1 経営状況


(1) 概説

  わが国造船業の企業数は,約1,300社あつて,この内いわゆる大手中核企業の7社と中級企業の7社で総生産額の大部分を占めており,残りを資本金5,000万円以下または従業員300人以下の中小企業で生産している。なお,この中小企業は,総トン数3,000トン未満の船舶の建造または修繕の能力を保有するものに属しており,さらにこのうちの約500社は木造船の建造,修繕を主に行なう従業員30人以下の小企業である。
  46年度は,不況傾向にもかかわらず,中小造船業を除いては2〜3年分の工事量を保有していたため比較的経営は安定していたが,通貨調整に伴い約2,400億円の為替差損を生じ,これまでの内部留保額に大幅にくいこむこととなつた。そのほか不況の影響による国内船の受注減少傾向および通貨不安に伴う輸出船受注の減少等造船工業は厳しい事態をむかえている。

(2) 財務状況

 イ 大手造船業

      46年度における主要大手造船会社10杜の売上額は,1兆9,699億円で45年度比較では約9.8%の増加となり,営業利益では1,759億円で45年度より約13%の増加となつている。
      これを 〔II−(IV)−2表〕の比率でみると総資本収益率では42年度下期の2.6%から遂年横ばい状態を続け46年度下期には2.8%(一般製造業では3.4%),自己資本収益率では42年度下期の18.9%が46年度下期には27.8%(一般製造業では16.3%)になつている。

      これは,比較的高船価の受注が続いたことによるものであって大手造船業は大体3年程度の工事量を保有しているため,急激な不況に対してもにわかにその影響は受けず,期間的なずれを生ずるのが特徴となっている。
      しかるに,46年度下期(12月20日)における円の切上げにより約2,400億円の為替差損を受けることとなり,これまでの内部留保額のほとんどをこの差損補填に充てなければならないこととなつた。
      この通貨調整を予測して業界では既にドル建契約を積極的に縮減して円建契約に移行することとしていたが,これまでの長期外貨建債権を多額(約2兆円)に保有しているため,この円建契約による差損の回避は効果が少なかつた。つぎに,金融のうち,外貨の借入れであるが,造船所の建設資金の一部に充当する目的で,46年度は約7,250万ドルの借り入れを行なつているが,国内金融の緩んでいるにもかかわらず借り入れが増加しているのは企業が国際的であるため,外国銀行の信用を得ておくことの有益性の他に多大の長期外貨建債権を保有することに対処して,外貨建債務を保有することによつて為替リスクを軽減しようという目的からと考えられる。

 ロ 中小造船業

      総トン数3,000トン未満の船舶の造修を主として行なつている中小造船業者990企業の46年度の生産額は,前半においては,前年に引きつづき活況を呈したが,後半においては,円切り上げ及び内航船舶建造規制等の影響を受け,前年比4%増の1,654億円にとどまつた。
      その内訳をみると,鋼船部門では,内航,近海外航の貨物船および内航油送船の売上げが,対前年比12%減の371億円と大きく後退し,漁船については,対前年比4%の179億円,またはしけおよびその他の船舶の売上高も対前年比4%増の366億円となつている。一方木船は近年の小型船の鋼船およびFRP(強化プラスチツク)化が定著し,対前年比3%減の38億円となつている。
      これら中小造船業の収益状況は 〔II−(IV)−3表〕に示すとおりである。45年度の総資本収益率等各種収益率は44年度に比較して上昇しているがこれは45年度までは比較的好況に恵まれたためである。しかし46年度後半から不況の影響が出はじめ,内航船,近海船を中心として受注が激減してきている。元来,小資本である中小造船業は大手造船業よりも総資本収益率,自己資本収益率が高く,受注量が確保されれば経営が安定するものであるが,大手造船業が約3年分の手持工事量を保有しているのにくらべて平均約1年分の手持工事量を確保しているにすぎず経営不安の事態を迎えつつある。

(3) 労務状況

  造船業も他産業と同様に慢性的な労働力不足が続いているが,とくに若年労働力の確保は困難となつている。このため,省力化のための機械化や合理化を行なうことは勿論,労働者の定着化を図るために職場環境の改善,処遇改善等を積極的に進めており,さらに作業工程の分割として下請企業の活用を行ない労働力不足を補つている。
  また,賃金の状況は,46年後半からの不況傾向にもかかわらず,47年春闘の結果は,上昇率において昨年を下回つたものの比較的に高い水準で妥結し,大手と中小の賃金格差は逐年小さくなる傾向にある。
  なお,47年の賃上げ状況は,定期昇給込みで大手が平均11,632円で17.1%の上昇率(前年度は11,000円で18.9%),中小が平均11,560円で18.2%の上昇率となり平均では11,592円,上昇率は17.7%となつているが逐年上昇する労務費を経営の合理化で今後どこまで吸収してゆけるかが課題である。


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