特 集 21世紀を迎えた海難審判庁
@海難審判制度は、海員懲戒法(1897年)をもって単独の法制度として確立され、1948年(昭和23年)に海難審判法に受け継がれ、現在に至っている。
A我が国では、多数の尊い人命の犠牲を伴う重大な海難事件が絶えることなく発生しており、1954年(昭和29年)には、我が国海難史上において未曾有な事故といわれた青函連絡船洞爺丸遭難事件が発生した。さらに高度成長期の1960年代からは、海難の発生も増加の一途をたどり、1973年(昭和48年)には年間23,000件に達した。その後も、1974年(昭和49年)機船第拾雄洋丸機船パシフィック・アレス衝突事件、1988年(昭和63年)潜水艦なだしお遊漁船第一富士丸衝突事件、また、最近においては、漁船第五龍寶丸転覆事件などが発生している
B21世紀初頭に目指す重点改革事項は、「調査・審判の迅速処理」、「IT(情報技術)活用による業務の効率化」、「海難調査の分析、広報の充実・強化」である。
C国民のニーズに応えられる質の高い海難審判行政を推進する。
第1章 裁決における海難原因
@12年に地方海難審判庁は、794件の裁決を行い、その中で摘示された海難原因数は1,428原因であった。
A衝突事件の海難原因
 安全運航の基本は”見張り”
 衝突事件の海難原因は、見張り不十分が53.3%、航法不遵守が17.7%、信号不履行が8.6%などとなっている。
衝突事件の海難原因
 衝突直前まで相手船を認めていなかったものは、304隻(68.2%)、相手船に対する動静監視不十分が142隻(31.8%)となっている。
B乗揚事件の海難原因は、居眠りが50原因(26.5%)、船位不確認が40原因(21.2%)、水路調査不十分が22原因(11.6%)などとなっている。

《居眠り注意…一人当直・自動操舵装置の使用・深夜から早朝にかけて・晴れ、曇の時》

C漁船(481隻)の海難原因は、衝突事件で見張り不十分60.8%、そのうち衝突直前まで相手船を認めていなかったのが約8割、また、居眠りによる乗揚事件が多い。
D貨物船(205隻)の海難原因は、衝突事件で見張り不十分35.7%、航法不遵守26.1%などとなっており、衝突の相手船は、漁船が50.4%で、また、居眠りによる乗揚事件が多い。
Eプレジャーボート(140隻)の海難原因は、衝突事件で見張り不十分が65.9%となっており、衝突の相手船は、漁船、遊漁船、プレジャーボートを合わせると84.3%となる。
第2章 絶えることのない海難の発生
@12年に発生した海難は、6,442件、7,599隻で、昨年よりやや減少した。
発生件数及び隻数の推移
A事件種類は、乗揚事件1,378件(21.4%)、衝突事件725件(11.3%)、衝突(単)事件712件(11.1%)などの順である。
B船舶の種類は、貨物船2,653隻(34.9%)、漁船1,378隻(18.1%)、油送船843隻(11.1%)、旅客船586隻(7.7%)などの順である。
C12年の死傷者は、死亡・行方不明219人、負傷412人計631人で、前年より106人(20.2%)増加した。特にプレジャーボートの死傷者が増加した。
D外国船が関連した海難は、154件(170)隻で、ほぼ横ばいの傾向である。
Eプレジャーボートで ”安全” に楽しく
 プレジャーボートの海難は、294件330隻で、昨年と比べ75件(66隻)の増加となっている。衝突が110件(143隻)、次いで乗揚が53件(53隻)、死傷28件(30隻)となっている。船種別では、モーターボートが233隻(70.6%)、水上オートバイ46隻(13.9%)、ヨット30隻(9.1%)となっている。レジャー時期の7月から9月の間における土曜日、日曜日の12時から16時に多く発生している。
プレジャーボート海難発生隻数及び死傷者数の推移       月別、曜日別発生状況    
第3章 海難の調査と審判開始の申立
@12年の主要海難事件の発生は35件で、その中に漁船第五龍寶丸転覆事件(北海道浦河港沖合 14人行方不明)が含まれている。また、主要海難事件の審判開始の申立は38件で、発生から申立までの平均期間は、7.7か月で、全体(11.7か月)と比べると4.0か月短くなっている。(主要海難事件:人損、物損の程度、社会的な影響などが重大海難事件に達しないが、一般の海難事件より規模が大きく、迅速な処理を必要とするもの。)
A12年の海難の立件数は、6,798件で、11年からの繰越4,446件を加えた調査対象事 件数11,244件のうち、796件を審判開始の申立、5,880件を不要処分、138件が時効となり、4,430件を13年に繰り越した。
審判開始申立件数の推移
B申立事件796件(1,202隻)の事件種類は、衝突335件(42.1%)、乗揚156件(19.6%)、機関損傷89件(11.2%)、衝突(単)66件(8.3%)などの順である。また、船舶の種類は、漁船495隻(41.2%)、貨物船265隻(22.0%)、プレジャーボート148隻(12.3%)、遊漁船51隻(4.2%)などの順となっている。
第4章 海難審判の状況
@12年の主要海難事件の裁決事件は34件で、衝突18件(52.9%)、衝突(単)、転覆、火 災それぞれ3件(各8.8%)などである。また、申立から裁決言渡までの平均期間は、9.6 か月で、全体(8.3か月)と比べると1.3か月長くなっている。
A12年の地方海難審判庁における審判事務は、796件の申立を受理し、11年からの繰越540件を加えた審判事件1,336件のうち、794件について裁決し、542件を13年に繰り越した。
裁決件数の推移
B裁決事件794件(1,186隻)の事件種類は、衝突329件(41.4%)、乗揚154件(19.4%)、機関損傷95件(12.0%)、衝突(単)70件(8.8%)などの順である。
平成12年裁決事件における事件種類
また、船舶の種類は、漁船494隻(41.6%)、貨物船266隻(22.4%)、プレジャーボート141隻(11.9%)、油送船52隻(4.4%)などの順となっている
C12年の審判開廷回数(裁決言渡のための開廷を除く)は、1件当たり1.12回で、ほとんど1回の開廷で審理を終えている。
D12年の懲戒等は、受審人1,131人のなかで懲戒を受けた者1,031人で、そのうち業 務停止104人、戒告927人であった。また、指定海難関係人142人のなかで勧告を受けた者は、1人であった。
E懲戒を受けた者の免許種類は、小型船舶操縦士免許が55.9%、海技士免許(航海)36.5 %、海技士免許(機関)7.4%などである。
F12年の高等海難審判庁の審判業務は、第二審請求事件30件を受理し、11年からの繰越59件を加えた審判事件89件のうち、22件について裁決し、28件を第二審請求却下の決定をし、39件を13年に繰り越した。また、46件の管轄移転の請求を受理し、40件の管轄移転決定と6件の同請求却下の決定を行った。
G12年の参審員参加事件は13件である。12年末現在70人の参審員を任命している。
H12年の補佐人付事件は、106件(13.4%)で、延べ214人の補佐人が選任された。
 なお、12年末現在1,078人の海事補佐人が登録をしている。
第6章 海難審判行政の推進と課題

@再発防止のための広報として、審判の傍聴者への資料提供、海難防止施策機関等への裁決書の概要の配付、ホームページの内容充実、海難審判説明会の開催などを積極的に行っているが、さらに推進する必要がある。
A同種海難の再発防止のため、裁決書などを分析して海難の態様とその原因の傾向、問題点などを浮き彫りにした報告書を作成しているが、より一層、多角的、深度化した分析内容に努める必要がある。
B国際協力を推進するため、国際海事機関(IMO)、国際海難調査官会議(MAIIF)、ア ジア地域海難調査機関会議(ARMAIM)に参加しているが、今後も積極的に対応する必要がある。
C海難原因を迅速、的確、幅広く探究することが急務である。
DIT(情報技術)の活用により、調査・審判業務の効率化と国民に対して情報提供の推進を図る。

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