第2節 日本経済の動向昭和53年度は,日本経済が,石油危機後5年目になり,40年代後半に生じた大きな内外経済環境の変化による日本経済の成長軌道の変容に対して,それへの適応過程が一応終了した年であった。 53年度の日本経済の動向を特徴づけるのは,長らく力強さを欠いてきた民需が本格的に回復する兆しがみえてきたことであり,海外需要や公共投資などの外生需要に強く依存した前年度と比べ,内需主導型の経済となったことである。しかもそれとともに,物価の安定,国際収支の均衡化,雇用改善の動き,企業の改善といった良好パーフォーマンスが表われたことも顕著な動きであった。 次に,これらの動きを四半期の流れに沿ってみてゆくことにする 〔1−1−3図〕。53年1〜3月期には,公共投資の下支えや,時的要因による輸出の増加に加え,在庫調整が最終局面に入ったため,日本経済は比較的順調な拡大を示し,実質GNP(速報値。以下同じ。)は前期比で2.3%増加した。4〜6月期からは,円レート上昇の累積的効果が,輸出の減少,輸入の増加という形で顕在化したため,実質経常海外余剰は経済成長率をかなり引き下げる方向に作用した。しかし,公共投資が財政の前倒し執行により高水準であったことや,堅調な消費活動に支えられ,国内需要の伸びが高まったために,実質GNPは前期比1.0%の増加となった。7〜9月期にもほぼ同様の傾向が続いたが,輸出等が前期比で3.7%減となり,民間住宅も同4.3%減となったことから,実質GNPの成長率は0.8%と若干鈍化した。続く10〜12月期には,個人消費や民間設備投資を中心に国内需要の伸びは更に高まり,内需中心に経済が拡大するようになった。こうした中で,在庫についても積み増しの動きがみられ,商品市況も上昇するなど,経済の動きは活発になり,実質GNPの成長率は1.7%と高まった。54年に入っても経済は内需中心の拡大を続け,1〜3月期の実質GNP成長率も1.7%となった。
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このような情勢の下で,経済のパーフォーマンスは様々の面で改善をみせた。まず円高による輸入原材料価格の下落もあり,企業収益は着実に改善され,企業マインドも好転した。また,雇用情勢もいまだ厳しいものの,54年初には完全失業率が前年同期(月)に比べて低下するなど,改善の動きが見られた。一方,物価の面では,卸売物価は,前年比でみて11月以降上昇に転じるまで概ね下落を続け,53年度全体では前年度比2.3%の下落となった。また,消費者物価も前年度比3.4%の上昇と落ちついた動きを示した。他方,国際収支面では,輸入増,輸出減を反映して,4〜6月期から経常収支の黒字が減少し始め,53年度を通じ均衡化の方向に向った。また,総合収支は,長期資本収支の流出幅拡大もあって,10〜12月期以降赤字となった。
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