第5章 海洋汚染の現況

  海洋汚染について,その防止が内外において強く叫ばれているが,臨海工場からの廃液等の産業廃棄物,一般家庭から生ずる汚水,ごみ,し尿等の生活廃棄物,船舶から排出される油及び各種廃棄物等による海洋汚染は依然として高い水準にあり,特に三菱石油水島製油所の流出油事故によるものをはじめ,大規模な海洋汚染が大きな社会問題となっている。
  海上保安庁が確認した我が国周辺海域の海洋汚染発生件数は 〔II−(V)−5表〕のとおりで49年には2,366件とξ8年に比べて94件減少したが,47年以降についてみると2,000件を越える高い水準のままほぼ横ばいの傾向にあり,依然として海洋汚染が多発していることを示している。

  49年における汚染発生件数を海域別にみると北海道沿岸及び日本海沿岸における汚染件数が増加しており,また,これを原因音別にみると外国船舶による汚染が年々増加し,48年に比べて29件増加し336件に達していることが注目される。また,陸上に起因する汚染件数は262件,11.1%と比較的少ないがこの中には49年12月の三菱石油水島製油所の流出油事故が含まれている。
  これら海洋汚染件数のうち,赤潮によるものは,49年には175件と48年に比べて71件減少しており,また,廃油ボールについては,49年7月から海上保安庁が実施した廃油ボールの漂流漂着調査によると48年と同様に,南西諸島から奄美大島に至る南西海域に特に顕著な漂流漂着が確認されている。
  海洋汚染の実態を把握するため,海上保安庁は47年から我が国周辺の沿岸海域及び汚染の著しい主要湾等において,海水及び海底堆積物中の油分,COD,PCB及び重金属について科学的調査を実施しているが,海洋汚染防止法で定められている排出海域のA海域(水銀,カドミウム等の有害物質を含んだ廃棄物が投棄される海域)及びB海域(鉱さい,金属くず等の廃棄物が投棄される海域)における調査結果では自然レベルと比較して,排出海域であっても特に汚染が進行していることは認められていない。また,汚染の著しい主要湾等における調査結果では,各汚染値の傾向として湾奥部で高く,外洋にいくに従い低くなっている。
  さらに,気象庁においても47年度から日本近海及び西太平洋海域における海洋の全般的汚染状態(バックグラウンド汚染状態)をカドミウム,水銀等について調査しており,49年度の結果をカドミウムについてみると,日本近海における表面海水中の濃度は0.2μg/l以下であった。また,総水銀は,全体として前年よりわずかに減少の傾向にあるが,外洋域においては冬季に少なく夏季に多い。