1 運輸事業のニューフロンティアへの展開
(1) 高度サービス社会の到来
(ニューサービスは厳しい選別,競争激化の時代へ)
国民の生活水準の向上を背景として,「もの」に対するニーズよりは,「もの」に付帯する知識,情報,サービスといった「もの以外」に対するニーズが高まっている。この動きが指摘されてから既に久しいが, 〔1−3−1表〕にあるように,運輸企業内においても付帯サービスが増加するなど,最近になってもこの動きは着実に進展している。21世紀の社会を展望してみるとき,我が国の経済社会は確実に成熟化へ向かい,所得水準の上昇,自由時間の増大,女性の社会進出などの特徴がみられるだろう。この社会においては,国民の意識,行動様式の変容により,これまで以上に利便性や快適性(アメニティ)が重視され,それを支えるサービス事業も,一層高度化・多様化して「高度サービス社会」が到来するものと考えられる。
現在,次々と誕生し,発展をしているニューサービス事業は,高度サービス社会の先駆け現象ともみられ,時代の先端をいく個人,家庭,事業所等の多様化・高度化したニーズに即応している。
このようななかで,運輸関連ニューサービスの業態の具体例をみてみると,物流ニーズの高度化・多様化に対応し,既存のサービスとは差別化された,より高度なあるいは専門的なサービスを提供するものとして,急激な伸びを示している宅配便 〔1−3−2図〕やトランクルームサービスの他にも,高度情報化の要請に対応した産業,生活に係る各種気象情報のオンライン提供サービス,余暇の増大や国民のレジャー志向の高まりに対応したコンベンション,ニューレジャー・スポーツビジネス等,様々なアイデアに基づいた新しい業種が生まれている。
最近では,これらニューサービスもさらに新たな機能展開を見せており,この点で特に顕著な宅配便についてみると,未だ萌芽段階ではあるが,宅配便が商流,物流あるいはオフィス需要等と結合することにより,より一層専門的なサービスを提供するような事例もみられるようになった 〔1−3−3図〕。
この他に今後注目される事業としては,各地で盛んに行われ,今後にも大きな期待が寄せられているイベントに関連するニュービジネスが挙げられるが,このなかでは,コンベンション施設を管理運営するサービスや,コンベンションセンターの施設を借り上げ,自らイベントを企画するなど様々なマネジメントを代行するサービス(コンベンション・オルガナイズ・サービス)等のコンベンション関連のサービス,パーティ,イベントの運営を代行するサービスやケータリングサービス等の企業イベント関連のサービスが代表例となるだろう。
ケータリングサービスとは,企業内での小パーティやホームパーティ等で,パーティ料理などを出前するサービスであり,以前に比べて手軽に利用できるようになっている。社会現象として,人と人とのコミュニケーションの重要性が高まるにつれて,パーティ需要は増大していくものと見込まれており,特にこの種のサービスは拡大・多様化していくと思われる。
いま,このように発展しつつある運輸関連ニューサービスは,国民の高度で多様なニーズにどこまで応えることができるかというサービス水準の差異により,厳しい選別を受ける段階に入っている。ニューサービスが事業の中で既存の運輸サービスと同様の重要性を占めつつあるなかで,ニューサービス事業者は,一層の創意工夫により国民のニーズにきめ細かく応えて,この激しい競争を勝ち抜くための努力を払うことが求められている。このようなニューサービスをめぐる競争の中から,国民のニーズに一層適応したサービスが発展し,国民生活がより質の向上を遂げることが望まれる。
(2) 運輸関連ニューサービスに対する行政上の対応
(業務基盤の確立に向けて)
消費者は,高度で多様な運輸サービスを安心して利用できることを常に求めており,これらを保証することが行政の重要な課題の一つとなっている。運輸省は,このような認識のもとに,宅配便,引越し,トランクルームの各標準約款の制定や新運賃・料金の設定,さらにはクーリエサービスなどの国際宅配便等の指導,育成など積極的に対応を行っている。
また,とりわけ中小企業に対しては,昭和63年4月,異業種の知識の融合にるニューサービスの開拓を支援する「異分野中小企業者の知識の融合による新分野の開拓の促進に関する臨時措置法」が施行されたことに伴い,同法を活用したニューサービスの育成,指導を行っている。
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