序章 運輸をめぐるこの一年の動き

  昭和59年秋以降の一年間を振り返ると,我が国経済が景気上昇の2年目を迎え順調な拡大を続けるなかで,輸送活動も全体としては増加傾向を維持した。
  国内輸送は全体として増加
  58年度以降回復を続けてきた国内輸送は,59年度も総輸送量においては旅客,貨物とも引き続き増加した。
  59年度の旅客輸送(人キロ)は,全体としては対前年度比1.3%増となったが,伸び率は前年を下回り,また輸送機関によりばらつきがみられた。
  一方,貨物輸送(トンキロ)は,景気の拡大を反映して,同2.9%増と前年伸び率を上回る2年連続の増加となった。(P.295,308参照)
  増大した国際輸送
  我が国をめぐる国際輸送は,世界的な景気の拡大を背景として,旅客,貨物を通じて増加した。
  59年の出国日本人数は対前年比10.1%増,入国外客数は同7.2%増といずれも過去最高の人数となった。

  一方,国際貨物輸送量(トン数)をみると,外航海運は,輸出入合計で対前年比8.3%増と54年以来5年ぶりに増加に転じ,55年並みの水準に回復した。国際航空貨物は,対前年度比8.0%増と依然として順調な増大を続けている。(P.304,317参照)
  以上のような輸送動向のなかで,以下にみるように国鉄をはじめ運輸のあらゆる分野において,輸送構造の変化等に伴う種々の動きや,情報化,国際化,公害防止,省エネルギーといった経済社会ニーズの変化に対応した新たな動きがみられた。また,外航海運における不況の深刻化や航空機事故など望ましくない動きもあった。

  国鉄の分割・民営化-国鉄再建監理委員会「意見」(60.7)
  58年6月より2年間にわたり国鉄事業に関する効率的な経営形態の確立等について審議を進めてきた国鉄再建監理委員会の「国鉄改革に関する意見」が,60年7月に提出された。
  主な内容は,旅客部門を北海道,東日本,東海,西日本,四国,九州の六つに分割し,民営化する。貨物部門は全国一本で分離,独立させ,民営化する。これに伴って発生する9万3千人の余剰人員の再就職の促進等の対策を講じ,37兆3千億円に上る長期債務等については,新事業体における負担,用地の売却等を行い,なお残る債務等は国民に負担を求めることにより処理すること等となっている。
  政府としては,この意見を最大限に尊重する旨の対処方針に従って,60年10月「国鉄改革のための基本的方針」を決定したところであり,運輸省としても,これに沿って,関係法律の整備をはじめ,所要の施策を講じていくこととしている。(P.72参照)

  東北・上越新幹線の上野駅開業(60.3)
  東北・上越新幹線の上野〜大宮間が60年3月開業し,東北・上越地区と都心とが初めて新幹線で結ばれた。これにより,大宮駅乗継ぎの不便が解消され,また,所要時間の短縮や大幅な増便により日帰りビジネス圏が拡大する等利用者の利便が大きく向上した。このため,開業後の両線の利用者は急増し,4月〜7月実績は前年同月比で約5割増と順調な滑出しとなっている。(P.298参照)

  青函トンネルが貫通(60.3)
  日本鉄道建設公団が39年より工事を進めてきた青函トンネルが21年の歳月を経て60年3月貫通した。同トンネルは総延長53.85kmの世界に例のない長大海底トンネルであり,我が国土木技術の粋を結集した成果である。この貫通により,本州と北海道を鉄道で結ぶという長年の夢が実現に近づくこととなり,62年度中と予定されている同トンネルの完成に向けて,現在軌道工事等が進められている。
  同トンネルは当面在来線として利用することとしているが,在来線に加えてカートレーンを運行する案もあり,現在検討を進めている。(P.259参照)

  海運集約体制等の規制の緩和――海造審答申(60.6)
  海運造船合理化審議会が,今後の外航海運政策について,59年8月の中間答申に引き続き,最終の答申を行った。
  この答申は,中間答申と一体となり,今後の外航海運政策のあり方を示すものであり,この中で,39年に確立された海運集約体制及び41年に確立されたスペース・チャーター制を中心とする定期航路運営体制について,これが海上輸送の安定的確保に大きく貢献してきたことを認める一方で,問題点が生じていることを指摘し,今後は各企業の経営の自主性を発揮させることが重要であり,集約体制の規制を緩和してそれぞれの事情に応じた企業関係を形成し,また,適切な航路運営方法を選択することを認めるべきであるとしている。(P.115参照)

  深刻化する外航海運の構造不況
  世界の外航海運は,構造的な不況が長期化している。海運市況は変動するのが常であるが,近年の低迷は,世界的に構造的な石油等の海上荷動き量の低迷,タンカーをはじめとする船腹量の過剰状況のために,長期化して極めて深刻な様相を呈している。
  その影響を受けて,60年8月には世界最大のタンカー運航企業である三光汽船(株)(運営タンカー船腹量1,221万総トン,世界のタンカー船腹量の約4%)が会社更生法に基づく更生手続開始の串立てを行った。
  このような海運不況の状況にかんがみ,世界的な船腹調整のための施策が必要であるとみられるが,我が国においても海運不況対策が船舶解撤促進策を中心に検討されている。(P.111参照)

  日本貨物航空が運航を開始(60.5)
  国際航空貨物輸送量は,“軽薄短小”時代を反映して大幅な伸びを続けているが,我が国で初めての国際航空貨物の専門会社である日本貨物航空(NCA)が60年5月に運航を開始した。これにより,我が国は国際航空貨物の分野で初めて2社体制を取ることとなった。
  同社は,東京-サンフランシスコ-ニューヨーク間をB747型貨物専用機(最大搭載量112トン)により,週6便運航しているが,アメリカ経済の拡大が本年初に急速に鈍化したことから国際航空貨物量も伸び悩んでおり,厳しい状況が続いている。(P.139参照)

  国際交通博覧会への公式参加決定(60.1)
  61年5月から10月の間,カナダのバンクーバー市で開催される国際交通博覧会に我が国が公式参加すること及びその諸準備を運輸省を幹事省として行うことが,60年1月に閣議了解された。
  この博覧会は,国際博覧会条約に基づく特別博覧会で「動く世界(World in Motion)」をメインテーマとして,人類の発展と未来に交通が大きな役割を担っていること等交通の重要性を広く世界にアピールすることを目的として開かれるものである。
  3月には,実施機関として(財)国際交通博覧会協会が設立され,同協会は出展構想の策定,日本政府館の建設,航海訓練所練習船旧本丸」の記念レースヘの参加,出展物の製作,輸送,据付等の諸準備を鋭意進めている。(P.156参照)

  東京圏の鉄道整備計画について運政審が答申(60.7)
  運輸政策審議会が,東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画について,答申を行った。
  同答申は,通勤・通学時の混雑緩和,郊外ニュータウンの足の確保等を図るため,75年までに都心からおおむね50kmの範囲で整備が必要とされる路線として,常磐新線,みなとみらい21線等をあげている。
  また,用地費,建設費等の高騰,空間・環境面の制約の強まり等により,都市における鉄道整備が困難になっている状況を踏まえ,開発事業者からの負担金徴収等開発利益の還元,リニアモーター駆動による地下鉄の小型化等鉄道の円滑な建設及び運営の確保のための具体的方策についても提言を行っている。(P.178参照)

  都市新バスシステムの導入(名古屋・金沢)(60.3〜4)
  都市部においてバスを魅力ある交通機関として再生し,バスヘの信頼を回復するため,都市バス対策の集大成として運輸省が整備を推進してきた都市新バスシステムが,59年の東京都及び新潟市に引き続き,名古屋市及び金沢市において導入された。
  このシステムは,バス専用レーンの設置と併せて車両,停留所施設の改善,バス接近表示とコンピュータ制御による運行管理を内容とするバス路線総合管理システムの導入等を行うものである。
  名古屋市では,バス専用レーンを道路中央部に設置する中央走行方式を採用し,,金沢市では,一定の地域内の複数の路線をバス路線総合管理システムによって管理運行しており,利用者の利便の向上等が図られている。(P.182参照)

  活発な情報通信分野への進出
  近年,情報通信関係技術の進歩を背景として,情報化の進展には目ざましいものがあるが,電気通信事業法の制定により電気通信事業が自由化されたことを受けて,運輸においても情報化に向けて活発な動きがみられた。
  国鉄を中心として設立された日本テレコム(株)は,60年6月に電気通信事業法による第一種電気通信事業の許可を受け,まず61年10月までに,東京・大阪間の東海道新幹線沿線に光ファイバーケーブルを敷設し,専用線通信サービスを行い,その後,順次,電話サービスの実施,山陽,東北及び上越新幹線各沿線地域への業務区域拡大を計画している。
  また,貨物流通の分野でも多くの物流企業が,一般第二種電気通信事業の届出を行って,貨物流通VANに進出し,種々の新たなサービスを積極的に提供している。(P.210参照)

  「21世紀への港湾」とみなとみらい21
  運輸省は,国際化,都市化,情報化といった社会情勢の変化に対応し,将来の港湾のあり方を示すガイドラインとして,60年5月「21世紀への港湾」をまとめた。この政策では今後の目標を@物流,産業,生活のための空間を調和させた総合的な港湾整備A各港の機能の分担と連携を図った外内貿コンテナ港の全国的配置等港湾相互のネットワーキングの推進に置き,多目的の物流ターミナルの整備,国際会議場・展示場の建設,海洋性レクリエーション基地の整備,高度情報処理空間の形成等の具体的施策を盛り込んでいる。
  このような長期港湾整備政策に沿った具体的な事業例としては,横浜市が21世紀へ向け推進しているみなとみらい21(MM21)がある。この事業は,国際交流,商業等多様な都心機能を備えた新たな港湾都市形成をめざしたものであり,60年4月にはドックパークの完成をみた。
 (P.233,240参照)

  日本の船位通報制度の運用開始(60.10)
  海上保安庁では,捜索救助活動を迅速・的確に行うため,日本の船位通報制度(ジャスレップ)を60年10月から運用開始した。
  船位通報制度は,去る6月に発効した「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)でその設定が要請されており,同条約に加入している我が国としても,周辺海域の捜索救助活動を実施するに当たり,整備を進めてきたものである。
  ジャスレップは,加入船舶から位置等の通報を受け,遭難船舶の位置の推定,捜索区域の決定,救助船の早期選定等を行い,海上保安庁の救助活動に加え,民間船舶同士の互助活動をも促進するものであって,船舶の安全運航の確保に大きく寄与するものと期待されている。
 (P.273参照)

  日航機墜落事故(60.8)
  60年8月,東京発大阪行日本航空B-747型機が,伊豆半島東方上空で繰縦不能に陥り,群馬県上野村の山中に墜落炎上し,死者520名を出すという大惨事となった。
  運輸省としては,事故後直ちに事故対策本部を設置し,関係機関との連絡調整に当たるとともに,同型機を使用する航空会社に対し垂直尾翼等の一斉点検を指示したほか,日本航空に対し立入検査を実施し,これに基づき業務改善勧告を行う等かかる事故の再発防止のための安全対策を講じている。
  なお,事故原因の究明については,目下,航空事故調査委員会において鋭意進められている。(P.274参照)

  日本メタノール自動車株式会社の設立(60.3)
  メタノール自動車は,自動車排出ガスによる都市公害の防止,特にNOxの削減及び自動車燃料の多角化の観点からその導入が有効とされている。運輸省においては,メタノール自動車のトラック,バス部門への導入のための施策を推進しているが,民間においても,トラック事業者を中心とし,メタノール業界も参加して「日本メタノール自動車株式会社」が60年3月に設立された。
  この会社は,運輸省の導入施策を踏まえて,運輸事業者の協力の下に60年度より行われる営業用トラック,乗合バスによる市内走行試験において,試験用メタノール自動車の貸渡し,メタノール燃料の手配等を行い,メタノール自動車の排出ガス性能,運転性能,経済性等の試験を実施する。(P.280参照)