万ドル赤字幅が縮少した。
  わが国商船隊は,44年6月末に実質的に世界第一の船復を保有することとなり,46年6月末には3,000万トンの大台をこえた。しかし,世界的な景気後退を背景とする46年,当初来の運賃市況の低迷,わが国景気の後退による輸入の伸悩み,通貨調整などの悪環境が重なり,運賃収入に大きな打撃を受けたことにコストの上昇が加わり,46年度における外航海運企業の業績は,45年度のブームから一転して大きく悪化した。47年度のわが国海運企業は,運賃市況の低迷と景気の後退に加えて,円切上げによる国際競争力の低下,長期にわたつた船員ストの影響等により,さらに厳しい環境に追いこまれることとなろう。
  さらに,自国海運の育成のため,海運活動に対する国家介入を強めようとする開発途上国の要求や海洋汚染防止のための諸条約の制定など海運をとりまく情勢は大きく変化しつつある。
  一方,内航海運についても,鉄鋼,石油,石炭などの特定の大量物資を主として輸送しているため,景気後退の影響を大きく受けた。このため,46年度における輸送量は,3億1,800万トン,1,277億トンキロで,前年度に比べてトン数で6.9%,トンキロで10.4%の大幅な減少となつた。内航海運のトンキロベースのシエアも40%を割り,自動車に首位の座を譲ることとなつた。とくに,鉄鋼や石炭などの輸送量の減少の影響を受けた一般貨物船業界において臓,船腹過剰に陥り,長期の不況に著しんでいる。
  内航海運が基幹的な輸送機関として担うべき役割は,長期的にみれば経済規模の拡大に伴い,なお一層増大することが予想されるため,このような景気変動を受けやすい企業体質を改善し,安定した輸送力を確保する必要がある。このため,海運組合活動の合理化による調整機能の充実と企業基盤の強化をはかる企業体質改善対策がとられることとなつた。また,当面の船腹過剰対策としては,47年度に船舶整備公団を通じて共同係船に15万重量トン分12億円,解撒に5万重量トン分10億円が融資されることとなつている。
  46年度の海上旅客輸送量は,1億7,800万人と前年度に比べて2.6%増加した。このうち,フエリーによつて輸送される旅客が大幅に増加しているのに比して一般旅客の輸送量はほとんど横ばいとなつている。
  近年におけるフエリー事業の発展はめざましく,47年3月末現在では,197航路に395隻,33万9,000総トンのフエリーが就航するに至つている。とくに,航路距離300km以上の長距離フエリーは,47年7月末現在15航路となり,29隻の船舶が就航しているほか,開業準備中のものが10航路あり,ここ1〜2年の間に全国の主要地域を結ぶこととなつた。今後は,総合交通体系の一環として他の輸送機関との調整をとりながら,質的な充実をはかつていく必要があろう。