2 交通渋滞と集配効率の低下


  前述したとおり東京都市圏の域内貨物輸送量の93.6%はトラツクにより行われており,圏外との発着量においても45.4%はトラツクが占めている。鉄道,船舶等により流出入する貨物であつても,末端輸送は自動車に依存せざるを得ず,大都市物流問題はとりも直さずトラツク輸送をめぐる問題であるといつても過言ではない。
  しかし,この巨大都市物流の重要な担い手であるトラツクも,道路交通事情の悪化のために,その効率は急速に低下しつつある。東京都における道路の交通渋滞をみると,47年では信号待ち2回以上の渋滞は1日平均の延べ時間にして783時間と40年の3倍に増えており,また,1日平均渋滞時間8時間以上という最も渋滞度の高い交差点も19か所と44年に比べ倍増している。このような数字にみられるごとく,主要道路での交通混雑はますます深刻化し,慢性化しており,地域的には都心より都市周辺部での混雑激化が目立つている。
  かかる交通混雑,渋滞の原因は,マイカーを主とする自動車の激増にあるが,これとうらはらの問題として道路容量の不足が指摘される。 〔3−9図〕にみるとおり東京,大阪といつた大都市においては,自動車台数に比べ道路網が貧弱であり,これがモータリゼーシヨンの普及とともに,交通事情を悪化させている。また,東京をニユーヨーク,ロンドンと比較してみると, 〔3−10表〕に示すように,人口密度,自動車保有台数では似通つているが,道路面積では,ニユーヨーク,ロンドンは,総面積のそれぞれ30.0%,23.0%を占め,自動車1台当りの道路面積でも140.9m2,167.2m2となつているのに比べ,東京では総面積の12.3%が道路で,自動車1台当りの道路面積は40.1m2とはるかに劣つており,自動車台数が急増している割に道路整備が立ち遅れていることが目立つている。

  かかる道路容量の不足による交通混雑が集配効率に与える影響は多大であり, 〔3−11表〕にみるごとく35年から47年までにトラツクの1日1台当りの運行回数は半減し,輸送トン数は約6割に低下している。またトラツク1台1運行当りの所要時間は2.5時間から3.9時間へと増加している。

  このような集配効率の低下に起因する集配コストの上昇は著しく,路線トラツクの場合,地域間の運行コスト(集配,ターミナルコストを除く)に比べて都市内の集配コストは急上昇している。また経済企画庁が実施した物流費用実態調査でも 〔3−12図〕にみるとおり,メーカーから卸売又は小売への輸送費は低減ないし,横ばい状態であるのに対し,卸小売段階での輸送費が急上昇しており,域間を主とし大ロツトで行われる輸送に比し,域内を主とし小ロツトで行われる集配輸送のコスト上昇を裏付けている。

  このように都市内の交通混雑により物流環境は悪化しつつあるが, 〔3−13図〕でみるとおり,運輸経済研究センターの試算による東京都における車種別の交通混雑に対する寄与率では,乗用車59.4%,トラツク36.9%となつており,トラツクの寄与率も小さくない。つまり,都市内輸送効率の低下は,トラツク自身がその原因となつている面もあり,それを補うため更に車両を増備すればする程,道路事情が悪化するという悪循環の要素もある。これに加えて,排気ガス,騒音,振動等の沿道住民に与える交通公害も深刻化し,なかでも振動,騒音の大きいトラツクに対する風当りは強い。

  このため,大型自動車の都心部通行規制をはじめとする交通規制が強化されてきており,これがまた都市の輸送効率低下に拍車をかけている。
  もとよりこのような輸送効率の低下を道路等施設の整備のみによつて食い止めようとするのは現実的でなく,これと併行して必要度の少ない自動車走行を道路容量に見合つた水準に抑える努力が必要なことはいうまでもない。
  しかし,消費生活の高度化,都市再開発,住宅建設等に伴つて増大する物流は,都市生活維持の基盤であり,これをたとえば輸送需要との均衡を無視して抑制することは,物価上昇を招くほか,ついには大都市における物資の安定供給の破たんとなる恐れもある。
  大都市物流問題は,都市が巨大化したにもかかわらず,各種物流施設が相変らず都心部に存在することなど,都市機能の未分化,交通基盤施設の不備など現在の都市形態に起因するものが多い。そこで,これからの物流対策としては,自動車交通に付随する外部不経済を充分考慮した形で,道路,トラツクターミナル,集配拠点といつた基盤施設を都市計画との充分な整合性を図りつつ充実させていく一方,既存の施設を最大限に効率的に活用するために都市内集配システムを確立するなど物流の円滑化,合理化を図らなければならない。更に長期的には,交通基盤に重点を置いた総合的な都市再開発,新貨物輸送システム(ベルトコンベア,チユーブ輸送等)の開発等が必要であろう。


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