2 交通安全対策


  国民の生命,財産に多大の損害を及ぼす交通事故を防止し交通の安全を確保することは何よりも急務であり,政府は法制面の整備を進めるとともに,交通安全対策予算を増額するなど格段の努力を続けている。運輸省においても交通の安全の確保と事故の防止は運輸行政の根本であるという考えからこれらの対策には特に力を入れており,48年度の交通事故防止対策予算額は 〔2−4−3表〕に示すとおり約1,406億円と前年度に比べ17.5%増加して必要な施策を行った。更に,49年度においてもこれを約1,547億円に増額し必要な安全対策を充実強化することとしている。

(1) 道路交通の安全対策

  自動車の構造及び装置の安全性については,道路運送車両法の保安基準により詳細かつ広範な規制が定められているばかりでなく,自動車検査制度を始めとして,型式指定制度,定期点検整備制度,街頭検査等によってその実効性の確保が図られている。
  更に,運輸省では交通環境の変化,科学技術の進歩等に対応して保安基準を逐次改正しており,48年度においてもダンプカーのさし枠禁止,歩行者保護のための衝撃緩和式後写鏡の備付けを始めとする種々の改正を行って安全性のより一層の確保に努めてきた。
  今後も更に,47年9月,運輸技術審議会から運輸大臣あて答申のあった「自動車の安全確保のための技術的方策について」に示された「自動車安全基準の拡充強化目標(5か年計画)」に沿って規制を強化するとともに,日米両国が協力して45年以来開発を進めてきた実験安全車(ESV)の試作車が48年9月完成したので,今後は,その成果も参考にして安全規制の強化を図っていくこととしている。
  また,近年の軽自動車の増加に伴い,その安全性を確保するため,48年10月以降認可法人軽自動車検査協会において軽自動車(二輪を除く)の検査を実施している。
  更に,自動車事故の発生防止に資するとともに,被害者の保護の増進を図るため,認可法人自動車事故対策センターが48年12月に設立され,運転者に対する適性診断,運行管理者に対する指導・講習,交通遺児に対する生活資金の貸付等の業務を行っている。

(2) 鉄軌道の安全対策

  列車の高速化,高密度化に対処して,列車運行の安全を図るため,線路施設の整備,ATS(自動列車停止装置)化,CTC(列車集中制御)化等の運転保安設備の整備拡充,車両の構造・装置等の安全性の向上,乗務員の教育訓練の充実,列車運行管理の改善等の施策を講じている。
  更に,長大トンネル内及び地下鉄道における列車火災事故の防止対策として,車両及び施設の不燃化,避難誘導設備の整備,消火設備の増強,乗務員の異常時マニュアルの整備等を推進している。
  また,踏切事故防止対策としては,踏切道改良促進法に基づき,37年度から踏切道の立体交差化,構造改良及び踏切保安設備の整備を強力に推進しており,この結果,48年度末現在の踏切道数は36年度末に比較して30.0%減少して4万9,472か所となった。
  このほか,49年7月から8月初旬にかけて続発した新幹線の事故・故障に対する運輸大臣の警告(8月8日)に基づき,国鉄では新幹線の安全対策として,総額1,100億円を投じて車両の取替え,線路・架線の強化及び工事施行体制の整備等,事故・故障の未然防止対策を推進することとした。

(3) 海上交通の安全対策

  海上交通の安全を確保するため,航路,港湾,航路標識等の海上交通環境の整備,船舶の安全性の強化,船員の資質の向上,海上交通の安全に関する研究の促進及び海難救助体制の強化等の諸施策を推進している。特に,航行船舶の大型化,船舶交通のふくそう化等に対応して船舶交通の安全を確保するため制定された海上交通安全法が48年7月より施行されたことに伴い,今後もその円滑な施行のために必要な施策を一層推進することとしている。
  また,東京湾内の京浜港川崎区に続いて横浜区においても,航行船舶に対し交通情報の提供及び航行管制を総合的に行うことができる東京湾海上交通情報機構の一部の整備が完了し,そのシステムの運用を開始した。
  最近におけるモーターボート,ヨット等の小型船舶の増加,小型漁船の操業区域の長距離化等により,これら船舶の海難が増加してきた。このため従来検査対象外であったこれら小型船舶に対しても検査の対象とし,日本小型船舶検査機構が49年1月に設立され検査を49年9月から実施するとともに,これら小型船舶に乗り組む者に対して船舶職員法改正によって免許の取得を義務付けることとした。
  更に,これら小型船舶の運航の安全を図るため,運航者のなかから海上安全指導員を指定するなど,自主的な安全活動を推進した。
  また,48年7月の港湾法の改正により,港湾の施設に関する技術上の基準を定め,一定の船舶を係留する係留施設等については港湾区域以外に設置されるものについても届出をさせ,技術上の基準に適合したものでなければならないこととし,49年7月から施行された。
  更に,48年にあいついで起こったカーフェリー事故に対処するため,運航管理体制,構造設備,乗組員等各般にわたる事項について従来の対策を強化した「カーフェリーの安全対策について」を同年8月に定め,総合的な安全対策を強力に推進している。

(4) 航空交通の安全対策

  航空輸送量の増大及び質の多様化に対処して,航空機の安全を確保するとともに運航の効率化を図るため,第2次空港整備5か年計画に基づき,空港の整備,航空保安施設等の整備を推進しており,48年度においても,VOR/DME〔VOR(超短波全方向式無線標識施設)とDME(距離測定用施設)を組み合わせた施設〕等の航空保安施設及びARSR(航空路監視レーダー)等の管制施設の整備,航空気象官署の整備拡充等を行っている。
  更に,近年における技術の進歩に対応すべき航空保安要員に高度な専門的知識・技能を習得させるため,航空保安大学校の教育内容の充実を図るとともに航空保安大学校岩沼分校を49年6月に開校し,航空保安要員の養成体制の充実を図っている。
  このほか,49年1月に航空事故調査委員会が設置されたことにより,適確かつ迅速な事故原因の究明と事故の再発防止に徹底を期することとしている。


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