Q&A集
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Q 政策評価は具体的にどのように行われるのですか?
Q

NPMの中心的な理念は顧客重視ですが、行政の場合「顧客」という発想に慣れていないこともあり、成果重視とよばれることもあります。これの反対の概念が「手続重視」です。行政が良い仕事をしているかどうかを、「言われたことをきちんとやったか」「作業効率は良かったか」で評価するのではなく、組織のミッション(使命)や政策の目的に照らした成果がもたらされているかどうかで評価しようというものです。つまりインプット(予算をどれだけ使ったか)、アウトプット(事業をどれだけしたか:例えば道路の整備延長、パトロール巡回件数等)だけではなく、アウトカム(成果:例えば、渋滞がどの程度緩和されたか、犯罪がどの程度減少したか等)を重視するものです。

欧米諸国で実施されている政策評価の基本的な方式は、業績測定(Performance Measurement)とよばれるものです。これは、「目標によるマネジメント」の観点から評価をするもので、アウトカムに着目した目標を設定し、定期的にその達成度合いを測定するものです。

○ 目標設定(※2)

行政の目標には様々なものがあるが、いずれも組織の不変のミッション(使命)を達成することが基本となる。通常はミッションでは広すぎるので、具体の政策分野ごとに、政策が目指す望ましい社会的状況や状態を記述する(=アウトカム目標)。目標自体は定性的で構わないが、「目標によるマネジメント」の基本から、各政策企画立案部局が、目標達成に効果的な施策等を企画立案できる程度に内容が明確である必要がある。例えば、「地域活性化」という抽象的な言葉だけでは十分明確な目標とはいえない。
国土交通省では、本解説にある通り、27のアウトカム目標を設定、公表している。

以下は、「成果重視の行政運営」を積極的に推進していることで知られるアメリカのアイオワ州政府が、職員向けに作成した「アウトカム目標”発見”フロ−チャート」である。
(施策名)の目的は、(施策の対象者)に対して(施策の内容)というサービスを提供し、彼らが(施策の目標とする状態)ことである。

 (例)
「就業促進施策」の目的は、福祉給付金対象者に対して、職業訓練の機会と職業斡旋というサービスを提供し、彼らが公的助成の対象から離れて経済的に自立することを支援することである。

 (出典)"Budgeting for Results Handbook"(State of Iowa)

業績測定は、目標(アウトカム)の達成状況をみるものであって、「目標によるマネジメント」を組織全体として確立することを目指すものです。事務事業評価と異なり、一つ一つの事務事業ごとに細かく見る必要はないのですが、全体としてうまくいっているかどうかをチェックするためのものなので、主要な業務分野をカバーする必要があります。また対外的には、当該組織の主要な業務分野に関し、目標の全体像とその達成状況を一覧性をもって国民にわかりやすく示すという説明責任の向上という役割も担っています。

なお、ミッションと、こうしたアウトカム目標を組織内外に向けて広く周知させるために策定されるものが「戦略計画」と言われるものです。戦略計画に従い、大きなミッション(使命)からアウトカム目標、さらには具体の施策、事業と企画立案していく、演繹的な思考方法、仕事の進め方こそ「目標によるマネジメント」とよべるものです。これに対し、事務事業評価は、既存の事務や事業といった目に見えるものをチェックするもので、帰納的な発想です。帰納的なやり方だけでは、今までにない仕事のやり方やユニークな施策というものは生まれにくいと言われています。
(注1)
民間企業や欧米諸国の中央省庁の「戦略計画」は、一般的に、1ミッション、2アウトカム目標、3マネジメント改革の考え方 の3つから成り立っています。国土交通省として、統合後まもなく公表した「国土交通省の使命、目標、仕事の進め方」(注2)は、それを目指して作ったもので、今後、政策評価の結果等も踏まえて、さらに本格的な「戦略計画」作りを行っていく必要があります。

さて、設定した目標は定性的な記述が多いので、それを定期的に測定可能な指標におきかえて、その指標単位で業績の測定を行っていくことになります。これを業績指標といいます。

○ 業績指標(※4)
業績測定をする上で、政策目標ごとに、業績の達成度を継続的に測定できる指標。「道路の整備延長」などはアウトプット指標、渋滞緩和というアウトカムを測るための「都市部のラッシュ時における平均走行速度」などはアウトカム指標とよばれる。欧米では、次のSMART基準を満たすことが「良い指標」の基本とされている。
 Specific (具体的)
 Measurable (測定可能)
 Ambitious (意欲的)
 Realistic/Relevant (現実的/目標との関連性)
 Timed (時宜を得た)
国土交通省では、解説にある通り、112の業績指標を設定、公表している。

その上で、各業績指標に対する具体的な目標値を設定します。目標値の設定に当たっては、それが恣意的に設定されたのではなく、国民のニーズを正しく反映したものであるかどうか、その「正当性」を確保することも重要なポイントですなのです。
業績測定自体は、実績値を測定して、目標値と対比させることだけで、それに対していいか、悪いかの「判定」までするものではありません。ただ、目標を達成しなかった項目については、なぜそうなったのか、考えられる外部要因等も含めて、説明する必要はあります。

業績測定は一種、「人間ドック」に近いものだと言えるでしょう。別にどこが悪いという自覚症状がなくても、定期的に全身を検査することに意味があるものです。人間ドックの場合は、検査で「引っかかる」と精密検査を行うことになります。精密検査に相当するものは、評価の世界では「プログラム評価」と言われています。
「プログラム評価」の「プログラム」とは、あるアウトカム目標を実現するための施策、事業の集合体をいいます。個々の施策、事業を個別に評価するよりも、同じアウトカム目標を共有する施策、事業を一緒にまとめて評価するほうが、それぞれの施策等の効果の因果関係・相関関係や、全体の中の寄与度などを明らかにすることができ、評価結果を踏まえた改善方策の検討をする上で、有益な情報が得られるからです。プログラム評価は、あるテーマに即したプログラムを対象として、掘り下げた分析をするところにポイントがあるので、評価に関する技術・手法を駆使し、時間やコストがかかるのが一般的です。したがって、あらゆるテーマについて毎年できるという性格のものではなく、業績測定で「引っかかった」もののほかは、あらかじめテーマを決めて重点的、計画的に実施することが望ましいと言われています。
NPM型の政策評価を法律上位置づけたものが1993年に制定されたアメリカのGPRA(政府業績評価法)です。この法律により、連邦政府の各省庁は、1「戦略計画」の策定、2そこで示された政策目標に照らした「業績測定」の実施、3「プログラム評価」の計画策定 が求められています。アメリカは、法の制定以来、その本格的な実施までに7年間の準備期間等をおいています。評価を実施する前に「戦略計画」を策定すること、それを踏まえた業績指標を開発することに十分な時間をかけたものです。なお、業績測定の場合は、結果を測定することよりも、戦略計画、政策目標という形で、国民とコミュニケーションしながら、目標を設定するプロセスにも大きな意味があると考えられています。

業績測定とプログラム評価は既存の政策の効果を把握することを基礎にする「事後評価」の代表的な方式です。このほか、政策の意思決定前に実施する「事前評価」は、事前に政策効果を予測することが一般に困難で、事後評価に比べて精緻な評価は難しいとされていますが、政策を企画立案する以上、評価をすることは本来必要なことです。
個別公共事業については、事前評価として、費用対効果分析等を活用した「新規事業採択時評価」が実施されています。(個別公共事業については、再評価等、事後評価も実施しています。公共事業の場合、これらを総称して「事業評価」とよびます。

(※2)HP参照。http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha01/01/010130_.html

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