3 運輸部門におけるエネルギー対策の推進


  1980年代を迎えた我が国のエネルギー事情は,原油輸入の見通しをはじめ不透明な状況にあるといえる。このような状況下で,今後我が国が安定的な経済成長,国民生活の充実を図っていくためには,運輸部門としても省エネルギー対策,石油代替エネルギー利用対策の推進,エネルギー安定供給のための輸送の基礎施設の整備等が重要な課題であるといえる。なお,今後運輸部門のエネルギー対策を推進するに当たっては,輸送機関の特性,地域の事情等のほか,環境の保全,空間の制約等にも十分配慮する必要がある。

(1) 省エネルギー対策の推進

  運輸部門における省エネルギーを図るためには,個別の輸送機関における省エネルギー対策と,エネルギー面からみたより効率的な交通体系の形成との両面から対策を進める必要がある。
  まず,各輸送機関の省エネルギー対策としては,省エネルギー機器の開発・普及,輸送効率向上のための諸対策を推進していく必要があると考えられる。機器の開発・普及に関しては,自動車におけるタイヤ,エンジンの改良,車体の軽量化等による燃費の改善,鉄道における回生ブレーキ付サイリスタチョッパー車(従来車両に比べ約30%の電力節減効果が認められている。)の普及,アルミ合金等を使用した軽量車両の開発,船舶における省エネルギー船の普及,スターリング機関の開発,航空における機体材量の軽量化等が進められている。特に,ガソリン乗用車の燃費については,エネルギーの使用の合理化に関する法律に基づき,昭和60年度に生産される車の燃費を53年度に比べ12.3%向上させることが目標として設定されるとともに,カタログ及び展示用乗用車に10モード燃費の関連事項を分りやすく表示することが義務付けられた 〔2−1−55図〕, 〔2−1−56図〕

  また,輸送効率向上等のための対策としては,営業用トラックにおける共同輸送の推進,鉄道における低利用率列車の削減,フェリーにおける減速運航,航空における冬期減便等も省エネルギー対策の観点から実施されており,今後も一層の推進を図っていく必要がある。
  しかし,これらの輸送効率の向上等による省エネルギー対策は,利用者側から見た場合サービス水準の低下になる場合もあることから,利用者の利便性をいかに保ちつつ対策を行うかが大きな課題であり,また,利用者に対する啓蒙も必要不可欠である。
  しかし,個別の輸送機関による省エネルギー対策には自ら限度があり,今後の輸送需要の動向にかんがみ,人と物の円滑なモビリティを確保しつつ,省エネルギーを進めていくためには,基本的にはエネルギー消費効率のよい輸送機関の活用を中心とした交通体系への転換を推進していくことが必要と考えられる。
  このため,都市における旅客輸送,特に通勤・通学輸送等においては,自家用乗用車等からエネルギー効率のよい大量公共交通機関へ輸送需要を誘導することが望ましく,そのためには,公共交通機関の輸送サービスについて質的,量的に整備・充実を図る必要がある。運輸省は,鉄道輸送におけるラッシュ時の輸送力増強,車両の冷房化,需要に応じたダイヤの再編成等を推進しており,バス輸送においてもバスロケーションシステムの整備,屋根付停留所の整備,低床・広ドア・冷房バスの普及,需要に適切に対応したバス路線網の再編成等を推進し,公共交通機関の輸送サービスの改善を行っているところである。また,輸送施設に関しても,従来より地下高速鉄道網の整備促進,ニュータウン鉄道の整備促進等を進めてきたところであるが,今後も一層の陸上公共交通機関のサービス改善と整備を進めていくこととしている。
  また,地域間貨物輸送については,今後,幹線物流需要の増加,とりわけ国民のニーズの高度化,多様化に伴う雑貨類のウエイトの増大が予想されるが,鉄道についてはフレートライナー等の輸送網の再編成,利用者の需要に対応できる運行体制の検討,また,トラックについては,鉄道,海運等との連けいによる協同一貫輸送の推進を図る必要があると考えられる。

(2) 石油代替エネルギー利用の推進

  現在輸送機関が使用している石油代替エネルギーは,営業用乗用車で使われているLPGも石油製品の一種であるとみなせば,わずかに鉄道に使われている電力のみである。輸送機関は移動するという特性を有していることから,石油代替エネルギーへの転換が困難な分野であるが,将来の石油の制約を考慮すると,今後は輸送機関での石油代替エネルギー利用も,積極的に検討していく必要がある。
  輸送機関の石油代替エネルギー利用としては,電気自動車,アルコール自動車,石炭焚き船,帆装船,原子力船,水素燃料による自動車,航空機等が考えられており,今後の研究開発が期待される。

(3) エネルギー安定供給のための基礎条件の整備

  エネルギー資源の海外依存度が極めて高い我が国にとって,エネルギー資源を安定的に我が国へ輸送する体制の整備,緊急時に備えた備蓄体制の整備等は,省エネルギー対策,代替エネルギー開発とともに極めて重要な課題である。
  前述の「長期エネルギー需給暫定見通し」によれば,65年度の我が国のエネルギー供給量は52年度の約1.7倍に増大するとともに,その内容も石炭,LNG等石油代替エネルギーの構成比が50%にも達することとされている。したがって,輸送部門でも今後はこれらに対応し,特に,石炭専用船,LNG船の整備,石炭受入れ基地,LNG受入れ基地の整備等を推進していく必要があると考えられる。


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