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GPS性能の理解(26件、26隻)
   GPSの性能の理解不十分
    (1) GPSプロッターの地形図の理解不十分(14件、14隻)
    GPSプロッターの地形図は、「海図と同じ情報が表示されている」と思い込み、GPSに頼って航行して海難が発生している。
    事件種類別では乗揚が約8割、船種別ではプレジャーボートが半数を占めている。
    プロッターに表示されていなかった障害物等は、干出岩が4件、浅礁が4件、新たに築造された防波堤が3件などとなっている。
    操船者のうち半数が発生場所の通航経験が初めてで、海難原因のほとんどが「水路調査不十分」となっている。
GPSプロッターの地形図はあくまで参考として、航海には海図を使用する。
「GPSプロッターの地形図の理解不十分」海難発生に至る経緯をみる。
  


      (2) GPSプロッターに表示される船位等の精度の理解不十分(10件、10隻)
      GPSによる測位では、衛星の関係で多少の誤差が生じていることを理解せず、GPSプロッターに表示された針路線や往航時の航跡を頼りに安全な針路で航行しているつもりが、浅礁等の障害物に接近して海難が発生している。
      事件種類別では乗揚が6割、船種別では漁船が6割を占めている。
      日没後の薄明時から夜間に7割が発生している。
      海難原因の7割が「船位不確認」、「針路選定不適切」となっている。
GPSの精度、保針の精度等を考慮し、障害物から十分に離した針路とする。


  GPS機器の取扱いの理解不十分(2件、2隻)
      魚群探知機兼用型GPSプロッターを主機停止中に使用し、バッテリーが過放電していることに気づかず、機関が始動できず航行不能となっている。
魚群探知機兼用型GPSプロッターは、単体のGPSに比べて消費電力が多いので、機関を停止してバッテリーのみを使用中は過放電に注意する。


GPS機器の操作(33件、33隻)
  GPSの調整等に気を取られた(16件、16隻)
      出航後において「電源投入からレンジの調整」、「不調のための調整」、「画面の調整」のために、周囲をいちべつしただけで危険を見逃し、調整作業に没頭して海難が発生している。
事件種類別では衝突が8割、船種別では漁船が8割弱を占めている。
出航前に調整可能であったものが約5割を占めている。
漁船12隻中7隻が、見張りや操舵を十分に行えない態勢でGPSを調整しており、GPSの設置場所に問題がある。
衝突13件中、海難原因のほとんどが「見張り不十分」で、そのうち8件が錨泊・漂泊している船舶に衝突している。
航行中にGPSの調整を行う場合は、周囲の安全を十分に確認する。

出航前に調整可能であったもの
電源投入から、レンジの調整等 4隻
故障しているGPSの動作確認 1隻
漁場間の針路を確認するために手引書を見ながら調整 1隻
購入したばかりのGPSの操作練習 1隻

衝突事件の形態

  GPSのデータ入力等の設定に気を取られた(12件、12隻)
      出航後において、目的地までのコース設定、その他のデータ入力のためにGPSのみに集中してしまい、海難が発生している。
事件種類別では衝突が8割、船種別では漁船が4割を占めている。
出航前(又は帰航後)に設定可能なデータであったものが8割を占めている。
衝突10件中、海難原因のすべてが「見張り不十分」で、設定開始から海難発生までは平均約8分であり、その間、見張りを行わないまま、衝突直前まで相手船に気づかず衝突している。
緊急性のないデータ入力は、出航前(又は帰航後)に行う。

出航前に設定可能であったもの
目的地までのコース設定 6隻
プロッターに表示されない灯浮標の位置を入力 1隻
古い航跡の削除 1隻
帰航後に設定可能であったもの
新たに発見した漁場とする瀬を入力 1隻
翌日使用する目的地を入力 1隻

衝突事件の形態


  GPSプロッター画面の表示切替えの不適切(4件、4隻)
      プロッター画面を縮小のまま (3件)、又は拡大しすぎて(1件)利用したため、岩礁や陸岸等の必要な情報が表示されなくなり、船位不確認となり乗り揚げている。
航行海域の状況に応じて、適切な表示範囲に切り替える。
乗揚に至る経緯をみる。


  GPSへのデータ誤入力(1件、1隻)
      登録していた目的地のデータを間違えて入力し、船位不確認となり危険な針路で航行していることに気づかず乗り揚げている。
データ入力後、改めてGPSプロッターに表示される船位を確認する。
乗揚に至る経緯をみる。


GPS情報の利用(90件、90隻)
  GPS情報の不適切な利用(3件、3隻)
      レーダーを装備していない漁船が帰港を急ぐあまり「GPSがあれば濃霧の中でも無難に航行できる。」と思い、霧が晴れるのを待つことなく過大な速力のまま航行して衝突している。
GPSは、自船の船位や針路を確認することができるが、レーダーとは違い他船の動静についての情報を得ることはできない、すなわち、GPSでは「他船の見張りはできない。」ことを理解する。
「視界制限状態におけるGPS情報利用の不適切」の海難発生に至る経緯をみる。


  GPSデータを海図に誤記載(2件、2隻)
      漁船が大洋上において、GPSで測定した船位の緯度、経度を誤って海図に記載したため、船位不確認となり乗り揚げている。
一定時間間隔でGPSにより定期的に船位を求めて海図に記載することで、誤記載を発見することができる。


  GPSの注視に気をとられた(49件、49隻)
      往航、漁場移動中において、GPSの注視を優先して「目的地までの針路方向やその針路を保つことのほか、自船の位置から目的地までの距離、所要時間等を知る。」ことに気をとられ、周囲の見張りを怠り、海難が発生している。
事件種類別では衝突が9割、船種別では漁船が6割を占めている。
死傷者の発生は、49件中約半数の23件で、その死傷者数は43人(死亡3人、行方不明1人、負傷39人)で全体の約半数となっている。
GPSを注視し始めてから事故発生までの経過時間は平均すると約8分で、平均速力11ノットでは約2,700mの航走距離となり、その間、見張りが行われていないこととなる。
GPSを使用中も、定期的に他船の動静を把握するための見張りを十分に行う。

GPSの注視に気をとられ見張り不十分に至る動機
  GPSの注視に至るまでの動機 隻数 構成比  
危険はないと
思い込む
いちべつして、他船が周囲にいない(レーダーによる確認も含む) 15 37% 65%
相手船を確認し、この態勢であれば無難に航過できる 5 12%
相手船を確認し、まだ距離がある 4 10%
短時間の操作のため 1 2%
経験から付近には通航がない 1 2%
相手船が避航してくれる 1 2%
GPSの
画面へ没頭
良い漁場に早く着くため 3 7% 35%
霧や太陽光線の影響があった 3 7%
一方向(第三船)に気をとられた 3 7%
別室にあるGPSで海図に船位を記入する 1 2%
GPS操作を覚えるため 1 2%
流速に速力を合わせて行う漁ろう方法のため 1 2%
初めて航行する海域と、時化のため陸岸をGPSにより確認するため 1 2%
ロランC局のデータをGPSへ移すことだけに集中していた 1 2%
合    計 41    


  10 GPSからの情報を活用しなかった(36件、36隻)
      GPSを作動しているにもかかわらず、慣れた海域のため、正確な船位・針路を確認しないまま、目視のみで航行して乗り揚げている。
事件種類別では乗揚が7割、船種別では漁船が6割を占めている。
死傷者の発生は、36件中7件と約2割であるが、その死傷者数は18人(死亡6人、負傷12人)で、この中には、同乗者5人が死亡したプレジャーボート遭難事件が含まれている。
夜間から早朝にかけての発生が8割、通航経験が豊富な海域での発生が8割を占めている。
海難原因のほとんどが「船位不確認」、「針路選定不適切」となっている。
夜間における目視だけの航行は、灯浮標等の灯光を誤認したり、目標物が少ないため距離感覚を誤ることが少なくないので、GPSから得られる情報を有効に活用する。

GPSを活用する上で具体的にすべきであった主なこと 対象船舶
昼間 夜間・早朝
島、浅礁、さんご礁に近付かないようGPSやレーダーを活用して船位を確認する   漁船4隻、遊漁船1隻
出航するとき、あらかじめGPSに入力していた情報(立標、灯浮標、予定針路線、基準航路、危険水域)を活用して船位を確認する 定期旅客船2隻  
GPSプロッターに入力していた港や灯台の位置へ向け発航したのち、GPSプロッター、レーダーを活用して船位を確認する   漁船2隻
GPSで表示された船位を、海図上で当たるなり、レーダーを活用して確認する   外洋漁船2隻
入港するとき、二つの灯台の見え具合やGPSプロッター、レーダーを活用して船位を確認する   漁船1隻、プレジャーボート1隻
操業を終え帰航するとき、航路標識やGPSを活用して発進地点での船位を確かめたうえで航行する   漁船1隻
帰航する際、針路目標にしていた僚船の船尾灯を見失ったとき、航路標識やGPSを活用して船位を確認する   遊漁船1隻
入港目標にしていた防波堤の簡易標識灯が陸上の明かりに紛れて視認できないとき、速力を大幅に減じてGPSプロッターで船位・針路を確認する   プレジャーボート1隻