3 物流企業の構造改善事業等
(1) 内航海運事業
(構造改善)
内航海運は,国内貨物輸送の45%(トンキロベース)を担う基幹的輸送機関であり,特に石油,セメント,鉄鋼等の産業基礎物資の輸送についてはその約80%(同ベース)を支えているなど,国内物流における役割は極めて大きい。また,最近では,産業基礎物資のみならず,雑貨等をも対象とする内航コンテナ船,RORO船の活動も活発であり,かつ,船型も大型化してきている。
しかし,こうした中で内航海運は,中小企業が9割以上を占め,さらに船舶貸渡事業者の約6割が一杯船主(生業的オーナー)と呼ばれる零細な事業者であること等から,経営体質,労働条件,後継者等について多くの問題も抱えており,このような業界構造が輸送の合理化,船舶の近代化等を妨げる要因ともなっている。しかも内航海運は長い間,不況状態にあり,今後も長期的には輸送量の伸びが期待できない状況にある。こうしたことから,その健全な発展を図り,中小企業者乱立型の業界構造を改善し,将来的な産業基盤をより強固としたものにするため,59年6月,事業者数の削減と内航海運組合の組織・活動の強化を柱とした内航海運業構造改善指針を策定し,これまでに,生業的オーナーの新規参入の抑制,転廃業に係る資産の買換え税制の特例(圧縮記帳)の適用,日本内航海運組合総連合会による転廃業助成金の交付,内航海運組合の再編・統合等の施策を総合的に実施,推進してきている。
こうした施策の結果,内航貸渡業者数は58年度末5,197であったものが62年度末には4,655と4年間で約11%減少しており,また内航海運組合については,58年度末133であったものを62年度までに76まで集約・合併等を行ってきたところであり,何れもその数の適正化が着実に進捗している。
(2) 港湾運送事業
港湾運送事業は,円高による輸入製品価格の低下,内需拡大等に支えられ,62年度船舶積卸量は,2年ぶりに増加し,過去最高の9億3,450万トンとなった。こうした中で,貿易構造の変化に対応した高度化事業への取り組みが,港湾運送事業の重要な課題となってきている。
例えば,東京港青海地区では,輸入対応のための青海流通センターが港湾運送事業者と港湾管理者との連携のもとに整備されつつあり,また,港湾貨物情報ネットワークシステム(SHIPNETS)等の情報化も進められつつある。このような高度化事業への取り組み支援のため,(財)港湾運送近代化基金では,財政援助を行っており,また,(財)港湾近代化促進協議会では,63年7月港湾運送事業高度化対策委員会を設置し,事業の高度化等の方策について鋭意検討中である。
一方,はしけ運送業等の在来荷役型港湾運送事業は,コンテナ船輸送,自動車専用船輸送等に対する荷主ニーズの増加とこれら輸送方法と結びついた荷役の近代化の進展から,需給の不均衡が長期に続いている。このため,事業の集約・合併等の合理化,五大港のコンテナターミナル運営付加料金によるはしけ対策等の構造改善対策,また,関係不況対策法に基づき所要の措置を講じている。
(3) トラック運送事業
トラック運送は,経済活動や国民生活に不可欠の物資輸送を担っており,60年度以降は,輸送トンキロベースでも内航海運を上回るなど国内貨物輸送機関の大宗としての役割を果たすに至っている。
しかし,一方で産業構造の変化や国民生活の高度化・多様化に伴って,多品種少量物品の多頻度で迅速な輸送サービスや流通加工等を含めた質の高い輸送サービスに対するニーズが高まるなど,物流動向に大きな変化がみられる。このため,トラック運送事業においても,このような利用者ニーズの変化に応えうる効率的なトラック輸送体系の形成,物流情報システムの構築等による対応を積極的に行い,付加価値の高い輸送サービスの提供に向けて事業の活性化を図ることが重要な課題となっている。
このためには,そのほとんどが中小企業であるトラック運送事業について,その構造的脆弱性を克服し,経営基盤の強化を図るとともに,過積載,過労運転等の不法な手段で競争を行うことがないように,安全運行の確保・労働環境の整備等を図っていく必要があり,経営方式の改革,共同マーケッティング,コンピュータリゼーション,人材開発等の事業に主眼を置いた経営戦略化構造改善事業の積極的な推進を図るほか,運輸事業振興助成交付金(62年度約150億円)の活用により,労働環境改善のためのトラックステーションの整備,人材開発に主眼を置いた研究研修事業等を推進しているところである。
(4) 利用運送業関係
(ア) 通運事業の現況
鉄道貨物輸送の長期にわたる低落とこの間の国鉄貨物の相次ぐ合理化等は,通運事業の経営を厳しいものとし,45年度に2億4,400万トンであった通運取扱量は,62年度には7,500万トンまで減少したが,62年4月の日本貨物鉄道株式会社(JR貨物会社)の設立とコンテナ輸送を中心とした販売方式が効を奏したコンテナ輸送の伸びが対前年度比9%となって,鉄道貨物輸送の低落傾向に歯止めがかかってきている。また,鉄道貨物輸送体制の変化に伴う急激な影響を緩和するために,通運事業者に対し,従来より行っている運輸事業振興助成交付金による利子補給事業の実施等の措置の充実・強化を図っていくこととしている。
(イ) 利用航空運送の競争の激化
航空貨物輸送は,近年着実に伸びてきているが,航空会社の行う運送を利用して混載運送を行う利用航空運送事業も,重量ベースで国内・国際ともここ10年間平均10%を超える伸びを示している。
航空貨物全体に占める混載貨物の割合は,国内においては約75%,国際においては約73%(いずれも重量ベース)と,航空貨物の輸送にとって重要な役割を果たしている。
国際利用航空運送においては,現在,邦人系17社,外資系9社の計26事業者が存在している。60年5月の日米航空暫定合意に基づき,63年6月以降,米国より小口航空貨物専門企業であるフェデラルエクスプレスが我が国へ参入してきたが,同企業はキャリアー(実運送人)であると同時にフォワーダー(運送取扱人)であるフォワーダー・キャリアーと呼ばれる企業であるため我が国の利用航空運送業界に少なからず影響を与えることとなったが,これに対応し,日本通運(株)が5月から,郵船航空サービス(株),近鉄航空貨物(株)が9月から国際宅配便に関する利用航空運賃の引き下げを内容とする限定運賃をそれぞれ設定し,国際宅配便のサービスを強化するなどの動きを示し,この業界の競争は一層激化するものと予想される。
(ウ) 運送取扱業関係
物流事業の中で,荷主とトラック等実際の運送事業者との間にたって,貨物の運送の取次等を行う事業がトラック,内航,航空の各事業分野に存在しており,これらは運送取扱業と呼ばれ,荷主に対してはきめ細かな輸送サービスを提供しており,多様化,高度化する物流の円滑化に重要な役割を担っている。
62年度末の事業社数は,自動車運送取扱業者が14,977事業者,内航運送取扱業者が1,595事業者,航空運送取扱業者が9事業者,となっている。
これらの運送取扱事業者は,自らも運送事業を行っている事例が多く見受けられ,同業他者と荷物を融通し合う必要性等から出発したケースが多いが,今後は,陸海空にまたがる多様な運送事業を相互に結合してより総合的,一体的な輸送サービスを成立させるといった高度な役割が求められるようになるものと考えられる。
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