2 日本国有鉄道再建監理委員会における検討


 (日本国有鉄道再建監理委員会の発足)
  57年7月30日,臨時行政調査会は,第3次答申において,国鉄再建を国家的課題とし,公社制度を抜本的に改め,責任ある効率的な経営を行いうる仕組みを早急に導入するため,分割・民営化が必要であるとの方針を打ち出した。また,これとあわせて再建の推進体制として,国鉄再建関係閣僚会議及び国鉄再建監理委員会を設置すること並びに公社制度の改革等抜本的対策を講じるまでの間においても経営改善を図るため緊急対策を講ずべきことを指摘した。
  政府は,この答申を受けて,57年9月24日,「今後における行政改革の具体化方策について」及び「日本国有鉄道の事業の再建を図るために緊急に講ずべき対策について」を閣議決定し,国鉄の改革については,臨調答申に沿って5年以内に事業再建の全体構想を設定し,その実現を図るとともに,職場規律の確立,新規採用の原則停止等の10項目の緊急対策に取り組むこととした。
  その後政府は,国鉄再建監理委員会の設置等について定めた「日本国有鉄道の経営する事業の再建の推進に関する臨時措置法(以下「再建臨時措置法」という。)案」を57年11月国会に提出した。再建臨時措置法は,58年6月10日施行され,同日,国鉄再建監理委員会が発足した。
  再建臨時措置法の主な内容は,@臨調答申を尊重して国鉄の経営する事業の適切かつ健全な運営を実現するための体制を整備するという基本方針の下に,効率的な経営形態の確立,長期債務の問題等に関する国の施策を講じること,A国鉄再建監理委員会を総理府に設置し,同委員会は効率的な経営形態の確立等の重要事項について,基本方針に従って,企画し,審議し,及び決定し,内閣総理大臣に意見を述べること,B@の体制の整備を図るための施策は,62年7月31日までに講ぜられるものとすること等である。
 (国鉄再建監理委員会における審議)
  国鉄再建監理委員会は,発足以来,59年10月末現在で79回にわたる審議を行い,現在までに次のとおり意見を提出している。

(1) 「緊急措置の基本的実施本針」に関する意見(第1次,第2次)

 ア 第1次緊急提言

      まず,国鉄再建監理委員会は,58年8月2日,「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針について」を内閣総理大臣に提出した。
      この意見は国鉄の経営が破局的状況にあることを踏まえて,現行制度の下においてもできる限り経営の悪化を食い止めるとともに将来における効率的な経営形態の確立の円滑化に資するため,国及び国鉄において緊急に講ずべき措置についての基本方針を取りまとめたものである。
      その主な項目は以下のとおりである。

 (ア) 経営管理の適正化

     @ 肥大化,硬直化した管理機構の見直し
     A 企業性の欠如した体質からの脱却
     B 職場規律の確立

 (イ) 事業分野の整理

     @ 鉄道特性を有する分野への特化
     A 営業体制の合理化

 (ウ) 営業収支の改善及び債務増大の抑制

     @ 営業収支の改善
     A 設備投資の抑制
     B 資産の売却
      この意見を受けて政府は,8月5日,国鉄再建関係閣僚会議の議を経て,これを最大限に尊重し,更に一層所要の施策の推進を図るものとする旨の閣議決定を行った。

 イ 第2次緊急提言

      国鉄再建監理委員会は,59年8月10日,「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針(第2次)について」を内閣総理大臣に提出した。
      この意見は,今後国鉄事業の具体的な再建案を取りまとめるに先立ち,その基本的な方向について,これまでの検討の成果を踏まえた現時点における認識を明らかにするとともに,改革の円滑な実施を図るため現段階から措置すべき事項について取りまとめたものである。
      その主な内容は以下のとおりである。

 (ア) 国鉄事業再建についての基本認識

     @ 国鉄事業の再建を達成するためには,現在の公社制及び全国一元的運営から脱却し,新しい効率的な経営形態へ移行することが必要であると考えており,基本的には分割・民営化の方向を念頭において今後その具体的内容について検討する。
     A 長期債務等のうち新しい企業体による最大限の効率的経営を前提としてなお事業の遂行上過重な負担となるものについては,可能な限りの手だてを尽くしたうえで最終的には何らかの形で国民に負担を求めざるを得ないが,この問題は,効率的な経営形態の確立と切り離して解決し得ない。

 (イ) 当面緊急に措置すべき事項

 @ 要員対策

      私鉄並みの生産性を前提とした場合の余剰人員は,現在顕在化している24,500人に数倍する膨大な人数にのぼるものと思われる。このため,早急に有効な雇用調整のための対策を講ずる必要があり,現在実施しようとしている退職勧奨制度の見直し,休職制度及び派遣制度の拡充を図るとともに,今の段階からこれに引き続く対策についても検討する必要がある。また,余剰人員問題の解決に当たって最も重要なことは雇用の場の確保であるので,これについて各方面の協力方を要請する。
      以上の施策を実施するに際しては,国鉄は部内に緊急対策本部を設け,所要の施策を強力に推進すべきである。また,政府においても国鉄の最大限の努力を前提として,政府部内一体となった強力な支援体制を整える必要がある。

 A 用地の取扱い

      長期債務等の処理に際し国民の負担をできるだけ軽減するための一つの方法として,国鉄用地を最大限債務償還の財源に充てることを考えるべきである。
      国鉄は,将来の事業の姿を見通した上で,本年中のできるだけ早い時期までに最小限必要となる事業用用地とそれ以外の非事業用用地との仕分けを行う。非事業用用地のうち,駅に近接する用地で今後鉄道施設と一体的に開発し,それを関連事業に活用することが売却するよりも明らかに有利と認められるもの等については,国鉄事業の経営主体において引き続き保有するが,これを利用して行う新規事業の展開は,新経営形態への転換までは慎重な態度で臨む。
      上記以外の非事業用用地は,将来にわたっての売却対象とし当面,債務の増大を極力抑制する見地から必要な売却は進めていくべきであるが,同時に,売り急ぎによる弊害が生じないよう慎重な配慮も必要である。また,非事業用用地の売却に当たっては,公開競争入札を基本とする適正な時価によるものとする。

 B 地方交通線

      特定地方交通線について転換のための協議の促進を図ることとし,特に,第1次線のうち2年の協議期間が到来したものについては,協議の調う見込みの可能性を早急に見極めたうえで,その転換を速やかに図る。第2次線についても,60年度末までに転換が可能となるよう協議の促進を図る。また,いわゆる第3次線について,可及的速やかに選定調査に入るとともに,上記以外の地方交通線についても,国鉄からの分離を積極的に推進する。

 C その他

      貨物,自動車部門について徹底した効率化を早急に行うとともに,管理機構の見直し等を行う必要がある。
      この意見を受けて政府は,8月14日,国鉄再建関係閣僚会議の議を経て,これを最大限に尊重し,更に一層所要の施策の推進を図るものとする旨の閣議決定を行った。
      また,運輸省は8月22日国鉄再建緊急対策推進本部を開催し,この意見のうち,「国鉄事業再建についての基本認識」において提言されている事項については,今後その趣旨を体して,国鉄再建監理委員会と協力して適切な結論が得られるよう検討することとし,「当面緊急に措置すべき事項」において提言されている事項については,要員対策,国鉄用地,地方交通線等のそれぞれについての具体的措置等を決定し,その推進に取り組むこととした。

(2) 59年度及び60年度国鉄予算についての意見

  59年度国鉄予算については,58年9月1日,「59年度の国鉄予算の調整に当たっては,「借入金等」の総額及び「純損失」の額が58年度予算で予定している額を上回らないことを目標として最大限の努力をする必要がある。」との意見が提出された。
  また,60年度国鉄予算については,59年9月4日,「60年度の国鉄予算の調整に当たっては,物件費の節減等による経費の圧縮,及び営業収入の確保に努めることによって,運賃改定を極力避けることが望ましいが,なお,最少限度の運賃改定を余儀なくされる場合においても,他の輸送機関との競争関係や原価を十分配慮した運賃体系に近づけることを基本方針として最大限の工夫をすべきである。」との意見が提出された。

(3) 経営改善計画の変更についての意見

  前述の経営改善計画の変更については,59年5月17日国鉄再建監理委員会から「項目によっては,進捗に遅れの見受けられるもの,あるいは計画に具体性の乏しいものがあるなど,緊急提言において求めた内容が60年度までに実施されるためには,今後格段の努力が必要と考える」等厳しい内容の意見が提出された。
  また,59年7月10日,第2次特定地方交通線の選定に伴う経営改善計画の変更について「2次線について予定通り60年度中に転換を完了させる必要がある」等の意見が提出された。


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