2 物流企業活性化対策の推進


(1) トラック運送事業

  (トラック運送事業の現状と展望)
 「物離れ」,「軽薄短小化」の進展という構造的な要因によって,今後,経済の拡大のテンポに合わせて貨物輸送量が増加することは期待し難い状況下において,トラック運送事業は,その企業体力を強化するとともに,需要構造,輸送対象物資等の変化に対応した高品質で,より付加価値の高い輸送サービスが提供できるよう事業の活性化を図っていくことが重要な課題となっている。`この場合,トラック運送事業については,@約3万6,000のトラック運送事業者のほとんどが経営基盤の脆弱な中小企業であること(急伸している宅配便に携わっている事業者は146社にすぎない。),A労働集約的であること,B道路という一般交通の場を利用するものであること,等の特徴を有しており,過積載,過労運転,運賃ダンピング等のいわゆる輸送秩序の乱れの問題が生じやすい事業であることに留意する必要がある。
  (規制の見直し等)
  トラック運送事業については,参入規制,運賃料金規制を柱とする事業規制が行われており,規制内容の根幹については今後とも維持していく必要があるが,経済実態,利用者ニーズの変化に迅速,適確に対応するとともに活力あるトラック運送事業の発展を促進する観点から,随時,所要の規制の見直しが行われる必要がある。60年12月には,路線トラック運送事業における運行に使用する道路の変更手続の緩和,区域トラック運送事業における積合わせ許可の運用の弾力化,首都圏,近畿圏に加え中京圏における拡大事業区域の設定等の規制の緩和が行われた。
  (構造改善対策)
  トラック運送事業者の多くが中小零細であるという現状において,その活性化を図るためには,中小企業性を克服し,経営基盤を強固なものとすることが必要である。このため,設備の近代化,事業の集約化,情報のシステム化,人材の養成等を内容とする総合型構造改善事業が61年度を目標年度として推進されているが,62年度以降については,市場の変化に機敏に対応し経営の根幹からの見直しを進めていく経営戦略化構造改善事業の推進を図っていく予定である。
  (運輸事業振興助成交付金の活用)
  中小トラック運送事業の近代化を推進するに当たっては,運輸事業振興助成交付金(60年度約148億円)が有効に活用されており,61年度においては,物流近代化のための施設整備資金の償還期間の延長(7年→10年),排ガス対策車への代替の促進のための車両購入資金の限度額の倍増(1,500万円→3,000万円)等の措置が講じられている。また,交付金は,トラックの安全運行の確保とドライバーの労働環境の改善のためのトラックステーションの整備(供用20,計画7)等にも活用されている。
  今後は,これらに加えて,トラック事業の活性化を図る観点からトラック運送事業の将来展望を踏まえた研究・研修体制の整備を図っていく予定である。

(2) 内航海運業

  (内航海運の役割と効率化)
  内航海運は中小企業者がその9割以上を占めている業界であるが,国内貨物輸送の47%(トンキロベース)を担う基幹的輸送機関であり,特に石油,鉄鋼,セメント等の産業基礎物資の輸送についてはその約80%(同ベース)を支えているなど国内物流における役割は極めて大きいものがある。また,内航船の船型については,ここ10年間で平均トン数が約250総トンから約380総トンになるなど大型化が図られる一方,船舶整備公団の共有建造等を通して,特にコンテナ船,内航RO/RO船(Roll on Roll off船)等が普及したことにより雑貨輸送の効率化等への取組みも徐々にではあるが拡がってきている。
  (自助努力による内航海運不況対策)
  第2次石油危機を経て輸送需要の減少等が生じ,内航海運は構造的不況に陥っており,貨物船及び油送船については著しい船腹過剰が生じている。
  このため,運輸省は58,59,60年に引続き,61年3月削減すべき船腹量を明らかにすることを目的に貨物船,油送船の2船種について船腹量の最高限度を設定したが,これを受け,日本内航海運組合総連合会を中心に業界においては自助努力としてスクラップ・アンド・ビルド及び不要船舶の買上げ方式の併用により船腹削減を行っている。
  また,中小企業者乱立型の業界構造を改善し,将来的な産業基盤をより強固としたものにするため,内航海運業構造改善指針(59年6月策定)に基づき,内航船舶貸渡事業者数の削減,海運組合の再編・統合が現在鋭意進められている。
  このうち船舶貸渡事業者数の削減については,59年度から,船腹量の最高限度の設定された船種に属する船舶から他の減価償却資産への買換えについて課税の特例(圧縮記帳)の適用等を行うことにより着実に減少している。また,海運組合の再編・統合も,60年4月に129海運組合あったものが1年後には96海運組合にまで減少するなど着実に進捗している。
  (これからの内航海運)
  今後,内航海運が,変化の著しい物流ニーズを踏まえて新しい展開を図っていくためには,素材貨物輸送を維持しつつ上記諸施策をなお一層強力に推進するとともに,情報化への対応,新規分野への取組み,若手船員及び有能な経営人材の確保等,新たな事業展開等を積極的に推進する必要があり,例えば内航業者の営業活動・営業力の強化という観点から各地方の海運組合における経営指導活動等を積極的に進めることも必要であると考えられる。

(3) 港湾運送業

  (構造改善対策)
  港湾運送業の経営状況は,取扱貨物量が58年度以降3年連続して増加したため,業界全体でみれば概ね回復傾向にあるものの,全体の約3割は赤字経営に陥っていると推定される。特に,近年の荷役革新の進展等に伴い,在来荷役型港湾運送業は低迷を続けており,なかでも,はしけ運送業については需給の不均衡が恒常化し,構造不況に陥っている。また,今後は,円高の急速な進展等により輸出の弱含み傾向が続くとみられることから,貨物量の減少等港湾運送をとりまく環境も厳しさを増していくものと考えられる。
  このため,業界においても従来から荷役の機械化,要員の削減等の合理化策の実施により自助努力を重ねてきているが,在来荷役型港湾運送業については,(財)港運構造改善促進財団により事業者からの拠出金を基にした構造改善のための助成措置が講じられており,また,事業転換対策,雇用安定対策等も実施されている。特に,はしけ運送業については,61年5月,利用者たる船社の協力を得て,5大港(京浜,名古屋,大阪,神戸,関門の各港)のコンテナターミナル運営料金に構造改善のための資金を確保するための付加料金を設定し,これを原資として5大港におけるはしけ対策を推進していく予定である。
  (港湾運送の新展開)
  他方,荷役の近代化,経済のソフト化,荷主ニーズの多様化,高度化等に伴い,港湾運送業もサービスの質的向上が強く求められるようになっている。このような情勢変化に対応する港湾運送事業者の動きとしては,61年4月から京浜港において本格稼動に入った港湾貨物情報ネットワークシステム(SHIPNETS),コンテナ埠頭等における統括管理行為(電算機による貨物情報の処理・管理,実作業の指示・監督)に象徴される情報化への対応と,60年11月に港湾運送事業33社の出資により青海流通センター(株)が設立され,東京港において国際複合一貫輸送のための拠点整備が進められるなど,国際複合一貫輸送への積極的な取組みを挙げることができる。

(4) 利用運送業

  (重要性を増す利用運送事業等)
  利用運送事業等には,内航運送取扱業,通運事業,自動車運送取扱事業,利用航空運送事業等があり,それぞれ,高度化,多様化する荷主のニーズに応えて適切な輸送手段を選択するフォワーダーとして,物流関係企業の発展,物流の効率化等に重要な役割を果たしており,今後ともその重要性が増大していくものと考えられる。
  (通運事業の国鉄改革への対応)
  国鉄の貨物輸送の長期にわたる低落と相次ぐ国鉄貨物の合理化等により,通運事業経営は全体としては縮小傾向をたどるとともに約5割が赤字経営を余儀なくされ,各事業者は経営の一層の多角化,総合化を迫られてきている。
  国鉄の改革に伴い,通運制度については,60年7月の臨時行政改革推進審議会の答申等も踏まえつつ,通運事業免許について,通運取扱業,通運代弁業及び鉄道利用業に関する3種類の免許を統合するとともに,その新しい免許については取扱駅を事業計画事項とすることとしている。これにより,通運事業者が多様化する物流ニーズに即応して鉄道貨物輸送契約を結ぶことができ,荷主にとっても鉄道貨物輸送へのアクセスが容易となるものと考えられる。
  なお,国鉄改革に伴う通運事業への急激な影響を緩和するため,運輸事業振興助成交付金による融資条件の緩和等の措置を講じていくことが必要である。
  (利用航空運送の伸長)
  航空貨物輸送は,他の輸送手段に比べて運賃が高い代わりに圧倒的なスピードを有しており(一例として20kgの荷物を北米西海岸向けに送る場合,船では所要日数約1か月25,000円,航空では所要日数約4日57,500円となっている。),近年急速に増大してきている。これは,@スピードを重視する利用者の傾向,A運賃負担力のある電子機器等の高付加価値品の増加,B機材の大型化等のハード面における整備,等の事情が重なって生まれてきているものと考えられる。これらの貨物の多くは小口貨物であり,混載による運賃割引を受けるためにその大半は利用航空運送事業者の混載扱いとなっており(混載比率70%超),同事業者は国内,国際ともに航空輸送にとって多大な貢献をしてきている。
  また,最近の国内小口混載貨物の需要動向に対応して,60年2月より45kg未満の貨物についてわかりやすい重量区分ごとの定額運賃制を採用したところであるが,60年12月には,さらに利用しやすい運賃体系とするため,営業割引制度に関し,利用航空運送企業の創意工夫を最大限に活かし,適時適切に同制度を設定・変更・廃止しうるよう事務処理の改善を図った。
  (小口航空混載貨物市場の競争激化)
 60年4月の日米航空暫定取極に基づき,62年4月以降,米国よりいわゆる小口航空貨物専門企業が我が国へ参入してくることが予定されていることもあって,近年,我が国をめぐる大手物流事業者間の国際的な提携が活発化してきている。このため,今後,需要規模の拡大の一方で激しい競争が展開されていくものと考えられる。このような情勢を踏まえつつ,今後とも小口航空混載貨物の需要動向の変化,荷主ニーズ等に対応し,適切な対策を講じていくことが必要である。

(5) 倉庫業

  (トータル倉庫業への展開)
  倉庫業をとりまく環境は,いわゆる「物離れ」,「軽薄短小化」の進展により物流量が漸減傾向をみせ保管需要が伸び悩んでいる一方で,荷動きの多品種小口高頻度化を受けて保管貨物の回転数は増加傾向にある。また,国民の食生活の変化を反映し,冷蔵倉庫においては冷凍食品等の加工品の保管のウェイトが高まってきている。
  こうした状況の下で,大手の倉庫業者は,保管・荷役機能の近代化・合理化のほか,流通加工業務や在庫管理業務,輸配送機能の強化にも努めている。さらに,貨物流通VAN等による情報ネットワークヘの参加,国際複合一貫輸送への取組みも一部で行われている。
  このような動きは,今後・中小倉庫事業者にとっても総合的な物流機能を兼ね備えたトータル倉庫業者への展開を図っていく上で重要であるので,適切な支援措置を講じていくことが必要である。


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