第4章 停滞する運輸関係設備投資

  49年度の運輸部門における設備投資実績は,公共事業費4兆3,161億円,民間運送業者によるもの1兆円(工事ベース)で,前年度比それぞれ0.9%減,6.6%減と40年代通じて始めての減少となったが,資材単価の上昇等諸経費の高騰を考慮すると,実質では48,49年度連続してこれまでに例をみない大幅な落ち込みとなった。 〔2−4−1図〕

  全民間設備投資と運輸関係公共事業費及び民間運送業設備投資の実質値による前年度比伸び率をみると 〔2−4−2図〕,全民間設備投資が景気の動向と軌を一にした動きを示し,49年度にマイナスに転じたのに対し,運輸関係公共事業費と民間運送業設備投資は48年度から大幅に減少し始めている。
  このように,運輸関係設備投資が全民間設備投資に先がけて大幅な落ち込みとなった背景をみてみよう。まず,48年度からの運輸関係公共事業費の減退は,主として,48年度前半の需要超過基調の中で進行するインフレに対処するため始められた総需要抑制策に基づくものである。 〔2−4−2図〕にみられるように運輸関係公共事業投資はこれまで民間設備投資の動向と正反対の動きを示し,40年度,46年度の不況期にはむしろ増加したが,49年度は48年度前半の景気過熱状態から一転して大幅な景気後退となったにも拘らず,48年度後半からの異常なインフレーション沈静のため総需要抑制策が継続され,本四連絡橋の着工が凍結されるなどの理由から,運輸関係公共事業は2年連続して停滞することとなったものである。
  次に,民間運送業設備投資の減少は,日本船の国際競争力の低下を反映して,海運企業の船舶建造意欲が減少したことにより,48年度の海運業設備投資が大幅減となったことと,48年度から始った公共投資の抑制,49年度における不況の浸透による貨物輸送需要の減少と旅客輸送の伸び悩みから運輸企業の投資意欲が減退したことのほか,従来からきびしい状況下にあった運輸企業の経営が石油危機以降の激しいインフレ等の影響で一段と悪化し,投資余力が乏しくなったためと思われる。最近における民間運送業の設備投資資金調達状況をみると,内部資金の割合は20%台に過ぎず他は金融機関からの借入れ等外部資金に依存している現状にあり 〔2−4−3図〕,設備資金借入れに起因する金利負担が経営を圧迫することとなっている。
  また,鉄道業等における設備投資は,混雑の援和,サービスの向上,立体交差化等安全対策の徹底あるいは公害の防止等直接収益に結びつかない性質のものが多く,現行の運賃水準では経常損失の計上を余儀なくされている運輸事業にとって大きな負担となっている。

  以上のほか,設備投資を制約している大きな要因に,工事単価等工事費の高騰と運輸施設現地の取得難がある。 〔2−4−4図〕は年々増大する地下鉄建設費の推移を示したものであるが,用地費,土木費等諸経費のこのような上昇は,工事の進行阻害要因となっている。48,49年度における工事費の高騰は特に激しいものがあった。また,第3章で述べたとおり,鉄道,道路,空港等の施設整備に当り,用地の取得及び工事の施行に関し,環境保全等の問題で地域住民との話し合いが難航し,工事が大幅に遅延している事例が各所で見受けられる。

  第2章で述べたような輸送隘路の存在にみられる等設備投資の立遅れを解消し,輸送の近代化,サービス水準の向上,交通安全の確保,交通公害の防止等を推進してゆくために今後とも大きな設備投資を必要としているが,不況の長期化によって国及び地方公共団体の財政事情は悪化しており,また,今後安定成長時代への移行に伴い,交通施設整備のために大幅な投資の拡大は期待しえない状況にあることから,設備投資に当っては,需要の動向,社会的要請に対応して重点的,効率的に進めていく必要がある。
  また,必要な設備投資を確保していくためには,投資主体である運輸企業の経営健全化を図ることと,施設整備に係る利害調整に関し,地方公共団体等関係者の理解と協力を得ることが不可欠といえよう。
  49年度における設備投資の動向を各部門別にみると,次のとおりである。


1 公共事業費による施設整備状況

2 民間事業者による施設整備状況