3 海難原因の系統的な究明


  海難審判庁は,海難事件について審判を行い,各事件毎に海難の原因を究明してきたのであるが,一方海難の発生の防止により一層寄与するためには,同種海難の態様や原因を系統的に観察することにより,その傾向と問題点を浮き彫りにすることも極めて重要であると考えられる。この趣旨に基づき,海難審判庁は「視界制限状態における船舶間衝突の実態」と「乗揚海難の実態」について調査分析をし,問題点の指摘を行って,55年10月及び56年4月にそれぞれ刊行物として発表した。
 (1) まず,「視界制限状態における船舶間衝突の実態」については,50年から54年までの5年間に裁決の行われた視界制限状態における船舶間衝突事件233件,466隻を対象としたもので,次の2点を問題点として指摘した。
 (ア) 視界が制限された場合にとるべきこととされている霧中信号,安全な速力への移行など基本的動作の実施状況が極めて悪いこと
 (イ) 視界制限状態における最も重要な情報入手手段といえるレーダーの活用が極めて悪いこと(危険な海域又は状況において,レーダーによる見張りを強化する等の措置が十分なされていないこと)
 (2) 次に「乗揚海難の実態」についても,50年から54年までの5年間に裁決のあった乗揚事件1,065件を対象とし,次の問題点を指摘した。
 (ア) 水路の調査や船位の確認など基本的常務が励行されていないこと
 (イ) 危険な海域においては,視界不良時や強潮流時には無理な運航をやめ待機する必要があること
 (ウ) 自動操舵装置等の導入による省力化に伴って生じる注意力へのマイナス要因についての対策を十分検討する必要があること
 (エ) 危険な海域又は状況においては,レーダー監視を強化するなどレーダーを十分に活用するための措置を講ずる必要があること
  また,45年から54年までの10年間に裁決のあった多発水域における乗揚事件を調査分析し,当該水域における海難の発生原因と発生に影響を与えた主要な条件についても明らかにした。


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