第3節 地震対策の推進


  地震予知技術は,古文書,過去の各種観測・測量資料等を基にする学問研究の積み重ねによって発達してきたものである。日本列島とその周辺に発生する地震は,地球上の全地震の約1割もあって,わが国は世界有数の地震国であり,観測体制も整備されている。しかも,近年,国は,内閣に地震予知推進本部をおき,関係行政機関の緊密な協力のもとに,総合的,計画的な施策を進めており,現在のわが国の予知技術は,世界の最高水準にあるといえる。とりわけ,東海・南関東地域は,地震予知連絡会による「観測強化地域」に指定されるとともに,測地学審議会の建議も踏まえて,地震予知実用化のための重要な観測の場として,各種観測の拡充強化が進められているところである。
  地震防災のための地震予知への要請は,昭和51年の東海大地震説を契機として高まりつつあったところ,53年1月の伊豆大島近海地震の発生により地震予知の重要性が国民の大きな関心事となり,同年6月,大規模地震対策特別措置法(以下,「大震法」という。)の制定公布をみた。地震予知が現実に活かされて,多数の人命の損失を防ぐことができたのは,中国における1975年の海城地震のケースであるが,前兆現象から,長くとも2,3日以内の大規模地震発生を予知する短期的予知を防災対策に結びつけることとしたのは,大震法がはじめてであり,まさに画期的なものといえよう。
  同法の施行により,地震防災対策強化地域(以下「強化地域」という。)を指定し,観測・測量の実施の強化を図り,強化地域に係る大規模な地震発生のおそれが認められたときは, 〔1−6−6図〕のように,気象庁長官の地震予知情報の報告を受け,内閣総理大臣が警戒宣言を発して,あらかじめ定めてある計画によって,事前の防災対策等の措置がとられることとなった。

  この大震法の趣旨に沿うため,54年8月,強化地域の指定の日をもって,気象庁に「地震防災対策強化地域判定会」を発足させ,気象庁長官の任務遂行に当たり,大規模地震発生のおそれの判定を得ることとしたほか,54年9月に作成された地震防災基本計画に基づき,関係機関は地震防災強化計画を作成する等防災体制づくりを進めた。
  運輸本省においては,54年11月,上記の地震防災強化計画として,「東海地震に関する運輸省防災業務計画」を策定して,警戒宣言をはじめとする情報の伝達,交通対策に関する関係省庁との協力,緊急輸送のための施設整備等について定めたほか,「運輸省地震災害対策本部の設置に関する訓令」を制定して,警戒宣言発令時の対応に遺漏なきを期した。
  気象庁においては,これまで進めてきた地殻岩石歪計の増設等のほか,54年4月からは東海地域に係る海底地震観測システムの運用を開始する等,大学,他機関を含む観測データの気象庁への集中化の促進と相まって,強化地域の短期的予知体制の充実を推進しつつある。これと並行して南関東地域の観測体制の強化を図りつつあり,地震常時監視網は 〔1−6−7図〕のような現状となっているが,これら両地域のみならず,わが国の地震観測網の整備に努めるとともに,地震予知に関する技術的研究についても,研究体制の整備,研究の推進に努める必要がある。

  また,海上保安庁においては,大震法の施行を受けて,海上保安庁防災業務の計画を改め,警戒宣言等の伝達,船艇・航空機の出動及び派遣,津波による事故を防止するための船舶に対する避難勧告,人員や物資の緊急輸送等の地震防災応急対策等に関する事項を追加する等の措置をとっている。また,地震予知計画に参加し,関係省庁と共同して海底地殻構造及び海底地殻活動に関する総合研究等を実施している。
  なお,地震対策については,測地学審議会の建議による第4次地震予知計画を踏まえ,関係機関との連携のもとに推進する必要がある。


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