第4章 港湾における環境の整備及び安全の確保に関する法制の整備

  我が国では港湾を中心とする臨海部に工業生産機能の大規模な集積がなされてきた。この工業化の進展は更に港湾背後地の都市への人口集中を促し,港湾は都市発展の原動力としても重要な役割を果たしてきた。
  しかしながら,経済諸活動が港湾を中心とした臨海部へ集中したことにより水質汚濁,大気汚染,廃棄物の増大等の公害が発生する一方,従来の港湾投資が限られた財源の枠の中で港湾機能の整備充実に重点をおいて行われたため,公害の防止,環境の保全に対する配慮が必ずしも十分になされなかった。このため,港湾背後地域の住民が快適な生活を享受できるよう港湾をめぐる生活環境の整備が急がれている。
  更に,港湾内における労働環境の改善も,産業,流通基盤を支える上で不可欠である。
  以上のような情勢のもとで,港湾における環境の保全を図り,安全かつ快適で能率的な港湾を実現するため,昭和48年7月,第71国会において港湾法等の一部改正が行われた。そのうち環境の保全に関する主な内容は次のとおりである。
 (1) 水域の清掃,沈廃船の除去,廃棄物埋立護岸等の管理運営等を港湾管理者の業務として明示した。
 (2) 公害防止用緩衡地帯等の港湾公害防止施設,廃棄物埋立護岸等の廃棄物処理施設,緑地等の港湾環境整備施設を港湾施設に追加し,これらの港湾施設の建設又は改良に要する費用について,国が補助することとした。
 (3) 港湾管理者は,一定の事業者に港湾の環境の整備に要する費用の一部を港湾環境整備負担金として負担させることができることとした。
 (4) 港湾管理者の長は,港湾の運営上著しく支障を与える行為に対し,是正のための必要な勧告等をなしうることとした。
 (5) 臨港地区における分区としてマリーナ港区及び修景厚生港区を追加した。
  そして49年7月に,新港湾法に基づく一連の政令,省令等の整備が行われた。
  まず,7月に公布,施行された港湾法施行令の一部改正において,港湾環境の保全に関して新たに追加された事項は,次のとおりである。
 (1) 臨港地区内において届出を要する行為として,一定規模以上の工場又は事業場の新増設,港湾管理者の長が指定する規模以上の廃棄物処理施設等の建設又は改良を定めた。
 (2) 港湾環境整備負担金の負担の基準として負担金を負担させる事業者の範囲及び負担金の算定方法等を定めた。
 (3) 水域において建設又は改良をしょうとする場合に届出を要する施設として水域施設,外郭施設及び一定の船舶を係留する係留施設を定めた。
  また,「港湾の施設の技術上の基準を定める省令」及び「港湾計画の基本的な事項に関する基準を定める省令」がそれぞれ7月及び8月に公布,施行された。
  前者の「技術基準」においては,主に安全性の観点から,水域施設,係留施設等の港湾の施設の技術上の基準が定められている。
  後者の「計画基準」においては,港湾計画の基本的な事項に関する事項の一つとして港湾の環境の整備及び保全に関する事項が定められている。
  更に,「港湾の開発,利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針」が,7月に告示された。この「基本方針」は,今後の港湾の開発,利用及び保全等に関する基本方針を定めたものであり,その中においても,港湾における環境の保全を図るとともにその周辺における環境の悪化の防止に資する旨が明記されている。
  港湾法の一部改正のほかに第71国会においては公有水面埋立法の一部改正も行われ,これにより,港湾等における埋立ては,環境の保全に十分配慮されたものでなければ,免許されないこととなった。
  このように,港湾における環境の保全のための法制の整備が強められ,第3章第1節で述べたような各種の事業とあいまって,港湾における環境の保全は,強力に推進されている。