1 都市交通の整備
(1) 都市交通の現状と課題
(各都市の実績に応じた交通問題の解決)
都市において,交通は,通勤・通学をはじめとした日常生活に重要な役割を果たすとともに,多極分散型の国土形成を図る上で核となる都市の魅力を高め地域社会の定住・活性化の促進に大きく貢献するなど,極めて重要な役割を有しているが,交通をとりまく環境の変化に伴い各都市において様々な問題が発生しており,それぞれの実情に応じた問題の解決が強く求められている。
(混雑率が高く,長時間を要する三大都市圏の通勤・通学)
三大都市圏においては,居住地の外延化が進み,通勤・通学に要する時間が増大するとともに、輸送力の整備が進められているにもかかわらず,なお通勤・通学のピーク時における鉄道の混雑率注)が200%を超える区間があるなど依然として著しい混雑状況にある。
運輸省が昭和60年秋に実施した大都市交通センサスによると,三大都市圏の中心都市へ当該都市の周辺から公共交通機関を利用して通っている通勤・通学者については,その数が依然として増加傾向にある。
首都圏では,23区へ275万人の人々が流入しており,神奈川県から74万人,埼玉県から72万人,千葉県から64万人にのぼっている。50年と比較してみると,千葉県が13万人増で26%の伸びといちばん大きい伸びを示しており,特に千葉県西部の増加が著しい 〔5−2−1図〕。
(走行環境の悪化が進む都市部)
我が国の自動車保有台数は,最近10年間に約2,000万台増加し,61年11月には5,000万台の大台を超えた。自家用乗用車は,この自動車保有台数の増加において中心的な位置を占めており,その旅客輸送量は年々拡大し,61年度には全輸送量の43.7%(人キロベース,軽自動車を除く。通達している。このようなモータリゼーション進展の背景としては,国民の所得水準の向上や道路網の整備の進展等が考えられるが,最も大きな要因は自動車の持つ機動性,随時性,個室性等の数多くの特性によるものであろう。
モータリゼーションの進展は,国民のモビリティを大きく向上させてきたが,一方では,都市部における道路混雑等の様々な問題を惹起している。
例えば,都市部においては,バスの表定速度が低下し,定時運行の確保が図れない等の事態が生じ,その機能が十分発揮できない状況にある 〔5−2−2図〕。
このため,大都市圏内の旅客輸送における乗合バスの分担率は年々減少しており,また,分担率を増加させてきた自家用乗用車も,55年以降,伸びが鈍化する傾向がみられる 〔5−2−3図〕。
(求められる公共交通機関の整備)
都市部においては,通勤・通学の際に鉄道,バス等の公共交通機関を利用している者が高い割合を占めており,上述のような状況にある都市交通問題に対処してその改善を図ることが重要であるが,そのためには,鉄道,バス等の大量公共交通機関を中心とした信頼性,利便性の高い効率的な交通体系の整備が求められている。
このため,大都市圏における鉄道等の整備については,従来から,都市交通審議会等の答申においてその整備の方向が示されている。東京圏については,60年7月運輸政策審議会より改めて21世紀をめざした新たな整備計画が答申され,また,大阪圏についても62年10月,運輸政策審議会に対し高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本的計画の見直しについて諮問を行い,現在審議が進められている。
また,地方都市については,地方交通審議会から答申を受けた都道府県を単位とする地域交通計画において,長期的展望に立った公共交通機関の整備の方針が示されている。
(2) 都市鉄道の整備
(都市鉄道の整備の必要性)
都市における公共交通機関の混雑を緩和し,都市機能の維持増進と国民生活の質の向上を図るため,高速性,快適性,効率性に優れた輸送機関である鉄道の整備を,採算性に留意しつつ積極的に進めることとしている。
このため,国は,旅客会社(JR)の都市鉄道の整備について助成を行うとともに,地方公共団体と協力して,地下鉄及びニュータウン鉄道の整備並びに日本鉄道建設公団の行う地下鉄直通都心乗入れ民鉄線等の整備に対して助成を行ってきており,62年度には総額で補助金等743億円及び財投6,481億円が計上されている。
また,複々線化等の大規模な輸送力増強工事を促進するため,運賃収入の一部を非課税で積み立て,これを工事資金に充てることができる特定都市鉄道整備積立金制度が設けられている。
(旅客会社(JR)の鉄道の整備)
旅客会社(JR)については,大都市圏における輸送力増強のための施策として,61年11月に福知山線宝塚・新三田間の複線化・電化が完成したほか,山陰線京都・園部間,横浜線相原・八王子間の複線化工事等が行われている。
また,京葉線東京・蘇我間全線開業のための工事が64年度完成を目途に日本鉄道建設公国により進められているが,新木場・蘇我間については,これまでの部分開業区間を拡大し,63年12月を目途に暫定開業を行う予定となっている。京葉線はこれにより,63年夏頃に開業が予定されている営団地下鉄有楽町線新富町・新木場間を経由して都心と直結されることとなる。
(地下鉄の整備)
地下鉄の整備は,年々着実に進められており,62年10月現在,帝都高速度交通営団及び9都市(札幌声,仙台市,東京都,横浜市,名古屋市,京都市,大阪市,神戸市及び福岡市)において総営業キロ466.8kmの運営が行われているがさらに69.6kmにのぼる新線建設が進められている(61年度投資額3,293億円)。
(ニュータウン鉄道の整備)
ニュータウン鉄道については,泉北ニュータウン,千葉ニュータウン及び西神ニュータウンにおいて営業が行われているが,62年3月には西神ニュータウン線の学園都市〜西神中央間5.9kmの延伸開業をみ,さらに,港北ニュータウンにおいて横浜市3号線の建設が進められている。
(大手民鉄線の整備)
大手民鉄14社は,36年度以降61年度までに6次にわたる輸送力増強等投資計画(総額3兆1,045億円)を推進し,合計で新線建設182.5km,複々線化20.9km等の整備を達成した。
その結果,輸送力は着実に整備され,混雑率も年々低下してきている 〔5−2−4図〕。
62年度からの第7次計画(〜66年度〉においては,総額1兆3,600億円(対6次計画比40%増)の投資を予定している。本計画により,複々線化,車両の増備,運転保安の充実,エスカレーターの設置等を積極的に推進し,66年度末には,ラッシュ時の混雑率を61年度末の184%から178%に,車両の冷房化率を同85.7%から95.7%にする予定である 〔5−2−5図〕。
また,複々線化等抜本的な輸送力増強を図るため,62年10月には東武鉄道ほか4社から特定都市鉄道整備促進特別措置法に基づき,特定都市鉄道整備事業計画の認定の申請が行われたところである。
(日本鉄道建設公団による民鉄線の整備)
日本鉄道建設公団は,大都市において,輸送力増強効果が大きくしかも緊急に整備することを要する地下鉄直通都心乗入れ工事,既設線の複々線化工事及びニュータウン線建設工事について,完成後民鉄事業者に譲渡する方式による整備を進めている。62年度予算におけるこの方式による工事規模は1,120億円であり,前年度に比べて27%増加している。62年10月までに13線75.1kmが民鉄事業者に譲渡されており,現在工事中のものは11線91.5kmとなっている。
(モノレール,新交通システムの整備)
モノレールは,東京モノレール(株)羽田線等6路線が営業中であり,東京,千葉及び大阪において3路線が工事中である。
また,新交通システムとしては,神戸新交通(株)ポートアイランド線等5路線が営業中であり,埼玉,神奈川,愛知及び兵庫において4路線が工事中である。
(3) 鉄道輸送サービスの向上
都市鉄道については,国民の生活水準の向上に伴い,輸送サービスの量的側面のみならず,利便性,快適性といった質的側面の向上を図る必要がある。
このため,列車の長編成化,複々線化等の輸送力増強により混雑緩和を図ることに加えて,乗り換え不便の解消のための鉄道の相互乗り入れ,輸送の快適性,利便性向上のための車両の冷房化,駅施設の整備など輸送サービスの向上に努めている。
このうち,都市鉄道の相互直通乗り入れについてみると,61年10月に近鉄東大阪線と大阪市地下鉄中央線との間で,62年8月には東武鉄道東上線と営団有楽町線との間で開始されるなど順次拡大しており,現在51区間で相互乗り入れが実施されている。
また,車両の冷房化については,61年度で東京・大阪地区の国鉄の冷房化率が83.9%,大手民鉄14社合計の冷房化率が85,7%となっており,年々着実に向上している。
さらに,駅舎等の施設については,計画的にホーム屋根,エスカレータ等の整備に努めるとともに,身体障害者等交通弱者の移動の利便性を確保する観点から,順次,車椅子通路誘導ブロック,身障者用トイレ等の整備を進めている。
(4) バスの活性化
(望まれるバスの活性化)
都市交通においては,円滑なモビリティを確保するとともに省空間,省エネルギ等の要請に対応していくために,バスを魅力ある交通機関として再生していくことが重要である。このため,バス専用レーンの設置を都道府県公安委員会に働きかける等バスの走行環境の改善を推進するとともに,運輸省は,バス車両,停留所施設等の改善を指導してきており,さらに,都声新バスシステム等新しい都市バスの方向を示す種々の試みに対して助成を行うことにより,都市におけるバスサービスの改善方策を強力に推進している。
(進む都市新バスシステムの整備)
都市新バスシステムは,都市交通体系上の根幹となるべき主要なバス路線において,バス専用レーンの設置と併せて,次のような施設の整備を総合的に行うものである。
@ バス路線総合管理システムを導入し,コンピュータ制御による車両運行の中央管理により団子運転の解消を図るとともに,バスロケーションシステムの整備により停留所におけるバス接近表示を行い,バス待ちのイライラを解消させる。
A 低床,広ドア,冷暖房,大型窓等を備えた都市型車両の導入により,バス輸送の快適性を向上させる。
B シェルター,電照式ポールを備えた停留所施設の設置により,バス輸送の利便性を向上させる。
このシステムは,58年度から61年度にかけて,国の助成を受けて,東京都,新潟市,名古屋市,金沢市,大阪市,福岡市,富山市及び神戸市の8都市において導入されている。地域によって程度の差はあるものの,おおむね表定速度,輸送人員が増加しており,都市新バスシステムは,確実にその効果を上げつつあるといえる 〔5−2−6表〕。
(今後のバス交通活性化の方策〉
バスの利便性を向上させ,バス需要を喚起するためには,都市新バスシステムの導入のほか,鉄道駅等においてバス乗り場,発車時刻,運賃等を総合的に案内表示するバス総合案内システム,鉄道等他の交通機関との乗り継ぎを円滑に行うための乗継システム,利国者の呼び出しに応じて機動的なバスの運行を行うディマンドバスシステム,現金,回数券を持ち歩かなくてもバスに乗れるようにするプリペードカードシステム注)の導入等,様々な方策が考えられる。運輸省では62年度からは,これらの新たな技術を生かした施設,設備の整備も助成の対象として加え,バス交通の活性化を図っている。
(5) タクシーサービスの高度化
タクシーは,少量需要に対応する機動的な交通機関として,鉄道,バス等の大量交通機鷺により難い,便利できめ細かな交通サービスを提供しており,国民の日常生活にとって必要不可欠な交通機関となっている。
このようなタクシーが多様化・高度化する利用者のニーズにさらに的確に対応していくため,配車の迅速性,効率性を高めるための無線化の推進や,AVMシステム注)の導入(61年度末現在132都市において28,745台がこのシステムの下で稼働),タクシ乗場の整備,大きな荷物も同時に運べるワゴンタクシーの導入(61年度末現在326台が稼働),年末における需要増に対応するための臨時増車やタクシ乗場での計画配車の実施等を図っている。このほか,接客態度の向上,地理指導教育の徹底,すべてのタクシーに和用できる共通クーポン券の導入,観光需要等に対応した観光ルート別運賃の設定等を指導し,更にはプリぺードカードシステム導入等の検討を行っている 〔5−2−7表〕。
(6) 深夜輸送力の確保
都市における活動時間の延長に伴い深夜における住宅団地と鉄道駅との間の輸送需要が増大しており,これに対応した輸送力を増強することが必要となっている、
このため,相当程度の安定的輸送需要がある場合において,まず,終バス時間を延長することとしているが,コスト等の面でこれが困難な場合には,コストアップを吸収し得るよう運賃を割り増して深夜バスとして運行するよう指導してきており,62年3月末現在,このような深夜バスは,東京都,千葉県,埼玉県,神奈川県及び愛知県の5都県において124系統が運行されている。
なお,これらのバス輸送の実施が困難であり,かつ,終バス後一定量の定型的輸送需要が存する区間においては,タクシーの相乗りを制度化した乗合タクシーの運行を行うよう指導してきており,62年3月末現在,このような乗合タクシーは,東京都,千葉県,埼玉県,神奈川県,愛知県,大阪府,京都府,奈良県及び兵庫県の9都府県において59系統が運行されている。
注)混雑率: 180%=体がふれあうが,新聞は読める 200%=体がふれあい,相当圧迫感があるが,週刊誌程度なら何とか読める。 250%=電車がゆれるたびに体が斜めになって身動きができず,手も動かせない。
注) プリペードカードシステム:あらかじめ一定金額を支払って同等の購買力を有するカードを取得し,それを利用して商品・サービスを購入する都度カード内の残高が引き落とされるシステムのカード。テレフォンカード,オレンジカードがその代表例であるが,バス・タクシーにおいても,旅客が現金を持ち歩かなくても済むこと,清算業務が容易になること,旅客動向調査が行いやすいこと等のメリットが期待されている。
注) AVMシステム:Automatic Vehicle Monitoring System (車両位置等自動表示システム)の略。稼働中のタクシーの状況(現在位置,実車・空車の別)を自動的に配車指令室のパネル面に表示させるもので,迅速かつ効率的な配車が可能となる。
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