交通事故被害者ノート
28/76

c被害者と家族ー・•----------------------• •ー-•ー-•ー-•ー-•ー-•ー·•ー-•ー-•ー·•ー-•ー·•----------------j r ・ .----------------------・ •ー-•ー-•ー-•ー-•ー-•ー·•ー-•ー-•ー·.�[-.�[----,自動車事故対策機構千葉療護センターセンター長小林繁樹21 コラム①「重症頭部外傷の治療と御家族の役割」1.重症頭部外傷と急性期の治療「交通事故で頭を強く打って病院に救急搬送された」と聞いた御家族がまず思うのは、「命は助かるの?」で、次には「助かったとして後遺症は?」です。よく「脳は硬めの豆腐くらいの柔らかさ」といわれます。交通事故などで頭を強く打つと、この豆腐くらいの柔らかさの脳は、頭蓋骨という固い殻の中で激しく揺り動かされ、崩れたりひび割れたりします。これが脳挫傷です。最初の数時間から数日の間には、この脳の傷から出血したり、痛んだ脳が腫れ上がったりするため、様々な手術によって血の塊を取り除いたり(血腫除去術)、頭の内側の圧力を下げるために頭蓋骨を大きく切り取る(減圧開頭術)手術や、体温を下げて脳の腫れを抑える治療(脳平温療法)などが行われます。特に最初の2週間は不安定な状態が続くため、集中治療室で厳重に管理されますが、この期間はまさに救命のための期間ということになり、後遺症の種類や程度は予測できません。この期間を過ぎると全身の合併症や感染症などの心配はあるものの徐々に状態は落ち着いて来るため、後遺症の種類や程度が少しずつ見えてきます。2.慢性期の治療とリハビリテーション重症頭部外傷で神経細胞が壊れてしまうと、その神経細胞が担っていた機能が障害され、これが運動麻痺や失語症などの後遺症となります。なかでも最も重篤なのが遷延性(せんえんせい)意識障害といって、「意識が戻らない」「目が鴬めない」状態です。これは脳の深い場所にある脳幹網様体というコンピュータでいえば電源部の働きをしている部分が傷害されたり、脳の複数の部位が傷ついた場合に起こります。意識が戻らなければ、ヒトとして最低限の行動である「食べる」「排泄する」「移動する」ことは出来ませんし、他の人とコミュニケーションする事も不可能です。またこのような状態では、一般的なリハビリテーションも出来ません。では、急性期を過ぎても麻痺や意識障害がある場合、回復することはないのでしょうか。脳の神経細胞には爪や皮膚のように再生する力がありませんから、壊れてしまった脳組織自体の機能が回復するのは難しいと思われます。しかし多くの場合破壊された部分の周囲には、「完全に壊れてはいないが、一時的に活動できなくなっている部分」があります。この部分は回復しやすい環境を整えていると、徐々に息を吹き返してきます。また、リハビリテーションを行うことで、脳の他の部分が破壊された部分の機能を引き継ぐように学習する場合があります。したがって、急性期を過ぎた後には、脳が回復しやすい環境を維持しつつ、リハビリテーションを行うことが重要となります。この「脳が回復しやすい環境」を実現するには、全身状態を安定させることが最も重要です。また、急性期から慢性期に移行する時期に、薬の調整を行うなど治療を上手く切り替えて行くことも重要となります。事故から時間が経っても意識が戻らない場合、御家族の心配は特に大きいと思います。しかし、この遷延性意識障害からの回復には、御家族の関わりが大変重要な役割を果たします。「意識が戻る徴候」に初めに気付くのが御家族であることは度々経験します。患者さんの脳にとって「聞き慣れた家族の声や感触」は特別な刺激になるのではないでしょうか。事故の瞬間から意識を失った患者さんにとって、徐々に目が鴬めて「自分に何が起こっているのか判らない」、「何故思うように体が動かない、話せないのか判らない」という恐ろしい暗闇のような状況の中で、御家族の声や姿、温かい手の感触は何よりの支えになるはずです。また、患者さんの趣昧や好みを一番良く知っているのは御家族です。事故前に好きだった音楽を聴かせたり、好きなチームや話題について話しかけてあげることも心地の良い刺激になると思います。このような刺激が記憶を呼び覚まし、脳の傷んで眠っていた部分を寛醒させるのかもしれません。交通事故による重度の脳損傷患者さんを治療するために、国土交通省所管の自動車事故対策機構は全国に4つの療護センターと(計230床)、了力所(計80床)の委託病床を設置しています。療護センターでは重度の脳損傷の慢性期患者さんに対し、障害の状態を多方面から再評価し、回復の可能性を最大限に引き出す治療を行うと共に、意識障害の強い患者さんに向けて工夫を凝らした看護やリハビリテーションを行っています。また、最近話題になっている再生医療やその他の新しい治療を導入するなど、様々なチャレンジも始まっていま,す。※コラムの内容は令和4年11月現在のものになります。3.意識の回復と御家族のカ4.療護センターでの治療

元のページ  ../index.html#28

このブックを見る