II-(IV)-I 造船業及び造船関連工業の現状
1 昭和56年度の建造量等と船舶輸出の状況
(1) 建造量
56年度における我が国の新造船建造量(臨時船舶建造調整法に基づく建造許可船舶を対象)は,進水ベースで378隻(対前年度比16.3%増),868万総トン(同26.3%増)であり,また,起工ベースでも370隻(同1.4%増),881万総トン(同13.1%増)とわずかながら前年度を上回った。
(2) 受注量
53年度の322万総トンを底に急速な回復を示してきた新造船受注量(建造許可ベース)は,56年度に至り油槽船の大幅な減少から対前年度比9.8%減の838万総トンとなった。
なお,ロイド統計(総トン数100トン以上の船舶を対象)によれば,56年の世界全体の新造船受注量は,1,687万総トン(対前年比11.6%減)であり,このうち我が国の受注量は,830万総トン(同17.0%減)で,そのシェアは49.2%(前年52.4%)であった。
(3) 手持工事量
56年度末の手持工事量は,建造許可ベースで444隻(前年度比2.5%増),1,132万総トン(同3.1%減)となり,ほぼ横ばいであった。
(4) 船舶輸出の状況
56年度における我が国の輸出船の建造量は,進水総トンベースで全建造量の66.8%を占めている。輸出額(通関実績)は約80億ドルで,自動車,鉄鋼に次いで,全輸出額の5.3%を占めている。
また,輸出船の受注量を仕向地別にみると,総トン数ベースで便宜置籍国のリベリア,パナマ向けが全体の68.6%を占め,その他ではシンガポール,インド,ノルウェーが多く,船種別でみると貨物船が88.5%と大部分を占めている。
更に,受注契約をみると,円建て契約が金額ベースで99%(前年度99%)であった。
2 造船業の現状
(1) 経営状況
我が国の造船事業者数は,約1,300であり,これらの企業による昭和56年度の造船部門の売上高(新造船,修繕船)は約2兆5,000億円であった。
主要造船業10社の損益状況をみると,56年度の総売上高は,新造船部門の好調等もあり対前年度比24.5%増の4兆5,454億円,総原価は同22.7%増の4兆3,428億円であり,営業利益は2,026億円であった。また,経常利益は1,204億円であり,前年度に引き続き黒字となった。
主要造船業10社の財務状況をみると,56年度の総資産は,対前年度比9.6%増の7兆6,688億円であり,このうち流動資産は同12.1%増の6兆2,380億円,固定資産・繰延資産は同0.1%減の1兆4,308億円であった。一方,負債については,流動負債が対前年度比13.6%増の5兆156億円,固定負債が同0.2%増の1兆9,910億円であった。
(2) 施設と設備投資
56年度における造船設備の推移については,修繕設備においてスクラップ・アンド・ビルドによる能力拡張が若干みられた。また,主要造船会社15社28工場の設備投資(工事ベース)は,295億円(対前年度比133.5%増)となり,55年度に引き続いて増加傾向にある。
(3) 中小造船業及び下請中小企業
中小造船業においては,中小企業近代化促進法に基づき,55年度及び56年度に引き続き57年度も新商品又は新技術の開発,設備の近代化,生産方式の適正化など近代化のための構造改善事業を実施している。また,設備が不十分であり,技術水準も低い造船業及び船舶用機関製造業の下請中小企業については,経常の合理化,技術の向上及び作業安全の徹底等の推進の観点から,造船業及び船舶用機関製造業を下請中小企業振興法の指定業種とし,親企業看との協力関係を改善しつつ,下請企業の近代化を進める振興事業計画を57年慶には4事業協同組合が実施している。
(4) 舟艇工業の現状
我が国の舟艇工業の生産は,48年の石油危機により一時急激に落ち込んだものの,その後は立ち直りを示し,レクリエーション用のモーターボート,ヨットについてみると,56年における生産隻数は対前年比3.4%増の約18,000隻,出荷金額は同9.9%増の111億円となった。また,この生産隻数を材質別にみるとFRP製が約90%,ゴム製が9%を占めている。
3 造船業における国際環境
1981年の世界の造船業は,建造量が増加したものの,新造船受注量,手持工事量では減少した。
ロイド統計(総トン数100トン以上の船舶を対象)によれば,81年の世界の建造量(進水ベース)は対前年比22.5%増の1,707万総トンであり,前年に引き続き増加した。しかしながら,ピーク時である75年に比べれば48%と依然低水準である。建造量を国別にみると,日本は対前年比21.5%増の886万総トンであり,AWES(西欧造船工業会:加盟国12か国で構成)は対前年比20.0%増の382方総トン,その他諸国は26.7%増といずれもこれを増加させている。
82年3月末現在の世界の手持工事量は,新規受注減を反映し,前年同期に比べ4.1%減の3,375万総トンであった。これを船種別にみると,油槽船が670万総トン(対前年同期比29.8%減),ばら積貨物船が1,797万総トン(同9.9%増),一般貨物船が457万総トン(同20.3%増)であった。なお,各国の手持工事量をみると,日本,AWESが前年同期に比べてそれぞれ11.2%',5.0%減少したのに対し,韓国を始めとするいわゆる第三造船諸国は4.3%の増加をみせている。
4 造船関連工業の現状
(1) 造船関連工業の概要
船価の約40%を占める船舶用機関,補助機械,航海用機器,ぎ装品等の造船関連工業製品を製造する造船関連工業は,大企業から中小の零細企業まで約960の製造事業所があり,修理業,船舶電装業を含めると約2,000事業所と推定されている。
造船関連工業は,石油危機を契機とした造船不況の浸透とともに深刻な不況に陥ったが,各関係法律の適用による金融・税制上の措置あるいは雇用対策等の不況対策の効果的展開に加え,54年後半から,船舶建造量の回復を背景とした需要の増大及び輸出の増加等によって不況を克服し,56年には,生産額が年間1兆円超と過去最高を記録した。
(2) 造船関連工業製品の生産
56年の造船関連工業製品の生産額をみると,総額11,200億円と前年に比べ21.6%増加した。これは生産額が最高を示した52年の113%である。製品別の生産額をみると,船舶の推進用及び補助機械駆動用の原動機として用いられる機関の生産額は,3,524億円で,全体の29.1%を占め,前年より21.6%増加している。補助機械とは,ポンプ,空気機械,電気機器及び甲板機械等を推すが,全体として大幅に増加しており,生産額は,2,160億円で対前年比32.2%増であった。ぎ装品とは,航海用機器,部分品・付属品,弁,電気器具並びに海上コンテナ節であるが,海上コンテナ等の一部の品目を除いて生産額が増加しており,全体として対前年比16.8%増の5,516億円となった。
(3) 造船関連工業の輸出入
56年の造船関連工業製品の単体輸出額をみると,2,538億円,対前年比11.4%増となっており,特にディーゼル機関,船外機,航海用機器,部分品・付属品等の単体輸出が好調でこれら4品目で全体の65.6%に当たる1,665億円を占めている。
地域別では,韓国,台湾を含むアジア向け輸出が,同地域の造船業の台頭を反映して951億円と我が国最大の輸出市場となっており,以下,北アメリカ,ヨーロッパと続いている。
また,輸出船に搭載して輸出される間接輸出は,約3,300億円と推定され,我が国からの船舶の輸出が増加したことを反映して,前年に比べて62.0%増加した。
56年の造船関連工繋製品の輸入額は,473億円と前年比7.0%の増加となった。これらの輸入品の大部分は,我が国で建造される輸出船に船主指定品として搭載されるものである。
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