第2節 大都市における鉄道網の整備について


  大都市圏においては,集積の利益を求めて都心部に立地する事業所の増加傾向はいぜんとして衰えていない。一方,これらの事業所の増加に対応して大都市圏に集中する人口は,地価が比較的安くかつ,生活環境が比較的良好な遠隔地に定着する傾向にある。このため,大都市においては,通勤通学輸送需要の激増に伴う混雑の緩和,さらには大規模住宅団地の建設に伴う居住者の輸送手段の確保等の交通問題が深刻な問題となつている。
  このような状況のなかで,都市鉄道のうち大都市の私鉄および国鉄は主として既設線の列車編成の長大化,列車本数の増加等可動施設を中心とする輸送力の増強を,交通営団および地方公共団体は主として地下鉄新線の建設を行なうことにより,通勤通学輸送需要の増大に対処してきたが,主要線区における混雑は依然として激しいものがある。さらに,今後とも従来のように大都市圏における人口集中傾向は続き,東京圏,大阪圏および名古屋圏の人口は,それぞれ昭和60年には40年の約1.5倍の2,900万人,2,000万人,1,000万人に達するであろうと予想される。このような輸送需要の増大に対処するためには,既設路線の列車編成増および列車本数の増加を極力進める必要があるが,これによる輸送力の増強には限界があるため,既設路線の複々線化を含めて大都市中心部と郊外部を結ぶかなりの数の鉄道新路線を建設することが必要である。
  東京圏,大阪圏,名古屋圏における具体的な必要路線については,都市交通審議会において,昭和60年における放射状鉄道各路線の最混雑区間のラツシュ1時間の平均混雑率を定員の150%以下にすることを目途に検討を続けてきたところであるが,46年12月に大阪圏,47年3月に東京圏および名古屋圏について答申がなされた。
  これらの路線の整備については,種々の困難が予想きれるが,とくに,現在,大都市における鉄道の建設費は,地下鉄の複線鉄道の1km当り建設費が50〜90億円にもおよぶため,このような巨額の投資に要する資金調達の困難性と,その投資から発生する金利および減価償却費の増大による収支の悪化が最大の問題である。収支の悪化については,従来物価上昇抑制策のもとに低位に抑えられてきた運賃を極力適正化することにより,その改善を図るべきであるが,利用者に建設費用の全てを負担させることは困難である。このように,鉄道の輸送力増強投資は非採算的であるので,民間資金が導入されるのを期待するのは困難である。このため,都市における中枢管理機能の維持のために必要な通勤輸送の確保および都市住民の生活環境の改善という見地から,新線建設,複線化工事等の促進に資するため,国鉄および鉄道建設公団に対しては金利負担の軽減を図るよう利子補給金が交付され,交通営団および地方公共団体に対しては地下鉄建設費の50%相当額が国および地方公共団体から折半して交付される等,公的団体が行なう都市の鉄道整備に対しては,従来から,いくつかの助成措置がとられている。一方,これら公的団体の建設する鉄道と大都市の通勤輸送を担うという点において機能的になんら差異のない民鉄に対しては,従来から輸送力増強に関する工事について開発銀行からの低利融資が行なわれているだけであり,このような助成のみでは今後必要と思われる輸送力の増強投資と私鉄事業者の負担力から考えて十分なものではない。このため昭和47年度から大都市およびその周辺の民鉄に係る鉄道施設の建設,改良を鉄道建設公団に行なわせ,完成後同施設を私鉄事業者に長期低利の条件で譲渡する助成措置を講じ,鉄道の整備を促進することとした。
  なお,ニユータウン乗入れの鉄道新線の建設については,極めて先行性の強い投資であつて,入居者が少ない時点から営業を始めなければならないことなどにより初期の赤字は膨大な額に達するので,鉄道整備の原因者たるニユータウン造成者に工事資金の一部を負担させることとした。
  しかし,これらの措置を講じたうえで大都市における鉄道の整備が全うされたとしても,一日のうちわずか数時間に,しかも一方向に需要が集中し,それ以外の時間帯においては遊休設備の生ずる通勤通学輸送というものは,効率という見地からは問題が残る。これに対しては,現在行なわれている時差出勤もある程度の効果はあつても企業活動への制約等から限度があり,根本的な解決とはなりえず,究極的には,事務所,工場,学校,流通施設等の都市機能の分散を図り,特定の地区への通勤者の集中を防ぐ以外の方策はなく,都市そのもののあり方について,総合的かつ高度の検討を進める必要があろう。

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