第3章 海上防災対策

  昭和55年において,防除措置を講じた油排出事故は624件発生し,このうち,1キロリットル以上の排出油を伴った事故は64件で,内訳は貨物船21件,タンカー15件,漁船9件,その地の船舶4件等となっている。また,船舶の火災事故は126件で,このうち1,000総トン以上の貨物船の事故は12件であった。
  油排出事故や海上火災が発生した場合には,海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律に基づき,船舶所有者等の原因者は,油の防除並びに火災の通報,消火,延焼の防止,人命救助のための応急措置を講ずる義務がある。また,船舶所有者や油保管施設の設置者等は,あらかじめオイルフェンス等の防除資材を備え付けねばならず,更に東京湾,伊勢湾及び瀬戸内海を航行する大型タンカーについては,所要の油回収船や消防船等の配備が義務付けられている。このほか,大型タンカーが荷役を行うバースの設置者や管理者に対しても,防除資機材の適正な保有,定の消防能力の確保等について指導を行っている。
  海上災害防止センターは,このような海士災害防止のための民間側の中核機関として51年10月に設立された。全国29か所に防除資機材備蓄基地を設けて防除資機材を備え付けるとともに,東京湾,伊勢湾及び瀬戸内海の10基地に油回収船等を,更に東京湾には消防船2隻を配備し,事故時には同センターと契約した防災事業者を使って防除活動を行う体制を備えている。このほか同センターは,タンカーの乗組員,石油関係企業従業員等を対象として消火及び排出油防除措置に関する訓練も行っている。
  また,海上保安庁としても大規模な油排出事故や海上火災に的確に対処するため,主要港湾を対象として油回収艇等の防除資機材の整備増強,高性能の消防船艇の建造や巡視船艇の化学消防能力の強化など防災体制の整備を図るとともに,特にこうした事故の発生するがい然性の高い東京湾,伊勢湾及び瀬戸内海の三海域について排出油防除計画の作成を行っている。
  一方,石油代替エネルギーの導入の促進等に伴い,LNGやLPGの輸入量は更に増加すると予想されており,今後,LNGタンカー等の災害防止対策を充実することが必要となってきている。
  また,エネルギーの安定供給の観点から原油の備蓄政策が進められており,現在,臨時的措置として錨泊,漂泊方式による大型タンカー洋上備蓄が実施されているが,今後は,恒久的措置として陸上備蓄基地の整備とあわせ貯蔵船方式による洋上備蓄が計画されている。このような状況に対処するため,海上保安庁は,大型タンカー洋上備蓄については,関係専門家による安全対策に関する検討結果を踏まえて,防災関係機関との連絡協力体制の確保など備蓄タンカーの管理体制に関して,石油公団,船舶所有者等の関係者に対する指導を行っている。また,貯蔵船方式による洋上備蓄についてもその備蓄量がぼう大であり,万一事故が発生した場合は極めて大規模な災害となるおそれがあるので,備蓄関係者による防災資機材の整備など防災体制作りを進めるとともに,海上保安庁及び海上災害防止センターを中心とする防災能力を結集して,これらの大規模な海上災害に対処しうる広域応援防災体制の整備が今後の課題となっている。
  このほか,海上保安庁は,大規模地震対策特別措置法の施行を受けて,海上保安庁防災業務計画を改め,警戒宣言等の伝達,船艇・航空機の出動及び派遣,船舶に対する避難勧告,人員や物資の緊急輸送等の地震防災応急対策等に関する事項を追加するなどの措置をとった。