昭和47年度の我が国経済は,前半のゆるやかな回復から後半の急上昇へと急激に展開し,特に48年に入る頃からは過熱的様相をさえ呈するに至り,年度を通じた実質成長率は12.0%と再び10%台に立ち戻つた。このような回復基調下にあつて47年の貿易は金額ベースで輸出入ともかなりの伸びを見たもののトン数ベースでは輸出4,958万トン,輸入5億1,288万トンと前年に比べそれぞれ1.1%減,4.8%増と伸び悩んだ。
このような貿易量の伸び悩みの中にあつて,我が国の外航海運の輸送量は47年4月から3か月続いた海員ストライキの影響などにより,外国用船を含めた邦船輸送量は輸出では2,440万トンで前年に比べて6.3%減少し,輸入でも3億2,090万トンで0.6%増にとどまつた。このような状況から邦船積取比率は輸出,輸入とも低下し,それぞれ28.7%,41.9%となつた。このような積取比率の低下や外国用船の増加による用船料の支払増などにより海運関係国際収支は8億4,400万ドルの赤字となり,前集に比べて7,940万ドル赤字幅が増大した。
我が国商船隊は,その船腹量を更に増加させ47年年央で約3,500万総トン(うち外航船舶約2,900万総トン)と世界の船腹量の13%を占めている。しかし,相次ぐ通貨調整,船員費をはじめとする諸経費の高騰などにより,我が国商船隊の国際競争力はとみに低下しつつある。我が国外航海運はコンテナ船等の部門で利益をあげているものの業績は全体的に悪化の傾向にあり,特に在来定期船部門の不採算が著しい。
また,我が国海運をとりまく国際的な動きには,開発途上国による国旗差別政策の採用や定期船同盟憲章制定の動き,領海の幅員,国際海峡における無害通航の問題などを内容とする海洋法の再検討など従来の海運自由の原則に対する批判的な動き,更には海洋汚染防止にいかに対処していくか等の問題があり,我が国海運は,いま厳しい国際環境の中に立たされている。
このような国際環境の変化や,我が国経済政策の福祉指向型への転換などを受けて,従来の「改定新海運政策」について見直しが必要になり,47年9月運輸大臣から海運造船合理化審議会に対し,今後の外航海運対策について諮問され,48年1月当面の対策について中間答申が出され,長期的な海運対策については更に審議が継続されている。
次に内航貨物輸送については,47年度全体としては前年からの景気後退の影響を受け,輸送量は前年度に比べほぼ横ばいに推移し,トンキロベースのシエアも前年度並みにとどまつたが,年度後半から輸送は次第に活発化し,漸く45年秋以来の低迷から脱却しつつある。内航海運企業は零細なものが多く,業界の構造も二重,三重であつて企業体質が弱く,そのため景気変動の影響を受けやすい。しかしながら,内航海運は,その長距離,大量,低廉な輸送という特性を生かし,今後とも経済規模の拡大に伴つて重要な役割を担うものと考えられ,そのため安定した輸送力を提供しうるような体質を持たねばならない。そこで,このような企業体質を改善するため,46年以来構造改善対策が行われているが,なお,事業者自らによる輸送システムの近代化,合理化への対応の努力が必要であろう。
47年度の海上旅客輸送量は前年度に比べて5.2%増加し,更に人キロでは23.2%増と著しく伸びている。これは主として中長距離フエリーの新規航路開設とそれに伴う輸送量の増加によるものである。すなわち中長距離フエリーは,ほぼ全国的なネツトワークを整えるに至つており,今後は総合交通体系の一環として他の輸送機関との調整をとりつつ質的な充実を図つてゆく必要があり,特に海陸一貫輸送方式による物流近代化の担い手としての役割が期待されている。一方,中長距離フエリー以外の航路の人キロは,むしろ漸減の傾向すら見せており,特に離島航路については,離島の過疎化現象による需要の減少により経営は悪化し,赤字航路が増加している。
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