3 海洋調査・海洋開発等の充実・強化


  我が国は,新海洋秩序の下では主権的権利を行使することができる極めて広大な海域を有することとなり,資源や利用空間の制約が顕在化しつつある今日,我が国としてはこれまで以上に海域及びそこにおける各種資源を積極的に開発,利用していく必要がある。このため,海洋調査の充実,海洋利用技術の開発等に関する各種の施策を一層推進していくことが要請される。

(1) 海洋情報等の収集・提供業務の充実強化

  気象庁では,広大な海域における海況の即時的把握を図るため静止気象衛星「ひまわり」の運用,海洋気象ブイロボットの展開,海洋気象観測船の運航,沿岸波浪観測施設等の運用を行っており,この他一般船舶等からの気象通報等を利用して,海上風,波浪等の予警報,外洋波浪実況図,海面水温図等の提供の充実に努めている(第3章第4節1(4)参照)。
  海上保安庁では,日本近海の海流,水温等の変動を把握するため,測量船,巡視船,航空機等により海象観測を実施し,さらに国内海洋調査機関の観測データを収集して,海流図,水温水平分布図として,ラジオ,ファックス放送等により一般の利用に提供している。また,米国の気象衛星ノアや資源探査衛星ランドサットの画像の利用,人工衛星を介した漂流ブイの追跡等により黒潮をはじめとする海況変動の把握に努めている。さらに,船舶交通の安全の確保等に資するため,定常的に潮汐観測を実施しており,前年度に引き続き新たに3か所の験潮所をテレメータ化した。また冬期においては,北海道周辺海域の流氷観測を実施し,流氷情報をラジオ等により提供している。
  また,航海用海図を整備していくため,全国各地の港湾,航路,沿岸等の精密な水路測量を実施している。さらに,正確な領海の基線及び外縁線を画定するとともに,沿岸海域の海洋開発と環境保全に資するための「沿岸の海の基本図」の調査を48年度から実施しているが,57年度には新たに秋田湾等7か所において低潮線,海底地形,海底地質構造等の詳細な調査を実施した。
  一方,港湾局では,海洋構造物の建設,沿岸防災対策等の基礎資料としての沿岸波浪データの収集に努めている。また,港湾等における海底地形変動予測手法の開発に資するため,砕波帯域での波の変形,海浜流,漂砂等の現地観測を行うこととし,57年度には茨城県鹿島灘において観測用桟橋の建設を進めた。
  さらに,海洋データは,その取得に多くの費用と日時を要する貴重なものであるので直接的な取得目的への利用に加えて,2次,3次の利用を促進する必要がある。このため海上保安庁は,我が国の総合的な海洋データバンクとして関係機関の協力を得て,海洋情報の一元的管理に積極的に取り組んでいる。
  運輸省としては,今後とも海洋情報に対するニーズの高度化,多様化に対応した適切な海洋調査および海洋情報収集・提供体制の整備を図っていくこととしている。

(2) 海洋情報交換・海洋調査に関する国際協力の推進

  (進展する海洋情報交換)
  世界各国で得られる海洋データの有効利用を図るため国際的規模で,即時的(リアルタイム)及び非即時的(ノンリアルタイム)データ交換が行われている。リアルタイムデータ交換の分野では,気象庁がユネスコの政府間海洋学委員会(IOC)と世界気象機関が共同で推進している全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)における国内担当機関として,気象資料自動編集中継装置(ADESS),全地球気象通信システム(GTS)を介して,海面水温,表層水温,海面流等の国際的交換を行っている。
  海上保安庁は,IOCが設けている国際海洋データ交換システムの国内海洋データセンターとして登録され,ノンリアルタイム海洋情報の交換の分野における我が国の代表機関として国際間の海洋情報の有効利用を図っている。特にIOCでは,国際共同調査の推進とその成果の一元的管理を図るための責任国立海洋データセンターの設置及び拡充を進めており,西太平洋海域における海洋データ管理の責任国立海洋データセンターとしてその任務を遂行している。
  (推進される国際共同調査)
  また,西太平洋における海洋大循環の変動機構,生態系,汚染等の解明を目ざしたIOCによる西太平洋海域共同調査に協力して,57年度は日本周辺及び西太平洋海域の海洋観測を気象庁で実施したほか,海上保安庁では,58年度から,大型測量船「拓洋」の最新機器を利用した各種海洋観測並びに漂流ブイの放流,追跡による海流調査を行うとともに,開発途上国技術者に対する観測技術研修を実施することとしている。

(3) 海洋情報の取得・提供のための技術開発の推進

  海上保安庁では,衛星の画像データによる海底火山活動の監視等に関する技術開発を積極的に推進するとともに,「我が国周辺200海里水域の調査手法に関するフィジビリティー・スタディ」に参画し,58年度から海底火山周辺海域等における海底地形,水温等の調査,火山性変色水の採取を安全に行うことを目的とした「遠隔操作の自航式ブイ」,深海における海底地形を詳細に把握するための測深機のデータ処理に関する「シービームによる海底地形情報解析システム」,漂流ブイの長寿命化,高機能化のための「太陽エネルギー利用技術」等の開発に本格的に取り組んでいる。港湾局では,海洋情報収集システムの充実を図るため,「海洋観測用ブイの波浪に対する応答特性」の研究,ブイの挙動測定等による波向観測技術,大水深域での海底土質データ収集システム技術及び機器の改良等の開発を行っている。気象庁では,水中における音波の伝わり方が水温,圧力分布等により異なる性質を利用して水温,海流等を求める「海洋音波断層観測技術」の開発,広域的な「海面水温予報」実施等のための開発を進めている。

(4) 海洋開発利用のための技術開発の推進

  運輸省における海洋開発のうち,海洋構造物等による海洋空間の有効利用に係る技術開発については第4章第1節1(6)に述べた通りであるが,海底資源開発技術に関しては,各種の海洋開発用機器,作業用船舶等の開発を推進するとともに,最近の石油資源確保の多様化に伴い注目される北方圏の豊富なエネルギー資源の開発のための氷海用石油掘削船に関する研究及びこれら資源等を運搬する氷海可航型船舶の技術開発を行っており,57年度はその一環として氷海中での実船実験を行った。
  さらに,海洋エネルギーの利用に関しては,黒潮のエネルギーの把握,変動機構の解明,波力発電ケーソンによる電力の積雪地域港湾内における融雪,港内の海水浄化等への利用のための研究を行っている。
  また,海洋環境保全技術に関しては,大量流出油の拡散防止の研究,高粘度原油を輸送するタンカーの船外排出油量の低減に関する研究,MARPOL73/78条約の批准に伴い必要となる廃油処理施設の処理技術の向上に関する研究等を行っている。また,内湾等における堆積汚泥の除去,処理等底質浄化に係る技術,人工海浜及び海浜緑地の造成等海洋環境整備に係る技術等について技術開発を推進することとしている。


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