北海道

第4章 計画の主要施策

第2節 地球環境時代を先導し自然と共生する持続可能な地域社会の形成

 持続可能で美しい北海道の実現に向けて、北海道の豊かな自然環境の価値を維持し向上させることが必要である。生物多様性の損失など自然環境の変化、天然資源の減少、地球温暖化といった地球規模での環境問題が深刻化しており、国民の自然に対するニーズが多様化している中でこれらの問題に対応し持続可能な社会を構築していくことが重要である。
 また、環境負荷の少ないエネルギー利用は、北海道の気候、地形、社会的特性を活かせる有利な分野であり、北海道に豊富に存在する自然エネルギー源を活かし、エネルギー問題の解決や地球温暖化対策について先導的な役割を果たすことが必要である。
 
(1) 自然共生社会の形成
 
(良好な自然環境の保全)
 北海道の豊かな自然環境は、我が国にとってかけがえの無いものであり、これを次世代に引き継ぎ、恵まれた自然と共生する社会を形成するためには、多様な野生生物の生息・生育環境の保全・再生・創出、水環境の保全・改善等を進め、生態系ネットワークの形成を図る必要がある。
 このため、世界自然遺産の知床及びその周辺地域、釧路湿原・サロベツ原野に代表されるラムサール条約湿地、自然公園などの自然環境の保全・再生を推進する。貴重な動植物の生息等に適した優れた自然環境を有する森林については、その機能を持続的に発揮させるように保全・管理を推進する。さらに、多様な動植物の生息・生育環境の確保を図るため、多自然川づくりを始め、河川や湿原、藻場、干潟、汽水域等の海域・沿岸域の良好な環境の保全・再生を推進する。
 また、水生生物の生息環境に配慮した海岸・港湾・漁港整備、野生生物の移動経路を確保した道路整備、生物多様性の保全を重視した農林水産業の推進など、豊かな生態系との共生を目指す。
 水質や河川流量等の水環境の保全・改善や土砂移動の阻害の改善等については、流域圏における健全な水循環系の構築や、山地から海岸までの一貫した総合的な土砂管理の取組を推進する。流域からの汚濁負荷を低減するため、下水道・浄化槽・農業集落排水施設の整備等の生活排水対策、畜産経営等における水質汚濁防止対策を、計画的・効率的に促進する。特に、河川・湖沼における水質悪化の進んだ閉鎖性水域等において、流域における汚濁負荷削減対策と一体となって、導水・底泥浚渫等の水質浄化対策を推進するとともに、水質悪化の進んだ港湾やその周辺海域において、浚渫・覆砂等による海域環境の改善を促進する。
 
(北海道らしい個性的な景観、自然とのふれあい空間の形成)
 北海道においては、都府県とは異なる歴史的・社会的条件が豊かな自然環境と相まって特徴的な景観が形成されている。これを継承するとともに、自然とのふれあいの場をつくり、人と自然とのつながりを保っていくことが必要である。
 このため、北海道の農村特有の良好な景観の形成を促進するとともに、農村の豊かな自然環境の保全・再生に向けた活動を支援する。また、湿地の保全・再生、多自然川づくり、防雪林や道路敷地における緑化等の取組を推進する。都市部については、まちづくりや河川整備等が一体となって水と緑の連続性を確保することにより、水と緑あふれる都市空間の形成を推進する。
 また、北海道の自然環境の魅力を活用し、内外の人々の保養・交流空間や自然とのふれあい空間を提供するため、都市公園や水辺・海辺、フットパス(注12)等の整備を推進する。
 
(豊かな自然をはぐくむ意識の醸成)
 北海道の豊かな自然を次世代に継承するためには、国、地方公共団体、住民、NPO、企業等の多様な主体が協働して環境保全活動に取り組むことが必要であり、環境保全に係る教育や情報提供を通じて、豊かな自然をはぐくむ意識を醸成することが重要である。
 このため、学校、地域、社会等幅広い場において環境教育を実施する。また、環境教育を担う人材の育成や人材認定等事業の登録制度の運用、効果的な環境教育プログラムの整備、環境に関する正確な情報を入手できるインターネット等を活用した情報提供の体制を充実する。
 
(自然とのかかわりが深いアイヌ文化の振興等)
 アイヌの伝統や文化が置かれている状況を踏まえると、アイヌ文化の振興等を図るための施策を推進することが必要である。
 このため、自然とのかかわりの中で育まれてきたアイヌ文化を総合的に伝承していくアイヌの伝統的生活空間(イオル)の再生を支援するとともに、アイヌ語やアイヌ文化の振興、アイヌの伝統等に関する普及啓発、アイヌに関する総合的かつ実践的な研究を支援する。
 
(重視すべき機能に応じた森林づくりの推進)
 森林の有する様々な多面的機能を持続的に発揮させるためには、重視すべき機能に応じた望ましい森林の姿として、水土保全林、森林と人との共生林及び資源の循環利用林に区分し、それぞれの森林について重視すべき機能に応じた望ましい森林の姿へ誘導することが必要である。
 このため、林業・木材産業の構造改革と木材利用の推進による間伐等の採算性の向上、森林整備・保全の担い手の確保・育成と山村地域の活性化及び森林所有者のみならず都市住民・企業等幅広い主体による森林づくりの推進に取り組む「美しい森林づくり推進国民運動」の展開により、着実な間伐の実施や、針広混交林化、長伐期化等の多様で健全な森林づくりを推進する。
 
(2) 循環型社会の形成
 資源採取、生産、流通、消費、廃棄などの経済社会活動の全段階を通じて、新たに採取する資源をできる限り少なく、また、環境負荷をできる限り少なくするため、3R(廃棄物等の発生抑制(リデュースReduce)、循環資源の再利用(リユースReuse)及び再生利用(リサイクルRecycle))の推進により、循環型社会の形成を図る必要がある。
 特に北海道では、全国平均と比較して1人当たり廃棄物排出量が多く、廃棄物の直接埋立処分の割合が高いことに加え、リサイクル率が低くなっており、循環型社会の形成に向けた取組を一層加速する必要がある。
 このため、リデュース・リユースについては、老朽化した公共施設の適切な維持管理や改良整備等により施設機能を適切に維持し、ライフサイクルコストの縮減及び施設の長寿命化を推進する。良質な住宅ストックを長く大切に使う社会の実現のため、耐久性に優れ生活様式等の変化に柔軟に対応できる住宅・建築物の普及や、住宅等の履歴情報システムの構築を促進する。
 また、リサイクルについては、下水熱等都市部における廃熱、家畜ふん尿・下水汚泥からのバイオガスの回収など未利用・廃棄物系バイオマスの有効活用を中心とした再生利用を図るとともに、最終処分場も含めた廃棄物処理施設の整備を促進する。また、総合静脈物流拠点港(リサイクルポート)の整備等を通じた効率的な静脈物流ネットワーク(注13)の構築を推進する。
 さらに、国等の行政機関は、事業ごとの特性や必要とされる機能の確保、コスト等に留意しつつ、率先して環境物品等の調達を推進する。また、建設工事のゼロエミッション(注14)化に向け、公共事業の実施に伴う発生土砂の有効活用などを推進する。さらに、循環型社会の形成を図るためには、人々の意識と行動の変化が不可欠であることを踏まえ、環境教育等を通じた意識啓発を推進する。
 
(3) 低炭素社会の形成
 
(地球環境負荷の少ないエネルギーの利活用促進)
 地球温暖化問題が顕在化する中、生活の豊かさの実感と、二酸化炭素排出削減が同時に達成できる低炭素社会の実現に向けた取組を進めることが急務となっている。
 北海道は、風力、太陽光、雪氷冷熱、バイオマスなどのクリーンエネルギー源が豊富に存在しており、これらの資源を活用して、環境負荷の少ないエネルギーを積極的に導入することで、二酸化炭素排出量の削減を図り、地球環境負荷の低減に向けた先駆的・先導的な役割を果たす必要がある。
 このため、原子力や天然ガス、自然エネルギー源等の利用によりエネルギー源の多様化を推進する。特に、クリーンエネルギーの地産地消の観点から、その先導的な利用を推進する。
 また、資源作物や未利用・廃棄物系バイオマスからのバイオエタノール、バイオディーゼル燃料の生成などに必要な技術の開発及びその積極的な利用を推進するとともに、これらを新たな地域産業の核とする地域社会の活性化を推進する。
 
(効率的なエネルギー消費社会の実現)
 積雪寒冷、広域分散型社会といった北海道の特性にかんがみ、熱のカスケード利用(注15)や効率的な交通システムの整備等を進め、エネルギー消費効率の高い地域社会を形成していく必要がある。
 このため、民生部門については、住宅・建築物におけるエネルギーの効率的な利用に資する技術や設備の導入等を促進するとともに、都市部における地域熱供給や熱電併給(コージェネレーション)の導入を促進する。
 また、運輸部門については、低公害車の導入、エコドライブ(環境負荷の軽減に配慮した自動車使用)の推進、市街地における渋滞対策、高規格幹線道路の利用促進、情報通信技術を活用した道路交通情報等の提供の充実、貨物の発着地に近い港湾の利用による陸送距離の短縮等を通じた効率的で環境にやさしい物流体系の構築(グリーン物流の推進)、公共交通の利用促進、船舶のアイドリングストップなど、環境負荷の少ない交通体系の構築を推進する。
 
(温室効果ガス吸収源対策の推進)
 森林は、その成長の過程で二酸化炭素を吸収し、長期に貯蔵することが可能であるとともに、木材は、カーボンニュートラル(注16)という特性を有していることから、木材利用を通じた森林整備・保全を進めることが重要である。
 このため、間伐等の適切な森林の整備・保全等を推進するとともに、国民一人一人の行動を促す観点から、地域住民、NPO等との協働による国民参加の森林づくり等の取組を推進する。また、道路、河川の緑化や公園、港湾緑地の整備等を推進する。
 さらに、住宅や公共部門等への木材の利用の拡大や、林地残材等の未利用木質バイオマスの利用の拡大を支援する。
 
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(注12)フットパス:その地域固有の自然や文化等に触れながら、歩くことを楽しむための道。
(注13)静脈物流ネットワーク:静脈物流とは、人の血管に例えて、動脈物流である製品系の輸送に対し、生産や消費活動で排出したものの輸送を示す。臨海部等において、リサイクル処理施設の集中立地等による静脈物流の拠点化や低コストで環境負担の小さい海上輸送を活用したネットワークを形成し、循環資源の収集・輸送・処理の適正化を図る。
(注14)ゼロエミッション:建設廃棄物の削減やリサイクルを促進することにより、最終処分量ゼロを目指すこと。
(注15)熱のカスケード利用:例えば、高温域の熱を発電に、その排熱を蒸気や温水として利用する等、熱の温度帯に応じた様々な用途に段階的に使用すること。
(注16)カーボンニュートラル:木材を燃焼すること等により放出される二酸化炭素は、植物の成長過程で光合成により大気中から吸収した二酸化炭素であることから、全体で見ると大気中の二酸化炭素を増加させないという性質。

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