2 災害対策の推進
(1) 災害対策の実施状況
運輸省,海上保安庁及び気象庁は,災害対策基本法における指定行政機関として,防災基本計画に基づき防災業務計画を定め,各種防災技術の研究,予警報の伝達,防災資機材の整備など災害を未然に防止するための各種施策を実施している。災害発生時には緊急出動をはじめ,人員や救援物資の緊急輸送,港湾災害復旧事業の実施など災害復旧に全力をあげることとしている。なお,最近6年間の防災対策関係予算は 〔1−5−5表〕に示すとおりである。
(2) 災害対策の今後の方向
(ア) 海上防災対策の充実
大量の油の排出,海上火災など海上災害の発生に対処するため,海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律に基づき,排出油防除体制及び海上消防体制の整備・充実並びに海上災害防止センターをはじめとする民間自主防災体制の強化を図っている。更に,大量の排出油事故の発生が多方面に甚大な被害を及ぼすおそれがあることにかんがみ,国,地方公共団体,関係民間企業等官民一体となった防災即応体制の整備・確立を図っている。
また,エネルギーの安定供給の観点から石油の備蓄政策が進められており,現在,国家備蓄として,大型タンカーによる洋上備蓄が実施されているが,今後は,陸上備蓄基地の整備とあわせ,貯蔵船方式による洋上備蓄が計画されている。このような状況に対処するため,備蓄関係者による防災資機材の整備など防災体制作りを進めるとともに,海上保安庁及び海上災害防止センターを中心とする広域応援防災体制の整備を図ることが今後の課題となっている。
(イ) 気象災害,火山対策の推進
台風,低気圧,前線等の動向を監視し,これらに伴う風,雨,雪等の状況を早期にかつ正確に把握して,精度の高い予報,警報等の気象情報を迅速に関係機関及び一般国民に提供することは,気象災害対策として重要である。しかも,近年の高度化,多様化している社会の要請に応えるためには,時間的,地域的にきめ細かな内容の情報を利用に供する必要がある。このため,地域気象観測網,気象レーダー観測網,気象衛星観測システム等を強化するとともに,これら観測資料の即時的な収集と有効利用を図っている。また,各種情報を迅速に伝達するため気象資料伝送網の整備を推進している。
更に,気象情報の精度同上を図るため,解析・予測技術の開発,改善を推進している。
次に,火山対策としては,近年,桜島等の火山活動の活発化に伴い,活動火山対策特別措置法の改正と測地学審議会の第2次火山噴火予知計画に関する建議が行われた。同法の趣旨及び同建議の計画を踏まえて,火山現象の研究,観測体制の整備,予知技術の開発等を推進している。
(ウ) 海岸災害対策の推進
臨海部に多くの人口や資産を抱える我が国にとって,高潮や侵食等による海岸災害の脅威は非常に大きいものがある。これらの海岸災害に対処し,国土保全及び民生安定に資するため,堤防,護岸,離岸堤等の海岸保全施設の整備を図る必要がある。また,地震防災対策強化地域内においては,津波による海水の侵入を防止する海岸保全施設の整備を図る必要がある。
(3) 地震対策の推進
我が国は世界有数の地震国であり,有史以来,幾多の地震災害に見舞われてきており,地震予知に対する国民の期待は強いものがある。51年に,東海地域における大規模地震の発生の可能性が指摘されたことを契機として,同地域における短期予知体制が整備され,地震予知情報が出された場合の防災上の対応措置を確立する必要から,53年6月に大規模地震対策特別措置法が制定された。同法は,地震の直前予知が行われた場合に備えて予め防災体制を整備しておき,予知情報に基づく警戒宣言により一斉に地震防災行動をとることによって地震防災の実をあげようとするものであり,地震予知を直接防災に生かすことをねらいとした世界でも初めての画期的な立法である。同法の施行により,気象庁長官は,地震防災対策強化地域(以下「強化地域」という)に係る大規模地震の発生のおそれがあると認めるときは,地震予知情報を内閣総理大臣に報告し,内閣総理大臣は,閣議にかけて警戒宣言を発し,事前の防災対策の措置をとることとなった。
このため,指定行政機関である運輸省,海上保安庁及び気象庁は地震防災強化計画を策定し,地域防災応急対策,地震防災上緊急に整備すべき施設等の整備に関する事項等を定めるとともに,総合防災訓練の一環として地震防災訓練を実施するなど所要の対策を講じてきている。
また,気象庁は同法の趣旨に沿って,強化地域に係る大規模な地震の発生のおそれについて判定を行うため,54年8月気象庁に「地震防災対策強化地域判定会」を発足させたほか,同地域における観測,測量を強化するため,海底地震計,地殻岩石歪計等の整備を行うとともに,研究機関,大学の観測データも含め気象庁へのテレメータ化を行い,常時監視体制の強化を推進してきた。
一方,海上保安庁においては,海上保安庁防災業務計画に基づき,55年9月に東海地震に際しての船艇,航空機の動員計画を定めるとともに,具体的な地震災害対策の実施要領を作成するなど地震防災対策の推進を図っている。更に,地震予知計画に参加し,関係省庁と共同して海底地殻構造及び海底地殻活動に関する総合研究等を実施している。特に,55年度には,駿河トラフと相模トラフにおいてこれらを横断する形で調査を行い,その結果,フィリピン海プレートのもぐり込み現象が起きていることが確認された。
今後,運輸省においては,大規模地震等が発生した場合に,旅客や生活関連物資の輸送を確保するため,港湾,鉄道等の交通施設の耐震性を向上させるとともに,緊急輸送対策等の検討を行うこととしている。
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