第3節 原子力船の開発


  我が国の原子力船「むつ」の開発は,日本原子力船開発事業団により進められているが,昭和49年9月出力上昇試験の段階で放射線漏れを起こしたため,未だ所期の成果をあげるに至っていない。
  出力試験中断後,原子力委員会は原子力船懇談会を設置し,「むつ」の今後の措置,日本原子力船開発事業団のあり方等について検討を行ったが,同懇談会は,@「むつ」については官民協力して開発を推進すべきであること,A日本原子力船開発事業団については,日本原子力船開発事業団法に所要の改正を行い,「むつ」の開発計画を完遂させる必要があること等の審議結果を取りまとめた。
  これを受けて,政府は「むつ」の開発を進める方針を固め,日本原子力船開発事業団は3年間にわたる遮敝改修,安全性総点検を行うため53年10月「むつ」を佐世保港に回航し,現在,改修工事を行っているところである。また,原子力委員会は,長期的な原子力船研究開発のあり方等についで慎重に審議を重ね,55年4月11日「原子力船研究開発の進め方について」を決定し,今後,「むつ」の建造・運航に加えて,原子力船の経済性・信頼性の向上をめざした研究開発を進めるべきであるとの方針を明らかにしている。
  原子力船に関する基礎的な研究について,船舶技術研究所は,55年度において約1億3,000万円の予算で舶用炉に関する研究等を実施している。
  諸外国の開発状況をみると,アメリカでは,サバンナ号の建造及び運航経験をもとに12万馬力の一体型舶用炉の開発を進め,ほぼ設計を固めた段階である。西ドイツでは,オットハーン号の研究開発に引き続き,原子力船建造運航利用会社(GKSS)及びメーカが8万馬力コンテナ船について検討しており,ほぼ設計を固めた段階にある。フランスでは,原子力研究所に船舶用陸上原型炉を建設し,舶用炉の研究開発に取り組んでいる。カナダでは,沿岸警備隊が15万馬力の原子力砕氷船の建造を計画しており,現在,設計評価が行われている。ソ連では,レーニン号,アルクチカ号及びシビリ一号の3隻の原子力砕氷船が運航している。
  このような世界的な傾向に対処し,我が国においても,安全性に一層留意し,将来の原子力船時代に備え着実な研究開発を推進する必要がある。

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