T.新たな政策体系への転換の背景
1.これまでの住宅宅地事情をめぐる背景と政策の変遷
(1)住宅宅地事情をめぐる背景の変遷
終戦直後の我が国は、戦災により多くの住宅が失われたことに加え、終戦に伴う外地からの復員・引き揚げにより、住宅戸数の絶対的不足状況にあった。ベビーブームの到来もあって人口は急増し、さらに第1次産業から第2次・第3次産業への産業構造転換に合わせて、農村から都市部に人口が集中的に流入し、都市部ことに大都市圏を中心とした深刻な住宅難が発生した。
世帯数が住宅戸数を上回る状況は昭和48年頃までに解消したが、例えば首都圏では高度経済成長の始まった昭和35年から60年までの25年間で人口は1.7倍になるなど、需要のベースとなる人口及び世帯数は一貫して増加した。人口の伸び以上に急激な経済成長があった大都市圏では土地に対する需要が堅調であり続け、他の地域以上に地価の伸びが著しかった。
一般勤労者の地価負担力の伸びは、企業に比べ小さかったが、地価の右肩上がりの状況の下、早期に住宅宅地を取得すれば、土地に関してキャピタルゲインが期待でき、所得が右肩上がりの傾向を示したために、ローン返済負担の軽減も期待できたことから、持家、中でも戸建持家の取得に執着することが常識化した。大都市においても住宅の中高層化が余り進展しない中では、宅地が希少なあまり「宅地さえあれば」という考えが蔓延し、規模・形状等に問題のある宅地でも価値があるとするとするようになった。これが地価上昇を助長した面があることは否定できない。歪んだ土地神話の定着である。
以上のような状況は、戦後、殊に高度経済成長期以降に特有なものであった。都市化が急激に進んだ戦前の東京、大阪等でも、戸建持家に固執する層は必ずしも多くなかったことが知られており、戦前戦後の日本人の宅地保有に関する考え方の変化は驚異的ともいえる。
昭和60年のプラザ合意以降、過剰流動性が株と土地とに向かい、文字どおり土地バブルが発生した。大都市圏の一般勤労者にとって、住宅宅地難は従来以上に深刻になったが、この時期は単に「異常」というだけでなく、戦後の住宅宅地に関する特異な事情を強調・拡大して見せた時期であったともいえる。
(2)住宅宅地政策の変遷
終戦後から相当期間続いた住宅不足の時代には、住宅政策の主な課題は当然のことながら、公的主体による直接供給を中心に据えた住宅の量的拡大であった。
これと軌を一にして宅地に関しても大量供給の方針を掲げることが必須となり、遠隔地ながらも用地確保が容易で素地価格が安い所を中心に宅地開発を推進することが中心的施策となった。そのために公的主体による直接供給の他、土地税制や金融等の手段も積極的に活用された。新規の大規模開発地区を中心に、規模・形状・接道・周辺環境等の面で相対的に良好な宅地が住宅とともに大量供給されたが、これによる人口急増を必ずしも歓迎しない自治体も多く、大量供給を進める上で障害となったため、関係者間の調整も宅地政策の重要なテーマとなった。反面、戦前にもあったグリーンベルト構想は、人口集中圧力の前には抗し得ず、その地域は順次宅地化されていった。
昭和50年代に入ると住宅の量的充足を背景に、住宅政策の主な課題は質の向上に移ることとなる。さらに、第七期住宅建設五箇年計画(平成8〜12年度)において、住宅政策は、公的主体による直接供給、支援を中心とするそれまでの体系から、民間、公共併せた住宅市場全体を対象として捉えることが強く打ち出された。
バブル期の急激な地価上昇下にあっては、需要サイドの住宅の取得能力の向上と供給サイドの大量供給促進という二つの方針が打ち出された。特に宅地政策に関しては、大量供給促進のための法令の制定・改正が行われた。地価高騰にもかかわらず住宅宅地市場は活況を呈したが、ほどなくバブルの終焉を迎えるに至った。
2.住宅宅地政策に関する現状と課題
(1)我が国の「居住」の現状と課題
@持家を中心に着実に向上している床面積等
こうした中で、特に持家を中心に我が国の住宅の平均床面積は着実に向上している。新規に建築される持家の平均床面積は、昭和48年に104.0uであったものが、平成10年には139.0uと大きく拡大している。この結果、住宅ストック全体としても、持家の1戸当たりの平均床面積は、昭和48年の103.1uから平成10年には123.9uまで拡大しており、その水準はほぼヨーロッパ諸国並みの水準に達している。
住宅の質という観点から見ても、その水準の向上が図られている。例えば、耐震性という観点から見てみると、昭和53年の宮城県沖地震による被害を踏まえて昭和56年に改訂された建築基準法の新しい耐震基準については、平成7年の阪神・淡路大震災において、その有効性が確認されており、高い耐震性を持つ住宅の整備が進んでいる。また、平成8年からは住宅金融公庫の金利体系が床面積に応じていたものから、高耐久、長寿社会対応及び環境対応という住宅の性能に着目して金利の優遇を行う体系に変更され、住宅の質の向上が図られている。
しかしながら、賃貸住宅について、そのストックの状況を見てみると、戸当たりの平均床面積は昭和48年の39.5uから平成5年には45.1uと多少の拡大は見られるものの、依然持家の半分以下である。また、新たに供給される賃貸住宅についても、平成10年度に新設された賃貸住宅の戸当たり平均床面積は51.2uであり、持家の戸当たり平均床面積139.0uに比べ低い水準となっており、狭小なものの供給が多い現状となっている。
A国民の居住ニーズの高度化、多様化
国民の居住についての不満の状況を見てみると、住宅そのものに対する不満や住宅の広さに対する不満の割合は減少する傾向にある。住宅需要実態調査により、「住宅」に対して不満と答える人の割合は昭和63年の51.5%から平成10年には47.5%へと若干の減少傾向にある。また、住宅の「広さ」に対して不満と答える人の割合は、昭和63年の44.3%から平成10年には36.5%と減少している。
しかし、持家、借家別に住宅に対する不満を見てみると、持家に住む世帯の住宅に対する不満は42.9%であるのに対して、借家に住む世帯の住宅に対する不満は56.8%と高い水準となっている。
一方、「住環境」に対して不満と答えた人の割合は昭和63年の33.2%から平成10年には35.8%へと増加している。また、住宅の各要素に対する評価の状況を見てみると、「高齢者等への配慮」に対して不満と答えている人の割合は66.4%、「遮音性・断熱性」については57.6%と「広さ」に対して不満と答えている人の割合(35.5%)より、かなり高くなっている。
このように、借家については、住宅そのものに対する不満の割合が依然高い現状にあるものの、住宅に対する評価は、特に持家について、住宅の床面積よりも住宅の性能・設備、住環境に対する不満が高まっており、国民の居住に対する関心は、住宅の広さからその性能・設備、住環境等も含めた分野に広がっていることェ分かる。
その一つの例証として、住宅の性能に対する関心が高まる中、住宅に対する消費者意識が高まり、欠陥住宅等の住宅に関するトラブルが増加していることがあげられる。例えば、国民生活センターへ寄せられる住宅に関する相談件数を見てみると、平成6年度に戸建て住宅の工事関係の相談件数が15,500件、うち住宅の安全、品質等に関するものが2,500件であったが、平成8年度にはそれぞれ21,000件、4,200件へと増加している。
B大都市圏の劣悪な住宅ストック・居住環境
@)大量の高度経済成長期ストック等の存在
平成10年の住宅・土地統計調査(速報)によれば、終戦後から昭和55年までに建築された大量住宅ストック数は約1,956万戸、全住宅ストックの44.6%となっている。この戦後直後とそれに引き続く高度経済成長期の住宅不足の時代に建築された住宅ストックは、質よりも量が重視されたこともあって、その老朽化が進むと同時に、床面積等が生活水準の向上に対応できず陳腐化が進んでいるものも少なくない。
平成5年の住宅統計調査によれば、終戦から昭和55年までに建てられた住宅の9.7%が最低居住水準未満と、61.5%が誘導居住水準未満となっており、昭和56年以降に建てられた住宅ストックに対するそれぞれの割合5.7%、56.5%と比べて住宅の質が劣っていることが明らかである。
特に大都市圏においては、借家を中心に極端に狭い住宅が大量に存在している。例えば、平成5年の住宅統計調査によれば、三大都市圏の終戦から昭和55年までに建てられた借家で最低居住水準未満のものが25.1%、誘導居住水準未満のものは84.6%となっており、著しく居住水準が低いことが明らかである。
A)大都市圏を中心とした低水準な居住環境
住宅不足の時代に無秩序な市街地拡大が行われたこともあって、大都市圏を中心に防災上危険な密集市街地が多く存在していることが指摘されている。阪神・淡路大震災の経験から見れば、被害の多くが老朽木造家屋に集中するとともに、火災による延焼地区の多くが都市基盤未整備地区であった。このような老朽木造住宅が集中し、都市基盤が未整備の密集市街地は、全国で約25,000haあり、三大都市圏に集中して存在していると推計されている。こうした市街地の更新を図り、防災性、耐震性の観点から基礎的な安全性が確保されている住宅・住環境の確保が重要な課題となっている。
また、経済発展と都市への人口の急速な流入により地価が上昇し、都心部での住宅地取得が困難となる一方で、鉄道等の公共交通機関の整備とともに都市郊外での住宅開発が進められ、ファミリー世帯の都心部からの転出等居住地が遠隔化してきた。この結果、平成7年には東京都心3区に通勤通学する者の通勤通学時間は平均で1時間11分、4分の1の者は1時間半以上となっている。
C土地取得に強い関心を置いた住宅取得中心の住宅市場
取り壊された住宅の平均耐用年数を算定してみると我が国では26年程度であり、米国の44年、イギリスの75年に比べて、著しく短くなっている。このように住宅の耐用年数が短くなっている理由としては、高度経済成長の中での生活水準の向上に伴い床面積の広い住宅が求められるようなったこと、人口の都市への流入による都市構造の急激な変更による住宅の建替えが必要であったこと等の理由の他、住宅取得の様式が大きく関わっていると考えられる。
これまでの住宅取得は、「住宅双六」と言われるように、経済成長が続き、年功序列型の賃金体系のもとで毎年賃金が上昇する中で、地価の継続的な上昇によるキャピタルゲインをも活用しつつ、借家からマンション、そして最終的には新市街地における戸建住宅の取得を目指すのが一般的であった。
こうした住宅取得は、地価が継続的に上昇していく中で、資産形成の手段として土地が非常に有利性の高い資産であったことから、必要な居住サービスを得るための住宅確保という観点よりも、土地取得に強い関心を置いたものであったと考えることができる。このため、住宅取得のための限られた資金の多くが土地取得に充てられてきた。また、地価が継続的に上昇する中、一定期間が経過すれば相当のキャピタルゲインが期待でき、これを活用してより良質な住宅への買替えが可能となった。このため、上物としての住宅を重要な資産と考え長期的な視野に立ってより高い質を求めたり、適切な維持管理によりその質の維持を図ることに対するインセンティブに乏しかった。こうした理由から、上物の既存住宅については十分な資金の手当が行われず、必要に応じ、建替えにより住宅の質の向上を図ってきた。
以上のとおり、我が国においては、資産価値の高い土地取得に強い関心を置いた住宅取得を行い、必要に応じ住宅の建替えを図る新築・建替え中心の住宅市場が形成されており、既存の住宅を有効に活用するための中古住宅市場、賃貸住宅市場、リフォーム市場が未発達であった。こうした住宅取得の様式が、住宅耐用年数を短くしている主要な理由の一つであると考えられる。
D少子・高齢化の急速な進行と居住に関する不安
住宅は、人々の生活を支える基盤であり、ゆとりある住宅に安心して住むことが、生活の豊かさを確保する上での重要な要素となっている。一方、現在我が国においては、少子・高齢化が急速に進行しつつあるが、この人口構成の変化は子育て等をめぐる居住に関する不安を背景としているとともに、老後の住まい方等居住に関する新たな不安をもたらしている側面がある。
戦後の経済発展に伴い、都市へ流入した人々は新たな核家族を都市で形成した。都市化の進展は、同時に核家族化の進展であり、戦後の住宅不足は核家族世帯が居住する住宅の不足であった。都市化の中で形成された核家族世帯は、現在、子供が独立し、高齢期の入り口にさしかかっている。伝統的な家族観に基づく三世代同居は、核家族世帯には必ずしも受け入れられておらず、子供とは離れて生活する高齢者の単身世帯、夫婦世帯が急速に増加している現状にある。
現在進行している高齢化は、核家族という家族文化が初めて経験する高齢化である。先行する参考事例が全くない中で、高齢期の新たな住まい方が模索されている現状にあり、高齢期の住生活に多くの人々が不安を感じている。例えば、平成10年の住宅需要実態調査によれば、住宅の各要素に対する不満のうち最も多いものは、「高齢者等への配慮」がないことであり、実に3分の2の人が不満感を抱いている。また、将来の子供夫婦との住まい方については、東京圏及び大阪圏で28%を超える人が、三大都市圏を除いたその他の地域でも25%を超える人が「わからない」としている。なお、新規に開発された郊外ニュータウン等においては、一斉高齢化によるコミュニティの危機の発生等が指摘されており、適切な対応、配慮が必要である。
また、近年、少子化が問題となっているが、都道府県別の合計特殊出生率を比較してみると、三大都市圏に所在する都道府県の出生率は他の地域よりも低くなっており、都市における居住環境と少子化の間には何らかの関係があるとの指摘がある。大都市圏においては、住宅が狭いこと、ローン返済や家賃が家計を圧迫していること、良質なファミリー向け賃貸住宅が不足していること等の住宅事情のほか、例えば、都市部の地域社会においては共同体意識が低く、地域住民間での自発的な子育て支援が受けられず、子育てが母親と学校だけで担うものとなっているという事情が存在する。また、長い通勤時間と子育てを両立させることは困難であり、郊外への住宅地の展開による職住分離は、女性の社会参加が進む中で、少子化の要因となっているとの指摘もある。
このように、都市における居住環境も含む生活様式の現状が、子育てに関する不安を通じて少子化に影響を与えているものと考えられ、今後、女性の社会進出の一層の進展が予想される中で、子育てと就業との両立を可能とする職住近接の都心居住の推進など、少子化社会への対応という観点からも「子どもを生み育てることに『夢』を持てる社会」づくりを目指した都市居住環境の実現が求められている。
(2)我が国の宅地事情の現況と課題
バブル期は、戦後の住宅宅地に関する事情を強調・拡大してみせた時期と位置付けることができるが、平成3年以降のいわゆるバブル崩壊が現在の宅地事情を大きく規定している。
@バブル崩壊以降の宅地事情
バブル崩壊による地価の下落は、都心の商業・業務地において特に大きい。
東京都区部の場合、オフィスビル用地需要が不振なために住宅系への転用を目指す動きが見られ、また大企業がリストラに伴い都区部等において社宅用地等として囲い込んできた稀少な宅地を市場に放出する動きもある。これらにより中高層集合住宅用地が供給され、これまで人口流出一辺倒だった都心部において人口増加の兆しが見られる。
一方、郊外部の宅地はバブル期においても都心部ほど地価が上がらなかった反面、下落率は小さい。良好な宅地供給の大宗を占めてきた郊外部の大規模事業は、これまで地価の確実な伸びを前提に、関連する公共公益施設整備や先行投資、地権者はじめ関係者間の調整等の負担を事業者が担うことで事業が成立した。今後は従来のような対応が困難になるとも予測される。それもあって、最近の宅地供給事業は開発規模が顕著に小規模化し、立地も都区部・近郊部へ向かっている。
近郊部の市街化区域内農地では、インフラが比較的整備されているところを中心に宅地供給が進んだが、宅地化が容易な適地の減少が見られる。
バブル崩壊以降のこうした需給の変化は、単にバブルの反動或いは調整過程という短期的なものに止まらず、我が国が今まさに都市化社会の終焉と都市型社会への移行を迎え、同時に高齢化社会から高齢社会に向かう構造変化の時期、即ち大転換期に入ろうとしていることと関係している。高度経済成長期に入居開始した大規模団地内で一斉高齢化現象が見られるが、高齢化は少子化とあいまって人口増・世帯増の停滞をも意味し、需要構造の変革をもたらす。
我が国の戦後50年余の、ある意味で特殊な状況の終わりを告げる大転換期の到来の時期にあって、この状況への深い洞察、認識に基づいた新しい宅地政策の構築が今まさに求められている。
A宅地ストックの活用と改善
これまでは需給状況に応じ、郊外部の遠隔地に次々と新規宅地開発がなされてきた。その内側の大都市の中心部・近郊部の工場跡地等の低未利用地や市街化区域内農地については、地価の上昇を期待して保有し続けた面とバブル崩壊の影響を受けた面があったが、結果的に宅地化が遅れている。大都市の中心部の老朽木造密集市街地等も権利関係が輻輳しているなどのために改善が遅れている。農地が部分的に転用される際に小規模宅地の供給がなされたり、既存の中程度の個人住宅敷地が相続等を契機として分割されることで敷地の細分化が進行した例も見られる。
一方、形状・規模等に関して問題の少ない郊外部の宅地に関しては、長時間通勤と交通手段の不十分さ、生活利便・文化施設の不足が指摘されている。
このように既に一度宅地化されたもの及び大都市の中心部・近郊部において宅地化が比較的容易と期待される土地、即ちストックに関わる諸課題が依然として残されている。
同じ量や質の宅地を得る場合でも、新規に開発するよりこうしたストックについて追加投資や規制を加えることで、環境負荷やコストが少なくて済む場合があるし、そうした手法によってしか個々の宅地の状況の改善がなされない場合もある。
今後新規世帯増の圧力が低下することからも、ストックの有効活用による良好な居住環境を備えた宅地形成の誘導が一層重要となる。
3.住宅宅地政策をめぐる経済社会環境の変化
現在、我が国は、社会的に見れば大都市圏への人口流入の沈静化、人口減少社会の到来、少子・高齢化の進行、環境問題への関心の高まり、経済的に見れば安定成長への移行、土地神話の崩壊、日本型の雇用慣行の見直し等様々な点から、成長社会から成熟社会への移行という経済社会体制の大きな変革期にある。
こうした中で、新しい経済社会の条件に適合した住宅宅地政策の仕組みづくりが求められている。
(1)経済社会の変化による住宅宅地需要構造への影響
@住宅需要構造の変化
将来人口推計によれば、我が国の人口は2007年に約12,800万人でピークを迎え、それ以降は減少に転じ、人口減少社会となることが予想されている。また、世帯数の将来推計を見てみると、普通世帯数は2000年の4,641万世帯から2014年には4,929万世帯でピークを迎え、2015年までの15年間で約300万弱の世帯数の増加が推計されている。しかし、1985年から2000年までの15年間の世帯数の増加が942万世帯であることと比べれば、増加数は3分の1となっている。
また、その内容を見てみると、二つの特徴がある。一つは高齢者世帯の増加であり、もう一つは単身世帯の増加である。高齢者世帯については、世帯主が65歳以上の高齢者世帯数は、2000年の1,096万世帯から2015年までの15年間で約560万世帯の増加が推計されている。したがって、今後の世帯数の増加は高齢者世帯数の増加であり、それ以外の世帯は減少に転じることが推計されている。
単身世帯については、2000年に1,234万世帯であったものが、2015年までの15年間に182万世帯の増加が見込まれている。このうち65歳以上の単身世帯数の増加は277万世帯(高齢者世帯増加数の半分程度)と増加する一方、65歳未満の単身世帯は少子化の影響もあって減少が見込まれる。
人口の移動についてみると、産業構造の成熟に伴い大都市圏への人口流入が沈静化し、逆にUJIターンに対する関心の高まりが見られる等地方への定住傾向が強まっている。
こうしたことから、マクロの住宅ストックとして見れば、既に過去における住宅ストックの蓄積等を背景として、今後、仮に建替えによる住宅建設が同じ水準であったとしても、新規住宅建設に対する需要は次第に減少していくものと考えられる。
A宅地需給の逼迫感の緩和
中間にバブル期の地価高騰やバブル崩壊がありながら、最近十数年間の宅地供給量は全国的に年間約1万ha、三大都市圏がそのうちの約2分の1という極めて安定した状況が続いてきた。宅地に関する需要も供給も基本的には価格の関数であるが、供給サイドの大宗を占める大規模開発事業の場合、着手から宅地供給まで長期間のラグがあることから短期的均衡は必ずしも達成されなかった。また、戦後二十年程で住宅が世帯数を上回るようになったものの、人口・世帯数の一貫した増加により需要が常に堅調だった。特に持家一次取得層の中核である30歳代・40歳代の勤労者を世帯主とする世帯が、大量に存在していたことが需要を支え、宅地需給に逼迫感をもたらしてきた。
今後、少子化そのものの影響や、少子化に伴う住宅宅地の相続による取得の蓋然性の増大により、これまで需要サイドの中核を占めてきた層が長期的に減少していくものと考えられる。
首都圏のケースを取り上げて、人口及び世帯数の地域別の動向や建て方別の住宅建築の趨勢をもとに、2020年までの宅地の需要量推計(東京50km圏)を試みると、従来の傾向よりも低い数値が得られる。その中では、都区部における宅地需要が相対的に高いものとなるが、当該地区における既存住宅地や工場跡地等での再開発、高度利用が活発化すれば、そこに関しても宅地需給の逼迫感が増すことはなく、全体としては宅地需給の逼迫感は相当に緩和、解消されることになると考えられる。
(2)土地神話の崩壊等による住宅宅地取得行動の変化
これまでのような土地取得に強い関心をおいた住宅取得は、継続的な地価の上昇、高い経済成長、年功序列型の賃金体系等の日本型雇用慣行が前提となり成り立っていた仕組みであると考えられる。
しかしながら、地価は平成4年以降下落しており、土地需給の構造的変化とともに、土地は値上がり続けるという土地神話は崩壊し、土地は必ずしも有利性の高い資産ではなくなっている。また、経済成長の安定化や年功序列型賃金体系の見直しが進む中で、継続的な賃金の上昇は必ずしも期待できず、更には失業の不安が増大している等従来の住宅取得を支えていた経済社会条件には構造的な変化がみられ、住宅取得について、これらの変化への対応が必要となっている。
現時点では持家と賃貸住宅との間に現存する居住水準の差、居住の安定性確保等の観点から、宅地の保有志向はそれほど衰えておらず、地価下落が追い風となって取得しやすくなったために持家が増えている面もあることは否めないが、「今宅地を買わなければ将来も買えなくなる」或いは「宅地さえあれば」という考え方自体は、土地神話の崩壊を背景に減少している。
また、相続に関する各種の世論調査の結果をみてみると、70歳以上の高齢者では「子供にできるだけ多くの資産を残してやりたい」とか、「住宅は子供に残してやりたい」と考える者が半数以上いるのに対して、60代以下の年齢層ではこの割合は半数を切り、年齢が下がるにしたがって住宅等の「資産は自分の老後を豊かにするために活用する方がよい」と考える者の割合が増える傾向がある。
これらの状況を総合的に考え合わせれば、既存ストックの有効活用の必要性が増大するとともに、従来の住宅宅地取得を中心とした居住水準の向上システムに限界が生じ、土地取得に強い関心を置いた従来の住宅取得から、今後は上物の住宅そのものの資産価値にも関心を移すとともに、消費者が所得の制約の中で、必要な居住サービスを生み出すものとしての住宅の確保に重点が移行して来ることが予想される。
(3)居住ニーズの多様化
土地神話の崩壊により、重視されるのは住宅宅地保有そのものではなく居住サービスの質となるが、個人が自己の居住ニーズに応じた住宅宅地の確保に厳しく真剣な目を向けるため、単に世帯主である男性勤労者にとっての通勤時間の短さだけに限らない世帯を構成する家族のニーズにきめ細かに対応した多様なものが求められ、ライフサイクルに応じた買替え、住替えによって、多様な居住ニーズを満たそうとする人々が増えるものと思われる。
世帯構造に目を向けても、先に述べたとおり高度経済成長期に住宅を必要とする世帯は、新たに形成された核家族世帯であり、夫婦と子供という画一的な家族の形態であった。しかしながら、本格的な高齢化の到来に伴い、高齢者の単身、夫婦世帯が増加している。また、女性の社会参加の進展に伴い、共働き世帯が増加したり、未婚の単身世帯が増加する等家族の姿が多様化している。このため、女性の社会進出増に伴う長時間保育・家事援助、晩婚化・非婚化に伴う大量の独身者の生活支援、高齢者の介護・医療等に関する利便性も重視される要素となる。
また、いわゆる「会社人間」のように会社のみを帰属先とする価値観から脱却した個人の帰属先として、今後、「家庭」「地域コミュニティ」のウェイトが増大することを勘案すれば、国民生活における「居住」(住宅宅地とそれを取り巻くコミュニティ)の果たす役割の重要性が高まることが予想される。
また、平成10年7月に閣議決定された「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」でも指摘されているとおり、今後、趣味を同じにする集団、コンピューターネットワークでつながった集団等「好みの縁で繋がった集団(好縁共同体)」も個人の生活に重要な意味を持つことが予想される。こうして、一人の人間が会社、家庭、地域コミュニティ、好縁共同体等の様々な社会集団に多元的に帰属することが一般的となることが予想される。こうした個人と社会集団の新たな関係の確立は、「居住」に対するニーズの多様化となって現れてくるものと考えられる。例えば、情報通信技術の活用により、職場と住宅とを統合させたSOHO、血縁関係の無い友人同士で共同生活をするコレクティブハウジング等新しい居住のニーズが拡大しつつある。
さらに、価値観、人生観の多様化の中で、自然との触れ合い、家族との触れ合い等に対するニーズが高まること等も考え合わせれば、職場生活向けの都市住宅とゆとりある家族生活向けの田園地域におけるセカンドハウスを使い分けたり、郊外の戸建住宅と都心部の賃貸マンションを使い分けるなど1つの世帯で複数の住宅を使うマルチハビテーションに対するニーズが高まってくるものと考えられる。3分の1の人が複数居住を魅力的と捉え、やってみたいと考えているとの世論調査の結果がある。こうした一つの住宅にとらわれない居住形態は生活にゆとりをもたらし、豊かな生活を可能とするものと考えられる。
(4)環境制約の増大等
近年、建築廃棄物等廃棄物処理の問題や地球温暖化に住宅宅地の与える影響等環境問題に関心が高まっていることから、環境制約という観点に配慮する必要がある。また、生活者の良好な居住環境に対する関心は今後益々高まっていく。
このため、宅地内及び周辺の植生、日照、通風やゴミ処理等の問題にとどまらずに、太陽光等自然エネルギーの活用等を図る等、住宅宅地供給及び居住段階における環境負荷の軽減に配慮する必要がある。
また、土砂災害への対策は勿論、阪神・淡路大震災での経験に鑑み震災に対する防災対策の実施による住宅宅地の安全性の確保が益々必要となる。
(5)都市構造の変化と地方の課題
平成9年の都市計画中央審議会基本政策部会の報告によれば、都市への人口流入の沈静化に伴い、人口、産業が都市へ集中し都市が拡大する「都市化社会」から、都市化が落ち着いて産業、文化等の活動が都市を共有の場として展開する成熟した「都市型社会」へ移行していくことが指摘されている。こうした中で、都市の拡張への対応に追われるのではなく都市の中に目を向け直して「都市の再構築」を推進すべき時期となっていることが指摘されている。こうした変化を踏まえれば、住宅市街地整備について、既存の住宅市街地の再整備を重視していくことが必要となっている。
また、地方に目を向ければ、高齢化の一層の進行や中心市街地の空洞化、農山漁村地域における過疎化の進行が大きな問題として認識されている。こうした問題に対応するため、中心市街地の活性化や都市との交流による地域活力の維持、増進が必要となっている。
(6)行政のあり方の変容
自己責任と市場原理の二つを理念とし、中央省庁再編と地方分権を具体的現れとする行政改革が進められているが、殊に後者に関しては、地方公共団体の自主性・自立性を高め、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を図るべく、機関委任事務の廃止等の措置が採られた。地方公共団体が自主的・自立的に都市計画を定め、行政の効率化を図りつつまちづくりを進め、併せて、広域行政的な観点に立つことが望まれる。開発許可制度や関連する国の補助事業等についても、地方公共団体の主体性の拡大等、地方分権の趣旨に沿った見直しを行う必要がある。
4.新たな住宅宅地政策の方向性
「住宅」は国民にとって、健康・生活の基盤であり、家族と暮らし、家族を育む最も重要な生活基盤である。「宅地」は住宅の用地として適切に利用されることによって初めてその本来の意味を持つものであり、住宅と宅地は密接不可分な関係にある。「住宅」そのもの及びその周辺の居住環境を対象とした住宅政策と主に土地を対象とする宅地政策は、それぞれ固有の対象領域を持ちながらも、これまでそれぞれの政策の整合性の確保に努めてきたところであり、今後国民の居住への関心が高まることを背景に、より一層連携を図る必要がある。
(1)成熟社会における住宅宅地政策の課題
新しい経済社会環境の下においても、国民の居住ニーズに適切に対応した住宅宅地の実現を図ることができるよう、成熟社会における新しい住宅宅地政策の確立が求められている。
今後の住宅宅地政策の方向性を考えるに当たって、次のような要素が重要である。
@これまでは土地取得に強い関心を置いた住宅宅地資産の形成が行われてきたが、成熟社会においては、居住サービスを生み出すものとしての住宅宅地の確保の側面が強調されること
A国民の価値観、家族形態の多様化に対応して、「居住」ニーズが多様化すること
B成熟経済への移行、環境制約等から限りある資源を有効に活用していく必要性が高まること等から良質な住宅宅地ストックを適切に維持管理し、長く使っていくという視点が必要となること
こうした点を踏まえると、現在の住宅宅地ストックを、長期耐用性、環境との共生、長寿社会への対応等に配慮されたものへと再生を進めるとともに、地域の居住者の居住ニーズを的確に反映した住宅宅地ストックの整備を進めることにより、「居住」に関する多様な選択肢を用意することがまず必要である。その中から自立した個人がその自己実現を支えるニーズに最もふさわしい「居住」が選択できるようにしていくことが必要であり、住宅宅地政策をこうした選択を可能とする政策体系へ転換することが求められている。これにより、住居関連支出割合が低い良質な住宅宅地の取得、買替え、住替え(以下「アフォーダブルな住宅宅地の取得等」という。)の選択肢が増大するものと考えられる。
以上のような政策の転換を図るに当たっては、次の二つの視点が重要である。
@市場重視
国民の価値観、家族形態の多様化に対応して、国民生活の基盤である「居住」についても競争を通じた適正な価格の下で、多様な選択が可能となるようにしていくことが必要である。これらの多様な選択は市場機能の活用により実現することが最も効率的である。このため、市場の歪みにより自由な選択が阻害されている場合には、その阻害要因を除去し、選択の幅を拡げていく等の取組みが必要である。
Aストック重視
従来、住宅宅地は、個々の家族等が生涯所有し続けたり、その直系家族に引き継がれていくことが多かった。しかし成熟社会においては、自由に住替えを行うことによって、ライフスタイル、ライフステージに応じた適切な住宅を選択したいという要求が強まるものと考えられる。こうした選択を可能にするためには、社会全体に備わっている住宅宅地ストックを有効に活用していくことが必要である。このため、住宅宅地ストックを有効に活用したり、適切に維持管理された住宅宅地ストックが高い評価を得られるような市場の環境整備、誘導、補完等を進めることが必要である。
このように、住宅宅地ストックは、社会全体として使用される「社会的資産」としての側面が強まり、このような意味での「社会的資産」としての住宅宅地ストックを国民が最大限に活用できる制度の整備・活用を図ることが、重要な政策課題となる。
(2)新たな住宅政策の基本的方向性
今後の住宅政策の基本的方向性は、「市場を通じて国民が共用しうる良質な住宅ストックを形成し、管理し、円滑に循環させることのできる新しい居住水準向上システム」の確立を目指していくことである。
このため、
@少子・高齢社会、人口減少社会の本格的到来を目前に、現在の住宅ストック・居住環境を、長期的な視点から良質なものに如何にして再生していくか
A既存ストックを活用しつつ国民の多様なニーズに対応するため、ストックの流動化を如何にして実現するか
という課題を市場の機能を活用しつつ、解決していくことが必要となっている。
以上のことから、
@ストック重視、市場重視の住宅政策体系を支える計画体系の再編
A高度経済成長期ストックの更新等を契機とした住宅ストック・居住環境の再生
B既存ストック循環型市場の整備による持続可能な居住水準向上システムの構築
C少子・高齢社会に対応した「安心居住システム」の確立
D成熟社会の住宅政策を支える公民の役割分担
によって住宅政策体系の再編を進めていく必要がある。
(3)新たな宅地政策の基本的方向性
前述の現状と課題や経済社会環境の変化を背景としつつ、従来からの宅地の大量供給の推進の方針にかえ、新しい宅地政策の理念として以下の点を掲げる。
@消費者・生活者志向型の宅地供給支援
これまでの、大都市圏の都心通勤可能圏内で一定量の宅地供給をとにかく確保するという大量供給至上主義から、職住近接、都心居住による利便性の向上、ゆとりある生活空間の確保等のニーズに即した良質な宅地供給、消費者・生活者志向型供給に対する支援を重視する。
Aアフォーダブルな住宅宅地取得等への支援
ライフステージに応じたアフォーダブルな住宅宅地の取得、買替え、住替えが活発化するよう条件整備をする。
B環境と安全性の重視
環境面を重視した宅地供給の推進を図るとともに、環境負荷の抑制を図る。造成宅地の土砂災害に対する防災性の向上等を支援する。
C既存の宅地の有効利用
新規宅地開発の重視にかえ、既成市街地内の工場跡地、市街化区域内農地、既存住宅地等の活用による宅地供給の推進と宅地の細分化防止、老朽木造密集市街地の改善等による良好な市街地形成を重視する。
D高齢社会への対応
宅地供給の時点から、バリアフリーの視点を取り入れるとともに、高齢社会に対応したコミュニティの維持・形成を図る。
U.新たな政策体系への転換のための具体的方向性
1.住宅政策体系再編の具体的方向性
(1)ストック重視、市場重視の住宅政策体系を支える計画体系の再編
現在の住宅計画体系は、住宅建設計画法に基づく住宅建設五箇年計画、地方住宅建設五箇年計画、都道府県住宅建設五箇年計画によって構成されている。この中で最も包括的な計画である住宅建設五箇年計画においては、最低居住水準、誘導居住水準、住環境水準等が示されるとともに、一定年限までのその達成率の目標が示されており、「国民にとっての充足度」指標を明示するという意味において、大きな役割を果たしてきたものと評価できる。
しかし、それを実現するための手段については、中古住宅流通、リフォーム等既存ストックの活用に関しても定性的な記述は行われてきたものの、定量的な指標としては、5年間のフロー量としての総住宅建設量及び公的資金住宅建設量が示されているのみであった。このため、今後の重要な政策課題である既存ストックの改善、ストック循環による住替え促進等によって、如何なる効果をあげることを想定しているのか等について明示することができず、国民への十分な説明責任を果たしつつ、自らの政策を評価し、それを将来の政策の企画立案に活かしていくという点(アカウンタビリティの確保、政策評価)においては、不十分であるという側面が存在する。
今後住宅政策体系を「ストック重視」「市場重視」の方向性に沿って再編成するためには、住宅建設五箇年計画に代表される住宅計画体系についても、より長期的な観点から、
・目指すべき住宅ストックの姿を示し、新築、建替えのみならずバリアフリー化、全面的改善事業等の多様な改善手法によってストックの質の向上を図ること
・中古住宅市場、賃貸住宅市場活性化を通じた住替えの促進等既存ストック循環による居住水準向上等を図ること
を明示的に取り入れ、その想定する効果を国民に明示し、自らその評価を行いうるものへと再構成することが必要である。
@住宅計画体系のあり方
住宅計画体系を見直すに当たって重視すべき我が国の「居住」の問題点としては、
・世帯構成と比較してストック全体の面積バランスが借家を中心に極端にいびつな構造となっていること、高齢社会に対応してバリアフリー化されたストックが形成されていないこと等から、ストック循環によって居住水準向上を図る前提である本格的ストック形成が行われていないこと
・借地借家法の正当事由制度等により市場に歪みがもたらされており、良質な住宅ストックの形成・循環が行われる市場環境が整備されていないこと
等が挙げられる。このため、前述の住宅政策の重要分野である@長期的視点に立った良質ストックへの再生、A国民の多様なニーズに対応するストック循環の実現、に係る各種施策を計画的、集中的に推進する必要があり、今後、住宅計画体系を
ア)新築、建替え、リフォーム等の「ストック整備」に係る施策のプログラムと、それによって目指す「住宅ストックの姿」の想定
イ)市場整備等「ストックの循環」の推進に係る施策プログラム
ウ)ア)とイ)によって目指す「居住水準の姿」
によって再構成する必要がある。
この場合、21世紀初頭において如何なる「居住像」の確保が図られるべきかについて、明確なビジョン(目指す「住宅ストックの姿」「居住水準の姿」)を提示し、その実現に向けた政策プログラムを整理することが、住宅に関する長期計画の最も重要な役割である。確保されるべき「居住像」については、地域特性を勘案しつつ、今後更なる議論、国民からの意見聴取を行った上で、提示されるべきものであるが、例えば、
@)防災性、耐震性の観点から基礎的な安全性が確保されるとともに、世帯構成に応じた住宅の広さ、立地条件等が確保された快適な住宅・市街地に居住しうるか
A)新築による住宅供給の他、中古住宅流通市場、賃貸住宅市場を通じた良好な中古住宅、賃貸住宅の供給により、ライフスタイルやライフサイクルに応じた住替えを容易に行うことができ、適切な住宅の確保が可能か
B)少子・高齢化に対応して、バリアフリー化された住宅の確保や必要な介護、保育等の福祉サービスを受けつつ、安心して居住できる住宅の確保が可能か
といった観点に基づいて検討を行う必要がある。
A住宅・住環境の整備目標
以上のような住宅計画体系の再編を行うために、長期計画において示される居住水準、住環境水準については、下記のような観点からの見直しが行われるべきである。
@)新たな居住水準のあり方
現在、第七期住宅建設五箇年計画においては、世帯類型別の必要面積等を示した最低居住水準、誘導居住水準、2000年度におけるこれらの水準の達成目標(誘導居住水準:約半数の世帯が達成等)が示されている。
このうち、広さについては、国民は一般的には、現行居住水準よりも広い住戸面積を希望しているという傾向はあるものの、
・誘導居住水準達成世帯では、約8割の世帯が広さに満足しているという現状
・2000年度末には、誘導居住水準達成世帯率の目標(50%)が達成される見込みであること
等から、今後の長期計画における居住水準に関しては、居住水準において示されている規模の引き上げではなく、世帯達成率目標の引き上げとそれを支える住宅ストックの面積バランスの想定を明示することを検討するべきである。
また、現行の居住水準においては、住戸面積のみが数値目標となっており、住宅性能については、定性的な配慮事項としての規定にとどまっている。一方、誘導居住水準達成世帯においても、約6割の世帯が高齢者への配慮等住宅の性能、設備に関して不満を感じている他、耐震性、耐久性、環境共生・省エネルギー性等の住宅性能に関する社会的要請も増大している。
このため、バリアフリー、省エネルギー性、耐震性、耐久性等、
・外部性の存在等から市場における対応だけでは限界があり、社会全体の要請として当該ストック形成の誘導を行う必要があるもの
・多数のニーズが見込まれるが、現状では当該ストック量が著しく不足しており、今後ストック増加を重点的に促す必要があるもの
については、本格ストックとして備えるべき基本的性能を明示した上で、21世紀初頭におけるストック全体の質的構成の想定についても明らかにすべきである。
A)新たな住環境水準のあり方
住環境水準については、「住環境の着実な改善」のための施策推進の指針として、基礎水準と誘導水準が定められているが、全体として指標が多岐にわたるとともに、定性的な記述が多く、全国の住環境の状況を総合的に評価するわかりやすい指標としては機能していないという側面がある。これに加えて、新市街地開発の減少や防災上危険な木造密集市街地の整備の重要性の増大という観点からも、既成住宅市街地における住環境の改善・向上等を重点的に推進するための有効な指標となるように、住環境水準のあり方を見直すべきである。
このため、住宅市街地に求められる最も基礎的な要件である安全性・防災性・衛生等の確保を計画的、重点的に推進する明確な政策目標として、現行の基礎水準を、一定期限までに「緊急に改善すべき住宅市街地」の目標として再構成することが必要である。
具体的には、大規模地震や市街地大火を想定した延焼危険性や避難・消火の容易性、老朽住宅の密集等の衛生上の観点から、非耐火住宅や老朽住宅等の建て詰まり状況、道路状況等について、可能な限り数値化された、適切な指標と水準を検討すべきである。
さらに、良好な居住環境の実現のためには、各種機関が連携して、関連行政分野を含めた各種施策を推進することによって、地域の実状に応じた住環境の着実な改善・向上や保全、新規開発時の住環境の質の確保の誘導等を図る必要がある。このため、現行「基礎水準」「誘導水準」を再構成し、地方公共団体等による各種の取組みを総合的に推進するための指針として、「住宅市街地の改善・向上等の指針」を明示すべきである。
具体的には、例えば、市街地の物理的環境、各種施設(行政サービス等)への近接性、街並み・景観等について、地方公共団体が中心となった各種機関が推進する総合的な施策の指針として適切な指標を検討すべきである。また、この指針に基づく各種施策を推進するために、例えば、各地方公共団体における住宅マスタープラン等において、地域の実状を踏まえた住環境整備の具体的方針を定めるなど、総合的・計画的な施策の推進方策を検討することが必要である。
B)目標年次の設定等
上記の居住水準、住環境水準の設定に当たっては、住宅ストックの構成や住環境の状況は、短期間に改変できないものであり、中長期的な取組みが必要であるということから、例えば、全国レベルで世帯数がピークを迎えることが予想されている2015年を目標年次として設定し、当該時期に向けて適切なストック形成を図っていくことを検討すべきである。なお目標達成への進捗状況や政策効果を適時評価するために、5年ごとに必要な見直しを行っていくことも検討すべきである。
また新たな目標水準の設定に当たっては、当該水準について、全国の住宅ストック、住環境の状況が統計的に計測可能であることが前提となるため、今後項目の検討を行うとともに、必要に応じて統計調査項目の追加や、推計による方法を検討することが必要である。
(2)高度経済成長期ストックの更新等を契機とした住宅ストック・居住環境の再生
今後の住宅政策は、市場の活用を基本としつつ、少子・高齢化の進行、環境問題の重要性の増大、安全性、快適性等に対する国民のニーズの高度化、多様化等の経済社会の潮流の変化を踏まえた住宅ストックの質的誘導に重点を置くべきである。
また、成熟社会においては、ストック更新がストックの質の向上に決定的に重要な意味を持つ。我が国では戦後から高度経済成長期に形成された住宅ストックの老朽化、陳腐化が進行する可能性があることから、これらの住宅ストックの更新によって、住宅ストック・居住環境を21世紀の本格ストックとしてふさわしい良質なものへ再生し、維持管理する仕組みづくりが必要である。
@21世紀に向けた良質な住宅ストックの新規形成方策
新築住宅市場に目を向けると、持家については、現在でも一定の床面積のものが供給されていることから、その質の誘導に一層の力を注ぐ必要がある。一方、借家については、国際的にみてもその面積バランスは著しく狭小なものとなっており、広くて良質な借家が供給される市場環境を整える必要がある。また、住宅全体について、環境問題の顕在化、情報社会の進展等経済社会の潮流の変化に対応したストックの形成を誘導する必要がある。
@)高度化・多様化した国民の居住ニーズに応えうる新築住宅市場の環境整備
ア)良質な住宅の健全・確実な取得支援
住宅は、心豊かな国民生活を支える基本的な基盤であり、国民が適正な負担の下で、多様なニーズに応じた住宅を取得することを通じて、良質なストック形成が行われることは、社会的な観点からも重要なことである。このため、税制、融資による良質な住宅の取得支援を図ることが必要である。
イ)良質な賃貸住宅の供給促進
持家と比較して狭小な居住水準となっている賃貸住宅については、健全な賃貸住宅産業の育成とともに、定期借家権の導入促進による借家制度の歪みの是正、消費者、供給者が主体的に判断できる的確な情報の提供、紛争を未然に防止する契約ルールの普及、賃貸住宅市場の市場ルールの確立等市場活性化のための環境整備を行うとともに、特定優良賃貸住宅、公団賃貸住宅等良質な公共賃貸住宅の供給促進を図る必要がある。
ウ)住宅品質確保促進制度の着実な実施
新築住宅市場における良質な住宅の供給等を図るため、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づく住宅品質確保促進制度の着実な実施が重要である。
エ)建設、維持管理、建替え等ライフサイクルを通じたコスト削減
建設、維持管理、建替え等ライフサイクルを通じたコストを削減し、住宅建設・保有に係る負担を軽減するためには、技術開発等生産性の向上、新商品開発などによる建設コスト及びリフォームコスト引下げを図るとともに、消費者への情報提供、良質かつ低コストな資材・部品の普及促進など、適正な市場競争が行われるための環境整備や消費者の多様なニーズに応じた定期借地権付住宅の普及を図ることが必要である。
A)経済社会の潮流に対応した新たな住宅ストック形成の観点
今後の経済社会の潮流の変化を踏まえた新たな住宅ストックの形成を図るためには、次のような新たな住宅等について、新技術開発等の分野におけるリーディングプロジェクトの実施、官民の技術交流を推進するとともに、市場の環境整備、誘導を図ることが必要である。
ア)環境問題の重要性の増大に対応した住宅ストックの形成
近年、地球温暖化等の地球環境問題、廃棄物問題等の地域環境問題が深刻化するとともに、建材等から発生する化学物質等の健康への影響等の室内環境問題に関する指摘がなされている。住宅分野においても、これらの問題を重要な課題として位置付け、廃棄物発生の抑制、リサイクルの推進、省エネルギー対策、自然環境との調和等に対応した住宅ストック形成を誘導する必要がある。
a)スケルトン住宅等長期耐用住宅の整備
建築廃棄物の問題等地球環境問題の重要性が高まる中、高い耐久性を有し、かつ居住者のニーズに応じて改変可能なスケルトン住宅等の長期耐用住宅の整備に対する支援措置を講じる必要がある。
b)住宅分野でのリサイクル等廃棄物対策の推進
建設廃棄物対策としては、廃棄物発生抑制のための住宅・建築物の長寿命化、分別解体への配慮、リサイクルの推進等を図ることが重要である。特に、住宅分野におけるリサイクルに関しては、リサイクル材の供給、活用を適切に行い得るリサイクル市場の整備等の課題がある。また、これらの課題については、地域環境問題としての側面が強いことから、地方公共団体等地域に根ざした主体が廃棄物対策に先導的役割を果たし、それを国が支援することが重要である。
c)環境共生住宅の整備及び室内環境対策の推進
省エネルギーのみならず、自然・未利用エネルギーの活用、リサイクル等による省資源、自然環境との調和など地域の資源を活かしつつ環境への負荷を軽減する環境共生住宅の普及を推進するための支援措置を行う。また、室内において、建材等から発生する化学物質等による人体への健康被害が指摘されているが、住宅の供給においても、これらの課題に対する適切な配慮が求められているため、住宅の室内環境対策に関する技術的検討、支援を推進する。
イ)情報化技術を活用した新しいコミュニケーションを支える情報化住宅の整備の推進
情報化社会が進展する中で、高齢者等の安全性・利便性の確保や、在宅勤務、在宅学習等の円滑な実現に向けて、宅内配線システムによる情報家電・設備・部品のネットワーク開発を通じて住宅の情報化を進めるための支援措置を行う。
Aストック社会、循環型社会にふさわしい住宅ストックの新たな更新、維持管理のあり方
今後の国民の居住水準の向上を図るに当たっては、既存ストックの更新によって、住宅ストックをより良質なものへと再生していくことが重要な視点である。以下では、ストック更新に当たって様々な課題を抱えている公共賃貸住宅ストックを始めとする賃貸住宅ストック、マンションストックに重点を置いて対応策を検討する。
@)公共賃貸住宅ストックの新たな活用方策
国民共通の資産である300万戸余りの公共賃貸住宅を今後良質なストックとして維持し、改善・更新していく上で最も重要なことは、高齢社会の社会的ニーズに対応したストックとして更新、改善し、活用していくことである。
特に、公共賃貸住宅の約4割を占める昭和40年代ストックについては、今後一斉に建替時期を迎えることが予想されるが、規模が狭小で、かつ、設備等の面で相対的に陳腐化しているものの、耐震性等が確保され、かつ、有効高度利用を図る必要性の小さいもの等については段差解消や設備等の改善を適切に行うことにより、高齢単身・夫婦世帯等にとって手頃な広さ、家賃水準の住宅として効率的に供給していくことが可能であり、今後はこうした取組みを強化していく必要がある。
ア)ストック活用に係る総合的計画体系の整備と計画に基づく的確な改善・更新
近年のストック改善・更新に係る取組みは建替事業中心であったが、今後、40年代ストックの改善・更新が必要となるに伴い、ストックの特性や地域のニーズに合わせた手法の選択を行い、効率的なストックの活用を図っていくことが必要となる。
このため、国においても、ストックの総合的な活用の観点からの整備計画と投資のフレームを確立する必要があり、各都道府県及び各事業主体においても、住宅マスタープラン等において、ストックの総合的活用のための計画の策定を推進し、的確な整備と管理を図っていく必要がある。その際、改善・更新のための投資フレームの検討と併せて、ストックを良好な状態に保つために、維持保全のための経費についても必要額を確保するよう検討する必要がある。
また、建替えにより新たに建設する住宅については、長期的な視点に立って、耐久性の向上、高齢社会への対応、省エネルギー対策等の環境への配慮等を行い、長期に活用しうる住宅として整備する必要がある。
イ)スーパーリフォーム等全面的改善事業に対する支援の充実
現在の既設公営住宅改善事業は、様々な要素の改善・更新を別個に行う仕組みとなっており、今後は、ストックの総合的な活用計画の策定を前提に総合的な事業展開を可能とする体系に組み替えていく必要がある。その際、活用するストックの躯体の耐用年限等の物理的特性、住戸規模等を十分勘案し、将来残された管理期間を見据えた上で改善手法を選択することが重要である。特に、東京都の「スーパーリフォーム事業」のような長期間管理することを前提とした全面的な改善は、長期的な財政運営の観点から財政負担の平準化の効果が期待し得るものであり、国による支援についても強化することが必要である。
公団、公社住宅についても、独立した事業主体として健全な賃貸住宅経営を維持する観点を含めて、高齢者向け優良賃貸住宅としての活用を前提とした改善を含む多様な改善への取組みを検討することが必要である。
ウ)居住水準設定の見直し等を踏まえた公営住宅家賃の算定方法の検討
公営住宅の家賃制度について、居住水準設定の見直しや住宅ストック改善の推進などの新たな住宅政策の課題に配慮した家賃算定方法について、家賃の設定状況を踏まえて検討を行うべきである。
エ)改善事業の推進に係る技術開発と費用対効果を適切に評価するための手法の開発
今後、改善事業をより効果的に実施するためには、改善事業に固有の技術開発を推進していく必要がある。躯体(コンクリート)の耐久性の診断技術や効果的な耐震改修に係る技術、工期を短縮させる技術、居住者が入居したまま改善を進める技術、エレベーターの効果的設置等バリアフリー化に係る技術、などが重要な課題である。
また、改善事業は、居住者の移転の問題や耐用年限を残している部材、部品の廃棄などにより費用がかさむ側面もあるため、費用対効果を適切に評価するための手法を開発することが必要である。
オ)地域整備との連携による地域に融合した団地の再生
公共賃貸住宅団地は、比較的大きな敷地規模、ゆとりのある土地利用等地域のコミュニティ形成に活用し得る空間資源を有しており、今後、団地全体を更新する建替えはもとより、部分的改修を積み上げていく改善事業を実施する場合にあっても、住宅及び団地単体を整備する視点のみでなく地域のまちづくり等へ寄与する視点を重視していくことが必要である。このため、立地にふさわしい商業施設や地域の課題に対応したデイサービスセンター、保育所等の福祉施設、図書館等の文化施設等の導入や、透水性舗装の採用、植栽の充実等環境問題への対応など、地域に融合した団地の再生を目指すべきである。
カ)公団既存賃貸住宅ストックの活用等
公団の既存賃貸住宅ストックについては、国民の貴重な財産であり資源であることから、その有効活用を図っていく必要がある。このため、リニューアル等の改善を行っていくとともに、地域社会の拠点としての機能を有効に発揮させる観点から、公営住宅との連携、公共団体や周辺も含めた住宅市街地整備との連携を積極的に図りつつ、既存入居者の居住の安定に配慮しながら、敷地の適正利用と居住水準の向上を図る建替えを着実に推進していく必要がある。
また、開発開始から数十年が経過した公団ニュータウンにおいては、地域内の少子・高齢化、開発初期に建築された既存住宅ストックや利便施設の老朽化等の問題が顕在化してきていることに対応し、豊かで住み良いニュータウンの居住環境を更新していくための方策について検討を行っていく必要がある。
キ)公営住宅と公団、公社住宅の併設等によるバランスのとれたコミュニティの形成
公共賃貸住宅団地における居住者の高齢化等を踏まえ、建替え等に際しては、公営住宅と公団、公社住宅の併設を図るなど、年齢、所得、世帯構成等のバランスのとれたコミュニティの形成を図っていくことが必要である。
ク)公営、公団、公社の各事業主体間の連携強化と統合的運用による居住者属性に応じた住替え促進
限られた住宅ストックを効率的かつ的確に活用し、住宅を必要とする者に供給する観点から、公営、公団、公社の各事業主体間の連携を強化するとともに、地域単位で募集にかかる情報提供や募集業務等の統合的運用について検討を進める必要がある。また、こうした取組みを通じて、年齢階層や世帯構成等の居住者の属性と、立地、規模、設備等の住宅の属性に応じて住替えを促進するなど、需要と供給のミスマッチの解消を図ることが必要である。
A)マンションストックの新たな更新・維持管理方策
いわゆるマンションは、我が国の人口の約1割が居住する重要な居住形態であり、2000年に築後30年を超えるものが約12万戸、築後20年を超えるものが約93万戸となるなど、築後相当の年数を経たものが急激に増大していくものと見込まれている。このような状況から、マンションの維持管理・建替えについて、現状のまま何ら対策を講じないと、将来、次のような問題が生ずるものと見込まれる。
・適切な維持管理等がなされないまま老朽化したマンションストックが増大し、区分所有者自らの居住環境だけではなく、周辺の住環境や安全性にも大きな影響をもたらし、市街地環境の広域的な悪化や地域のスラム化を招く可能性がある。
・さらに、これらの円滑な建替えが行われないまま放置されることにより、都市居住の主たる形態であるマンションにおける居住水準の向上が著しく妨げられると同時に、都心部等において合理的な土地の有効利用が困難となる可能性があり、ひいては、大都市等において定着しているマンション居住に対する社会的不安の発生や、将来の行政コストの肥大化を招くおそれがある。
このような状況を踏まえ、マンションの適切な維持管理・建替えの円滑化を図るための制度構築、公的支援を実施していくことが必要である。
ア)マンションストックの適切な維持管理に関する支援の充実
マンションの質・価値をできる限り長く保持するため、適切な維持管理がなされるよう以下の仕組みを構築すべきである。
a)適切な維持管理が評価される仕組みの整備
住宅品質確保促進制度の普及等マンションを安心して購入できるような条件整備を行うとともに、管理組合の運営状況、修繕や耐震診断・改修の実施状況等の情報開示を行うなど、適切に維持管理されているマンションが市場において評価される体制を整備すべきである。
b)計画的な修繕の実施
修繕積立金の不足を始めとする計画的修繕の実施に関する課題に対応するため、マンション修繕積立金を住宅金融公庫が受け入れ、融資の優遇を行う制度の創設や長期修繕計画策定の促進の他、リフォーム技術の開発等の施策を講じるべきである。
c)総合的な相談・支援体制の整備
維持管理等について技術的・法律的な専門知識が必要であることを踏まえ、相談窓口の設置、管理や修繕に関するアドバイザーの派遣等による情報提供、協議会等の情報交換の場を設けるとともに、管理組合が自ら管理会社を選別できるよう、管理会社の情報開示や、マンション管理業に関する制度的な検討等を進めるべきである。
d)管理規約の整備
居住者等の高齢化、ストックの賃貸化・事務所化等の居住実態や小規模マンション、等価交換方式のマンション等の分譲形態に即した管理規約の見直しを促進するなどの取組みを行うべきである。
イ)建替えに対する支援
建替えが必要なマンションについては、建替えが円滑になされるよう以下の仕組みを構築するべきである。
a)建替え方針決定等の合意形成支援
技術的・法律的な専門知識の不足、区分所有者間の意見調整の難しさ等により、円滑な建替え方針の決定が困難である現状を踏まえ、準備組織の活動支援や専門的相談システムの整備等、建替え方針の決定までの合意形成を支援するべきである。
b)高齢者等に対する支援
古いマンションには、高齢者や低資力者など多様な属性の世帯が混在し、合意形成等が困難な状況となっていることから、こうした者の居住の安定、仮住居等に対する支援施策を実施すべきである。
c)事業実施支援のための制度スキームの検討
建替えの事業面について、事業実施主体の確立や権利の保全等、事業の安定的かつ円滑な実施のための制度的枠組みを検討すべきである。この際、併せて、融資・補助の活用等の総合的支援方策を講ずるべきである。
d)公庫融資の拡充
老朽マンションの建替えへの総合的な取組みの一環として、公庫融資においても、老朽マンションの建替え促進のための融資の拡充を図るべきである。
また、マンションの建替え等に当たって、高齢者の継続的な居住を可能とするため、通常の割賦償還によらないリバースモーゲージ的な償還方法上の工夫について検討すべきである。
B)賃貸住宅のストックの更新
住宅ストックの更新に当たっては、戸当たり平均床面積45.1uと持家に比して著しく狭小な賃貸住宅ストックの面積バランスを改善していくことが重要な課題である。また、都市において多数存在する老朽木造密集市街地は、戦後の都市への急速な人口流入を背景として、十分な基盤整備無しに現在の水準から見ると低質な賃貸住宅が多く建設された地域であり、賃貸住宅と市街地の一体的改善が不可欠である。
ア)広くて良質な賃貸住宅への建替え促進
定期借家権の導入促進を始めとした各種の市場環境整備のための施策の推進によって、土地所有者のみならず、企業によっても賃貸住宅供給が行われる競争的な市場を通じた良質なストックへの更新を促進することが最も重要である。これらの民間事業者のストック更新を促進するため、融資税制上の措置の拡充を検討する他、特定優良賃貸住宅制度の活用を図るべきである。
イ)老朽木造密集市街地等における賃貸住宅ストック更新
老朽木造密集市街地等における賃貸住宅ストックの更新は、賃貸住宅と市街地の一体的改善が必要である。このため、密集市街地等における計画的な老朽住宅等の共同協調建替え等に係る総合的低利融資制度を創設するとともに、これと連携した密集住宅市街地整備促進事業の拡充を図るべきである。
B都市・地域における居住地再生
住民が安全で快適な居住サービスを得るためには、居住環境整備を地方の自主性の発揮を基本としつつ、重点的に実施することが必要である。
@)21世紀の都市居住再生に向けた住宅市街地整備の方向性
ア)都心居住の推進と密集市街地の整備等による安全で快適な住宅市街地の形成
通勤時間の長時間化、都心空洞化等の都市構造の問題を改善し、都市居住を再生するためには、都市部に多く存在する低未利用地の有効利用を図り、都心居住に資する住宅の整備を図る必要がある。
また、都市において良好な住宅市街地を形成するためには、住宅市街地整備総合支援事業、市街地再開発事業、土地区画整理事業等の推進やオープンスペースの確保により容積率の割増しを行う総合設計制度等を積極的に活用したまちづくりを行う。さらに、都市に多数存在する密集市街地について、地域住民が安全・快適に居住するために、道路等の都市基盤整備と住宅の建替えを一体的に行い、早急に改善を図るべきである。
また、住宅の耐震性の向上を図り、地震に強いまちづくりを進めるため、新耐震基準以前に建設された住宅について耐震診断、耐震改修を推進するとともに、地震保険制度との連携を図ることについても検討する必要がある。
イ)新たな居住ニーズに対応した住宅供給の推進
都市居住の快適性を向上させるためには、在宅勤務、コーポラティブハウジング等の新たな居住ニーズに対応することにより、職住近接、ライフスタイルに応じた多様な住まい方を実現していくことが必要である。特に、SOHOは今後多様化することが予想される国民のワークスタイルを居住面で支えるものであり、例えば女性の在宅勤務を支援することを通して、少子化対策としても有効であることから、その普及、支援を推進する必要がある。
ウ)人にやさしいまちづくりの推進
高齢者・障害者の安心居住を実現するためには、住宅を自立した日常生活や在宅介護を可能とする場としてバリアフリー化することのみならず、アプローチや住宅周辺のアクセスの整備に加え、まちづくりの観点から、全ての人々が安全かつ円滑に移動できる道路・公園等の生活基盤整備や、高齢者・障害者に配慮した建築物、市街地の整備なども含め、福祉の基礎的インフラとしての住宅・社会資本整備を進めていくべきである。
エ)住民、NPOと連携した修復型の住宅市街地整備の推進
零細な地権者が多く権利関係も複雑である地域における修復型の住宅市街地整備では、地域住民やNPOの活動との連携を推進することも有効である。また、NPO等の活動を活性化するため、その支援のあり方を検討する必要がある。
オ)証券化手法等を活用した再開発の促進
良好な住宅市街地の形成を推進するためには、公共施設等の基盤整備と一体となった再開発を進めることが重要であるが、その際、信託、不動産特定共同事業、証券化等地権者の参画方法や保留床の処分方法の多様化を図ることを検討していくべきである。
カ)居住環境整備のために必要な公共施設等の整備の推進
これまでは、住宅の供給に主眼を置いて新市街地の開発とそれに伴う公共施設等の計画的整備が図られてきたところであるが、今後既成市街地の再整備を住宅市街地整備の重点分野とすることから、既成市街地における居住環境整備に資する公共施設等の整備を総合的に行う方策を検討すべきである。
キ)都市の居住環境整備のための公庫融資の充実
既成市街地において市街地環境の整備改善を図りつつ老朽化した住宅ストックを適切に更新するため、公庫において今後は都市の居住環境整備を重要分野と捉え、補助制度との連携を図りつつ、金融上の積極的な支援を行う必要がある。
a)密集市街地や商店街の再整備の促進
居住環境整備が必要な密集市街地や商店街においては、個人住宅、賃貸住宅、非住宅用途の建築物が混在しており、これらの建替え促進のための複合用途建築物の整備に必要な資金について初動期資金を含め、総合的に低利で融資する制度を創設すべきである。
b)郊外住宅地における住宅の流動化の促進
高度経済成長期に形成された郊外住宅地において、今後、地域社会の高齢化の進行に伴う空家の発生等による居住環境の悪化、地域活力の低下等が懸念されており、この問題に対処するためにも、中古住宅流通等を促進する融資を充実すべきである。
ク)消費者の適切な居住地選択に当たっての環境整備
市場を通じた住環境の改善・向上等のため、住環境に関する国民の「居住地選択時の参考指標」を明示し、その普及を図るべきである。この場合、現行の「誘導水準」等を参考に、価値観の多様化、各要素相互間のトレードオフ関係等に留意しつつ検討すべきである。例えば、周辺の物理的環境、各種施設(行政サービス等)への近接性、街並み・景観等について、居住者の視点から適切な指標を検討するとともに、居住者の判断の参考となるデータ(例えば全国平均)の提示を検討すべきである。
A)地域活力の維持・増進に資する住宅整備の推進
ア)地域活力の活性化に資する住宅供給の促進やまちづくりの支援
中心市街地、中山間地域等活力低下が懸念される地域の活性化を図るためには、地域の産業政策や地域振興策と連携した定住用住宅等の整備や地域の文化、景観を含む地域資源を活用した個性豊かなまちづくりを支援する住宅の供給促進を図ることが重要である。
また、地方部の深刻な高齢化に対応するため、高齢者の生活、介護を支える住宅の整備と近隣社会コミュニティの再生を図ることが重要である。
イ)都市と地方の連携を促進する観点からのセカンドハウス等への支援促進
国民の居住ニーズが多様化し、マルチハビテーションの普及が予想される中で、特に豊かな自然環境を有する地域で家族とともにゆとりある生活を過ごしうる田園居住に関するニーズが増大するものと考えられる。このため、田園地域の中に生活の本拠を持ったり、週末をそうした地域のセカンドハウスで過ごすなどの居住形態を選択する人々も今後増加するものと考えられる。これらの動きは、多様な居住の実現を通じた都市に住まう者の豊かな居住の確保のみならず、都市と地方の交流を通じた地域活力の維持・増進にも寄与するものであり、金融、税制上の特例措置などのセカンドハウスへの支援措置のあり方について検討を行う必要がある。
また、オフィスワーカーの間でのサテライトオフィス勤務や在宅勤務を行うテレワークの普及は、こうした動きを加速するものと考えられ、地方での在宅勤務を可能とするSOHO等への支援を行う必要がある。
Cストック誘導型税制・融資の構築
@)税制のあり方
ア)良質な住宅ストックの形成を誘導するための支援のあり方
住宅に係る固定資産税に関して、特例対象となる床面積の上限を撤廃するなどの軽減措置の拡充等、良質なストックを誘導するためのあり方について検討していくべきである。
イ)国民の持家に対するニーズに対応した、住宅の取得に対する安定的な支援のあり方
国民の持家に対するニーズに対応して、住宅取得に係る負担の軽減による住宅取得能力の向上を図ることは、住宅税制において重要な課題であり、昭和47年度に所得税の租税特別措置として住宅取得控除制度(税額控除)が創設され、その後、昭和61年度から住宅取得促進税制として、その整備拡充が図られてきた。なお、平成11、12年度の2年間に限って住宅ローン控除制度が経済対策として拡充されている。
今後の住宅取得支援のための税制のあり方については、当審議会での住宅政策の審議も踏まえ、欧米諸国の住宅税制の動向も参考にしつつ検討を行う必要がある。
ウ)不足している良質な賃貸住宅の供給を促進するための支援のあり方
良質な賃貸住宅の供給促進という観点から、特定優良賃貸住宅等の優良な賃貸住宅を供給する事業者への税制上の支援のあり方について検討していくべきである。
A)新たな融資メニューを中心とした公庫融資のあり方
住宅金融公庫融資はこれまで、住宅取得能力の向上を支援するとともに、独自の建設基準の設定等により居住水準や住宅の質の向上を牽引してきたところであるが、今後の住宅政策の方向性、金融環境の変化等を見据えて、良質なストックの形成、都市の居住環境整備等への対象分野や支援の重点化等に向けて、民間融資との協調等を踏まえつつ、不断の見直しを行う必要がある。
ア)良質な住宅の健全・確実な取得の支援
所得や地価の右肩上がりを前提とできなくなったことに対応して、良質な住宅の健全・確実な取得を支援する観点から公庫融資制度のあり方を検討する必要がある。
a)長期固定金利
長期固定金利は、将来にわたる返済負担が予見可能で利用者にとって安心であり、また、民間金融機関では実施困難なローンのタイプであるので、公庫融資は引き続き長期固定金利を基本とすべきである。
b)政策金利としての公庫金利のあり方
公庫融資の金利は、経済全体の動きとの調和を図る観点から市場金利の動きを踏まえるとともに、政策金融としての公庫融資の役割を踏まえ、ローン返済負担の軽減・安定化を通じて、国民の計画的な住宅取得・選択の支援、良質なストックの形成や居住環境の改善などの政策誘導等が適切に行われるように設定すべきである。
以上の観点の他、公庫融資については、一般会計からの補給金投入により政策金利としての設定が可能となっているところであり、必要となる国民負担、財政制約のもとでの金利優遇が事業運営に及ぼす影響等の観点も含め、金利設定のありを総合的に検討すべきである。
c)返済負担の右肩上がりの見直し
ゆとり償還制度は、借入金残高の減少が遅く、特に低金利時には6年目の返済額の増加が相当大きくなり、将来の返済困難化が懸念されるため、廃止すべきである。
また、11年目以降の金利を高く設定する段階金利制度についても、初期負担軽減のニーズと将来の返済負担増大の問題とを比較衡量しつつ、公庫金利のあり方を総合的に検討する中で制度のあり方を検討すべきである。
d)頭金の確保の支援
土地等の資産価値が下落している現況を背景に、住替えが困難となるなどローンに大きく依存して住宅を取得することのリスクや公庫の債権保全上のリスクが増大しているため、頭金の確保を前提として融資率に一定の限度を設けることを基本とすべきである。
また、頭金の積立てによる計画的な住宅取得を支援するため、財形住宅融資制度等の活用のほか、住宅債券制度の拡充を検討すべきである。
e)完済時年齢を考慮した償還期間設定
無理のない償還期間の設定を担保するため、完済時の年齢に制限を設けるべきである。
イ)新築・中古及び持家・借家のバランスのとれた住宅市場の整備
現在、公庫融資の利用状況は大部分が新築の持家となっているが、成長社会から成熟社会への移行に対応した既存ストック循環型社会においては、公庫融資においても良質な中古住宅や賃貸住宅の供給促進に重点を置く必要がある。
a)良質な中古住宅に対する融資条件の改善
良好な状態に維持された中古住宅については、融資の条件面で必ずしも新築住宅に劣後させなくてもよいと考えられることから、中古住宅の診断・評価の技術と体制の充実を前提として、新築住宅並みに融資条件を改善することを検討すべきである。
b)中古住宅購入とリフォームの一体融資の創設
中古住宅を取得して自分に適した住空間へとリフォームを行うことは、新築住宅の取得に準じた居住ニーズの充足を可能とし、中古住宅の流通促進に寄与するものであるため、公庫融資において中古住宅購入とリフォームの費用を一体的にまかなう融資の創設を検討すべきである。
c)耐久性の高い住宅ストックの形成と適切な維持管理の促進
ストック市場を活性化するためには、その前提として、耐久性の高いストックの形成と適切な維持管理をより一層促進する必要がある。このため、耐久性の高いストック形成に向けて、技術基準を強化するとともに、耐久性の向上に応じて償還期間を見直すべきである。また、維持管理がとりわけ重要なマンションについて、住宅債券制度を拡充し、修繕積立金を公庫が受け入れ、融資の優遇を行う制度を創設すべきである。
d)良質な賃貸住宅の供給促進のための融資の拡充
我が国の賃貸住宅の現状は、土地所有者による戸当たり床面積の小さい賃貸住宅の供給に偏っており、専門的な経営ノウハウを持った主体によるファミリー向けの賃貸住宅の供給促進及びその適正な維持管理が重要課題となっている。このため、賃貸住宅融資について補助制度との連携を図りつつ、経営採算性向上のための融資条件の改善を行うとともに、企業による賃貸住宅供給のための土地・借地権取得費融資を実施するなど制度の拡充を図るべきである。
e)持借流動化への対応
持家取得にこだわらず賃貸住宅を志向する者が増加する兆しがあり、良質な賃貸住宅に対する需要の高まりとともに、今後、持家の賃貸住宅化による賃貸住宅供給が増加すると考えられる。特に定期借家権が創設されれば、持借流動化が活発化すると予想される。こうした状況を踏まえ、公庫融資においても、住宅取得後の自己居住要件の弾力化等を検討すべきである。
ウ)都市の居住環境整備のための建替え等の促進(再掲)
(3)既存ストック循環型市場の整備による持続可能な居住水準向上システムの構築
今後の住宅政策において最も重要な視点は、良質な住宅が循環することにより、国民の多様な居住ニーズに応じた選択肢を適正な価格の下で提供できる住宅市場の環境整備を進めることである。
このため、新築住宅市場における質の確保の推進のみならず、市場構築の遅れている中古住宅市場、賃貸住宅市場、リフォーム市場等ストックに関わる市場環境整備に特に重点を置いた取組みを行い、これを活性化することが必要である。
また、循環型市場が適正に機能し、国民が良質な居住サービスを受けることを可能とするためには、市場機能を常に注視し、政策評価を行い、市場環境整備に係る適時適切な施策を講じることにより、国民の居住水準の向上を図っていくシステムの検討が必要である。
@中古住宅市場の活性化への取組み
日米の住宅市場を比較すると、新設住宅着工戸数の差異はわずかであるが、中古住宅については、米国では日本の約26倍という流通量の規模を有している。米国では、住宅の平均寿命が44年と日本の26年に比べて長く、適切な維持管理が施された住宅が円滑に流動化していることがうかがわれる。この背景には、リフォーム等の実施状況が価格査定に反映される評価システムが構築されており、中古住宅を購入しても維持管理次第ではキャピタルゲインを得ることが可能であることがあげられる。さらに住宅検査等をはじめとした住宅に係る情報開示制度も確立されている。
したがって、日本における中古住宅市場の活性化のためには、住宅の所有者が適切な維持管理及びリフォームの実施を行うことを促進することにより既存住宅ストックの質の維持・向上を図るとともに、
・性能評価、履歴情報等の情報の充実による中古住宅の評価システムの確立
・中古住宅の評価を取引時の価格査定に適切に反映させることにより、現状では築後20年を経過するとほぼ無価値となっている建物評価の適正化
を実現することが不可欠である。また、円滑な取引のための情報提供機能の充実、公的な支援体制の整備についても検討する必要がある。
@)中古住宅の評価・情報活用システムの確立
ア)中古住宅の評価体制の充実
「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の適切な施行を行うための諸制度の整備を行い、住宅の新築時における性能表示制度の普及を図る。こうした住宅が中古住宅として流通する場合には、性能表示が充分に活用されることが必要である。
また、中古住宅の評価、診断の技術開発の検討を行うとともに、例えば建築士等が設計図書を参考としつつ、一定の手続に基づいて検査することにより中古住宅の評価を行う体制を整備する必要がある。
イ)リフォーム実施記録等の履歴情報を蓄積するシステムの整備
住宅の新築時、リフォーム実施時を通じて、工事時期、工事箇所、工事内容等の記録を蓄積するためのシステムを整備する。このためには、工事の適切な施工管理体制の確保と一体となった工事記録証明書の発行、証明内容の公的機関等への登録等の方策につき検討する必要がある。
なお、履歴情報の蓄積に当たっては、これらの履歴情報が中古住宅の性能表示の実施時において活用しうることから、住宅性能表示制度や中古住宅の評価と連携のとれたシステムとして整備する必要がある。
A)中古住宅の適切な価格査定の実現に関する条件整備
ア)価格査定のためのマニュアルの整備
既存の価格査定マニュアルについて、現状では築後20年を経過するとほぼ無価値となっている建物価格査定方法の見直し、住宅性能表示、中古住宅の評価、維持管理・リフォームの実施状況を価格査定に反映する仕組みとするよう見直しを図る必要がある。
イ)実効ある価格査定作業体制の整備
宅地建物取引業者等における価格査定の際に住宅性能表示、中古住宅の評価、履歴情報、類似取引物件情報等の的確な収集を円滑に行えるよう、これらの情報のあり方について検討するとともに、マニュアル改定作業と連携して価格査定根拠を売り主、買い主を含めた取引関係者全てに的確に提示しうる価格評価の統一フォームの策定の検討等を通じて、価格査定作業の精度の向上と信頼性の向上を図る必要がある。
B)市場における住宅に係る情報の提供機能の整備
ア)消費者が安心して取引が行えるための住宅の価格、課税、性能、履歴等に関する情報の整備
市場を活性化するためには、消費者側が得るべき情報をできる限り詳細に網羅する必要があり、価格情報だけでなく、課税情報、性能情報、履歴情報、近隣情報、さらには活断層に関する情報に至るまで、情報としてどのようなものが必要か再整理する必要がある。
イ)物件情報を的確に入手できるシステムの整備
a)レインズ(不動産流通標準情報システム)の情報の充実
現行の最大の情報ネットワークシステムであるレインズ(不動産標準情報システム)について、中古住宅取引の成約情報の重要性を再認識した上で、登録する情報の一層の充実を図るとともに、通信線としてインターネットを利用する方式による情報の迅速性の確保を検討する必要がある。また、直近の平均成約価格などの市場情報(インデックス)の整備について検討する必要がある。
b)業界団体独自の情報ネットワークの構築
購入者に対して直接情報を提供する業界独自の情報ネットワークシステムの構築(地方圏の情報の充実)についても検討する必要がある。
c)売り主が直接自己所有物件の情報を提供するシステムの構築
インターネット等を利用して、売り主が直接自己物件の情報を提供し、購入者がこれを検索できるシステムを構築することについて、その是非を含め、システムのあり方、情報の信頼性の確保方策について検討する必要がある。
d)データベース化等
b)及びc)の情報のデータベース化等について検討する必要がある。なお、これらの検討を行うに当たっては、情報提供システムが同時に存在する場合に情報の混乱が生じないための方策を検討するとともに、どのようなシステムが構築されるにせよ、将来これが再構築される局面も想定し、提供すべき情報の項目、基準等の統一化を図っておく必要がある。
C)円滑な取引の支援
専門的なアドバイス、コンサルティング機能の充実を図り、不動産コンサルティング業について固有の業としての確立を図る。また、売買後のトラブルへの対応のため、中古住宅の瑕疵保証制度について検討を行う必要がある。
D)新築・中古のバランスのとれた住宅市場整備を支える公庫融資の拡充(再掲)
A賃貸住宅市場の活性化への取組み
賃貸住宅市場は、借家制度による影響から、借家としての良質な住宅ストックの円滑な流動化及び賃貸住宅経営者の良質な借家供給意欲が阻害されており、さらに、情報機能の整備の必要性があること、賃借人が負担する費用が不明確であること等の問題点がある。
このため、賃貸住宅市場の活性化のためには、定期借家権の導入促進が不可欠であり、併せて、情報機能の整備、適正な賃貸住宅管理の確保を図り、良質な住宅ストックの供給を促進する必要がある。
@)定期借家権の導入の促進
賃貸住宅市場の大半を狭小なストックが占めていること、賃貸住宅経営者の経営感覚の欠如等借地借家法の制約により生じている問題に対応するためには、定期借家権の導入が不可欠であることから、低所得高齢者の居住安定施策を充実しつつ、その導入を促進する必要がある。また、導入に伴い、借家人がその内容を十分理解でき、これが円滑に活用されるよう、標準契約書の作成、相談機能の充実等を行う必要がある。
A)賃貸住宅市場に関する情報機能の整備
賃借人に対する情報機能の整備については、中古住宅市場と同様レインズの一層の充実を図ることの他、賃借人に対し直接情報を提供する業界団体独自の情報ネットワークシステムの構築を検討する必要がある。
B)適正な賃貸住宅管理の確保、資産活用の多様化への対応
ア)健全な賃貸住宅の経営、管理、改善等を行う産業の育成
健全な賃貸住宅の経営、管理、改善等を行うため、資産管理サービスを行える専門的知識、経験等を有する専門家の育成についても検討する必要がある。また、これらの知識を有する専門家であるプロパティーマネージャーやアセットマネージャーなどの利用等による本格的な賃貸管理業の育成を図ることを検討する必要がある。
イ)賃貸住宅管理のあり方の検討
管理業者と貸主及び借主との間のトラブル処理に関する措置について、その整備及び改善を図ることを検討する必要がある。
ウ)貸主及び借主双方を対象とする第三者による相談機能の充実
借家紛争に関する相談機能の充実を図るため、貸主及び借主双方を対象とする第三者による相談機関の設置について検討する必要がある。
エ)取引コスト等への対応
賃貸住宅市場において、賃貸住宅標準契約書の活用の徹底や退去時の現状回復についてのガイドラインの普及・啓発に努める他、敷金、権利金、礼金、退去時の現状回復費用等賃借人が負担すべき費用のルールのあり方についての検討等建物の賃貸借に関して存在する地域慣行を必要に応じて見直す必要がある。
C)持家・借家のバランスのとれた住宅市場整備を支える公庫融資の拡充(再掲)
Bリフォーム市場活性化への取組み
リフォーム市場の活性化のためには、高齢化(在宅介護等)、情報化などの国民の多様化したニーズに対応し、住宅の性能の向上を図るためのリフォーム技術の開発を図るとともに、消費者にとって情報の入手が難しい、施工に不安がある等の現状に対応した市場環境の条件整備を行う必要がある。また、住宅の所有者に適切なリフォームの実施を促し、既存の住宅ストックの質の維持・向上を促進する必要がある。
@)リフォーム技術の向上のための条件整備
ア)住宅の新築段階からの取組み
現在においても、中古住宅購入後約7割の者がリフォーム工事を実施していると言われているが、間取り変更等リフォームに対応できる柔軟性に乏しいとの指摘がある。このため、リフォーム工事実施を前提とした新築段階からの取組みとして、
a)長期耐用都市型集合住宅の建設及び再生技術の開発
b)間取り、内装等の自由度が高く、また更新が行いやすいスケルトン住宅の開発
等につき検討を行う必要がある。
イ)住宅設計の標準化、部材の規格化等の促進
住宅設計の標準化、部材の規格化等を促進することにより、スケールメリットを追求し、リフォーム実施の際のコストダウンを図ることを検討する必要がある。また、高齢化、情報化等に対応した性能向上型リフォーム技術の開発について検討を行う必要がある。
A)リフォーム市場における市場環境整備
ア)消費者がアクセスしやすいリフォーム市場の確立
リフォーム業者情報、工種・工法・技術の情報等の情報提供機能の充実について検討を行う必要がある。また、住宅の所有者によるリフォーム実施の判断材料として、建て方別、構造別等に標準的なリフォーム実施プランの作成を検討する必要がある。
また、リフォームに関する専門的な相談体制の充実を検討する必要がある。
イ)消費者が安心して利用できるリフォーム市場環境の整備
欠陥工事に対する消費者保護の観点から、業者による一定以上の施工水準を確保するため、施工方法の標準化の検討を行うとともに、リフォーム工事の規模等に応じて検査機関による検査、検査員の派遣等による施工管理のあり方について検討を行う必要がある。また、建築技術、商品知識に加え、生活提案型のコーディネートができる人材の育成が必要である。
ウ)リフォーム実施のためのインセンティブ向上
住宅の履歴情報を蓄積し、中古住宅の価格査定に反映させるシステムの整備により、住宅の資産価値向上のためのリフォームが、公庫融資やキャピタルゲインに反映されるためのシステムの整備を行い、リフォーム実施のインセンティブの向上を図ることについて検討する必要がある。
C市場における円滑な住宅ストックの循環を促進するための税制上の支援のあり方
住宅の流通に関する税のうち、印紙税、登録免許税及び不動産取得税については、中古住宅に対する措置を含め様々な軽減措置がとられており、平成9年の消費税の引上げに際しては、この軽減措置が拡充されたところである。このような実態を踏まえつつ、賃貸住宅も含めた住宅の流通促進を図る観点から、更なる軽減措置について求める声もあり、これについて検討する必要がある。一方、消費税については、我が国の消費税の仕組みや食料品、衣料品等他の財との均衡の問題を踏まえつつ、検討していくことが必要と考えられる。
また、住宅の譲渡に関する税については、譲渡益が発生した場合の特例措置に加えて、譲渡損失の繰越控除制度が整備され、資産デフレ下の経済情勢における住替えのための支援措置が講じられたところであるが、今後とも国民がそのライフステージに合った住替えを円滑に行う観点から、当審議会での住宅政策の審議を踏まえ検討を行う必要がある。
さらには、中古住宅の活用を図る観点から、リフォーム投資に対する税制上の特例措置のあり方について、検討を加えることも必要である。
D総合的な住宅サービス関連市場の育成
今後、住宅市場でのストック重視の傾向が強まれば、住宅関連産業は新規の住宅建設といった短期的な視野に立ったものに加え、住宅の維持管理、リフォーム等のメンテナンス、集合住宅(マンション)管理、賃貸住宅管理といった長期的な視野に立った事業の展開にも重点を置いていくことが必要となるものと考えられる。こうした状況は、住宅をベースとして展開される様々なサービス事業と住宅産業との連携を強め、住宅を中心とした総合的なサービス事業の展開が期待される。住宅、居住等に関する総合的なサービス分野は、今後成長が見込まれる分野であり、
・高齢化の進行、介護保険法の施行を契機とした介護ビジネスの展開
・共働き世帯の増加等を背景とした子育て関連ビジネスの展開
・国民の安全に対するニーズの高まりに対応したホームセキュリティサービス等の展開
・資産運用の多様化を背景とした住宅資産も含む総合的な資産運用に関するコンサルティングビジネスの展開
等、新たな産業活動の展開と融合した、新たな住宅関連産業の姿が模索されている。また、これら分野のサービスのうち、介護、子育て関連サービス等は住民の相互扶助による非営利の地域活動がその担い手となることも期待されることから、こうした活動との連携も重要となると考えられる。
国民の多様な居住ニーズに応えるとともに、今後の我が国経済を支える新たな産業創出を図るという観点から、これらの新たな産業活動に関する将来像の提示、支援等を検討する必要がある。
(4)少子・高齢社会に対応した「安心居住システム」の確立
現在、急速に進行している少子・高齢化は、国民の居住に関する不安を背景としているという側面と、この人口構成の変化が国民に新たな不安をもたらしつつあるという側面が存在する。したがって、少子・高齢化が急速に進行しつつある中でも、持続可能な経済成長を可能とするためには、
・高齢期を迎えても安心して居住することが可能であり、そこを拠点として積極的な社会参加が行える社会
・「居住」の側面において、家族の子育ての負担を軽減し、女性の積極的社会参加を支える社会
を創造することが必要である。
このためには、
@中低所得高齢者を中心として、バリアフリー化された良好な住宅ストック形成を早急に図ること
A高齢期の「居住」に関する不安を取り除く環境整備を図ること
B家族の子育て負担を軽減する良好な住宅、居住環境整備を図ること
を内容とする「安心居住システム」を21世紀の本格的少子・高齢社会の到来に備えて創り上げることが急務となっている。
@福祉施策との連携に基づく良好な住宅ストックの形成
@)高齢者向け公的賃貸住宅の供給促進
高齢者については、その身体的状況、経済状況、家族の状況等に応じて、その求める居住ニーズは多様であり、そのニーズに応じた安心して居住できる場の選択を可能とするためには、多様な住宅等の供給に関する総合的計画を策定し、それに基づいて福祉施策と一層の連携を図った高齢者向け住宅の供給を促進することが必要である。
高齢者向けの住宅は、高齢者の日常生活の見守り、生活の相談、緊急時の対応等の生活支援サービスを提供することにより、高齢者の自立を支援し、居住の安定を一層促進することができるという観点から、ハード面でのバリアフリー化のみならず、多様な住宅への生活援助員の派遣、緊急通報システムの整備等、生活支援サービスの充実のための方策について検討する必要がある。
また、高齢者向け住宅と老人福祉施設との合築、併設等の一体的供給を図ることによって、複合的な機能を備えた高齢社会の新たなインフラとしての整備を推進する。
A)既存持家のバリアフリー化推進
介護負担の軽減、高齢者の自立の支援、住宅内における安全性の向上等の多様な効果があることから公庫融資等様々な施策によって、持家のバリアフリー化を促進することが必要である。例えば既存の持家のバリアフリー化を促進するため、中低所得高齢者による住宅金融公庫の改良融資の活用を促進するとともに、親子リレー返済方式の活用等、高齢者が融資を受けやすくする方策についても検討する必要がある。また、多世代居住に対応した住宅の普及促進を図ることにより、世帯人員と住宅規模に関する。世代間のミスマッチの解消を目指す。
B)人にやさしいまちづくりの推進(再掲)
A高齢期の居住の不安を取り除く環境整備
@)高齢者に対する情報提供と相談のための体制の充実
高齢期や高齢期に至る以前において、高齢期の住まいについて検討し、多様な選択肢の中から、自分のニーズに適した居住の場を的確に選択できるよう、住宅施策と福祉施策の連携のもと高齢期の住まい方や高齢者向けの住宅及び有料老人ホーム等の施設についての情報を提供するとともに、高齢期の居住についての相談に応じる体制を整備、充実する必要がある。
また、バリアフリー化に当たって高齢者の身体的状況に適した設計、施工が行われるよう十分な情報提供や建築と福祉、保健等の各分野の専門家が相互に連携しつつ相談に応じ、総合的なアドバイスを行うことができるような体制の整備、充実を図ることが重要である。
A)高齢居住者保護の充実等
高齢者の特性を踏まえて、入居者の適切な選択に資する高齢者向け住宅を提供する事業者による情報の的確な提供や、公正な契約締結のための措置等について充実を図る必要がある。
また、高齢者向け住宅においては、入居時に家賃相当額を一時金として一括前納する方式を採用する場合があるが、これは月払い額の軽減等高齢者にとってその所得・資産の特性に応じた利点を有するものと考えられる。但し、このような方式を採用する場合、倒産等に対応するための高齢者の居住安定策の充実を図る必要があり、具体的な方策について検討を進める必要がある。
また、高齢者の安定的な居住を確保するためには、良質な高齢者向け公共賃貸住宅の供給、福祉施策と連携した情報提供の充実を図るのみならず、貸主の高齢入居者に対する不安を解消し、民間賃貸住宅においても、家賃滞納や損害賠償等に関する保証制度、高齢者に対する住宅のあっせんなど地方公共団体等によるきめ細やかな施策を促進することが必要である。
B)高齢者の資産を活用したストック循環
単身または夫婦のみで生活する高齢者にとって、自宅を売却したり賃貸し、自身はバリアフリー化された住宅に住み替えることによって得られる売却代金や賃貸借料の差額によって、より豊かな消費生活を送ることができる。こうした住替えを可能とするため、中古住宅市場や賃貸住宅市場の活性化のための条件整備を進めていく必要がある。また、自宅に住み続けながらも、リバースモーゲージを活用することにより、生活資金を確保することが可能となるが、その普及に当たっては、資産価格の下落等により担保が不足する危険性も指摘されており、中古住宅の将来の価格がある程度見通せる必要があることから、中古住宅の価格評価の適正化、流通市場の活性化を行う等の措置が必要である。
このことにより、高齢者自身の資産活用が可能となるとともに、中古住宅流通市場に供給される住宅ストックが増加し、住替えの促進による世帯人員と住戸規模のミスマッチの解消に資することも期待される。
また公的賃貸住宅においても、団地内でのバランスのとれたコミュニティ形成を図るとともに、高齢居住者の実状に合わせた適切な居住が選択できるよう、情報提供、募集業務等の統合的運用による住替えの促進を図るべきである。
B家族の子育て負担を軽減する良質な住宅ストック形成
少子化問題については、基本的にその背景として、晩婚化、女性の社会進出、養育費の問題等の構造的要因が重なり合って生じているものと考えられる。また住宅が狭い、ローン返済や家賃が家計を圧迫していることなどの厳しい住宅事情も大きな要因となっていると考えられる。
このため、住宅政策においても積極的な取組みが必要であり、特に賃貸住宅においては、持家と比較し、質の面で大きく劣っており、とりわけ世帯人員が増加するほど居住水準が悪化していることから、子育てしやすい環境整備を図る観点からも、賃貸住宅の質の向上、特にファミリー向けの良質な賃貸住宅の供給が必要である。
さらに女性の社会活動の活発化に対応し、夫婦が仕事や社会活動をしながら子育てしやすい環境整備を進めることが重要である。そのためには、都心部における賃貸住宅供給により、職住近接のための都心居住の推進、地域に必要な保育所等と賃貸住宅の併設等福祉施策分野との連携を積極的に図る他、まちづくりにおける子供の遊び場の確保等誰もが住みやすい住宅宅地を目指す。
2.新たな宅地政策の具体的方向性
(1)消費者・生活者志向型の宅地供給支援
従来から、消費者・生活者(以下「消費者」という。)は、逼迫した宅地需給の下、取得等の可能な範囲内で、できるだけ利便性の高い、できるだけ広い住宅宅地を求めるという行動をとってきており、今後もそれ自体は変わらないと考えられる。しかし、求める利便性に関して、従来よりも消費者個々人による変化の幅が大きくなるために、消費者による宅地の選別が進むと予想される。選別に適合した宅地のみが需要されるようになると、首都圏全体については勿論、都心から同等な距離圏にある宅地相互の間でも需要がみな堅調であるということはなくなり、従来型の宅地の大量供給策が有効な範囲は狭まって行くと考えられる。
宅地供給に関して、都区部(近畿圏においては大阪市に相当)(概ね環7内側の「都心部」(14区)とその外側の「周辺区」(9区)にさらに区分)、近郊部、郊外部の区分が考えられるが、利便性を基にした消費者の選好に基づく宅地供給を支援する必要がある。
今後、需給緩和が進むと考えられるため、「職住近接」と「ゆとりある居住空間実現」の可能性が大きく高まるものと想定される。
数多いニーズの中で、「職住近接」は利便性の中の重要な要素であるが、首都圏居住者の全てが都心部に通勤するものではないので実現形態は様々であるし、また「ゆとりある居住空間実現」も同様であることに配意しながら、以下では、この二つのテーマを取り上げ、消費者志向型の宅地供給を支援するために21世紀の宅地政策として何をなすべきか、何が可能か等について検討する。ここでの問題点及び対策は、首都圏以外の大都市圏においても通用するものがあると想定される。
@「職住近接」ニーズに応える宅地供給支援
@)消費者のニーズ
都心のビジネスセンター地区を初めとする都区部の事業所の就業者にとっての職住近接は、主として都区部における宅地供給で実現される。都区部では、文化・商業・アミューズメント施設等の集積の利便性も享受できる。従来は地価が高すぎて取得能力を持つ人が少なく、需要が乏しかったが、近年の地価下落、分譲価格下落による需要増加を追い風として、再び中高層集合住宅の供給が増加している。分譲以外のファミリー向け賃貸住宅も需要は高いが、供給は十分ではない。周辺区においては、地価下落を受け戸建住宅の供給が増えているが、中程度の既存住宅の敷地を複数住戸向けに分割するために、宅地の細分化も懸念される。
一方、都心部から20〜30km圏にある業務核都市等の就業者やニュータウン内のオフィス就業者の場合は、近郊・郊外部において職住近接を実現することができる。また、都心通勤者であっても、高速鉄道の駅に近接した宅地に住宅を取得した場合は、通勤時間の短縮が可能なことから、これも実質的には職住近接ニーズの実現の範疇に入れることができる。
A)解決すべき課題
ア) 都区部での低未利用地の高度利用化の不足
臨海部等に大規模な工場跡地等があるが、交通機関の未整備、重厚長大産業の操業による環境問題等のため、住宅地への転換は直ちには困難な場合もある。また、用途転換と併せて計画的な街区道路の整備等も必要である。
イ)都心部での虫食い土地等の集約化、流動化の遅れ
バブル時に一部地上げされたまま集約化が中断し、放棄された都心部の虫食い土地等においては、多重抵当権等の存在等から権利関係の調整、集約化が進んでいない。
ウ)再開発における権利調整
再開発では、権利関係が複雑であること等から、計画の策定・調整の際のコーディネートが重要な鍵を握っている。
エ)開発型事業のための資金調達
不動産の証券化は既稼動物件を中心に考えられてきた。資金調達に困難さが伴う開発型事業の場合、オフィスビルに限らず集合住宅についても、証券化による資金調達の円滑化が必要となっている。
オ)郊外部の宅地の状況
高速鉄道の駅からの距離が遠く交通不便な宅地がある他、業務・文化・商業等の施設の集積度の低さのために生活上の利便性が乏しく感じられる。業務核都市との交通上の連絡の不十分さもネックとなっている。
B)政策による支援
ア)大規模工場跡地等の土地利用転換
既成市街地の工場・倉庫等の跡地等においては、住宅市街地整備総合支援事業、市街地再開発事業等の活用により、住宅等の供給を図る。臨海部の大規模工場跡地等については、必要な基盤施設の整備と併せ、再開発地区計画等の制度を活用して土地利用転換を円滑に進め、住宅の供給等に積極的に対応する。
イ)虫食い状の土地の流動化
都心部の虫食い状の土地に係る残存土地所有者が、当該土地を集約する事業者に一旦売り渡した後も、適切な素地価格に開発利益の一部を加えた価格で買い戻しできるオプション制の創設について検討する。虫食い状の土地の交換に伴う流通税の免除、事業者以外の権利者や投資家がプロジェクトに参加できる手法の整備等を検討する。
ウ)再開発の推進、円滑化
既成市街地における再開発に必要な、権利調整等に関わるコーディネーター等の育成・活用を推進するとともに、都市基盤整備公団等の公的主体がこれまでに培った信用とノウハウの積極的な活用を図る。
エ)不動産インデックス情報の整備等
不動産の証券化を進める上で、不動産インデックス等の情報の整備が必要であることから、情報提供に対する支援とその活用を図る。
オ)郊外部の宅地の利便性の向上
業務核都市等への通勤手段の確保及びニュータウン内のオフィス立地を進めることで、職住近接を実現する。
鉄道やバス等の交通機関の整備と一体の宅地供給を推進するとともに、市街地が熟成するまでの間、駐車場として暫定利用できる土地を活用してパークアンドライド等を推進する。
市民農園の整備とともに、事業用借地権を活用した利便施設誘致等を行う。
A「ゆとりある居住空間実現」ニーズに応える宅地供給支援
@)消費者のニーズ
周辺区から近郊・郊外部には、市街化区域内農地のうち宅地化すべきもの(以下「宅地化農地」という。)が広く展開している。この区域及び郊外部の大規模開発地区は、ゆとりある居住空間確保の可能性と緑地に恵まれた良好な周辺環境の点で住宅地として優れている。これらの区域では戸建持家、中高層集合住宅、定期借地権付住宅等豊富なバリエーションが可能であるが、中でも戸建住宅による「ゆとりある居住空間実現」ニーズの達成が可能となり易い。併せて都区部では余り供給が進まないファミリー向け賃貸住宅用の宅地としても強い需要がある。通常の通勤行動を行わないSOHOやテレワーク就業者は、ゆとりある居住空間の確保に関し、他に比べ強い需要を持っている。
A)解決すべき課題
ア)宅地化農地の宅地化の進展
宅地化農地の所有者が開発行為を行う際の基盤整備負担が大きいこと、保有資産に関してポートフォリオ選択が行われること等により、宅地化されるのは保有地の一部に限られることが多い。宅地化農地の多い地域における賃貸住宅に空室が発生していることが次の賃貸住宅供給を抑制する要因となり、宅地化の進展を抑えている。
イ)開発困難地の発生
宅地化農地を宅地化する場合に、開発許可を受ける必要のない規模で農地の部分的な転用をすることにより、基盤整備のない非計画的で無秩序な開発がなされることがある。こうした開発行為は、その裏側の宅地化農地を無接道の開発困難地とさせ、宅地化をより一層困難なものとしている。
ウ)SOHOやテレワーク就業者のニーズへの対応
SOHOやテレワーク等就業者の生活スタイルに対応した、情報インフラ整備の進んだ住宅地の供給が不十分である。
B)政策による支援
ア)宅地化農地の計画的宅地化
・基盤整備への支援
小規模事業の居住環境向上に資する基盤整備への支援の強化等を検討する。
・地区計画の策定と地区施設整備
地区計画の策定を促進し、地区施設整備への支援を検討する。
・計画的一体的開発の推進
宅地化農地の集約化を図り、街区単位で一体的開発を推進するため、整備プログラム等の計画策定を推進し、土地区画整理事業の積極的な活用と支援の充実を図る。また、現行法に基づく固定資産税等の軽減、住宅金融公庫融資の特例をはじめとする一体的な優遇措置を引き続き行うとともに、計画的開発にボーナスを与えるような税制・融資・補助等の制度のあり方を検討する。地権者による一体的開発の計画の提案をサポートする制度の充実等を検討する。
イ)定期借地権付住宅等の供給の促進
首都圏において、同等の敷地及び住宅床面積で、建物代は同額の定期借地権付住宅と持家の実例を比較した場合、建物代と権利金・保証金、敷金の合計ベースで、戸建では前者は後者の5分の3程度の価格、集合では同4分の3程度になっている。一定の居住水準を確保しつつ、より低廉な金額で取得できる定期借地権付住宅は、ゆとりある居住空間実現の上で効用が大きく、以下の事項をはじめとする改善、検討が必要である。
・多様な供給スキームの創設の検討
建物譲渡特約付借地権と定期借家権とを組合せた住宅の供給等を検討するとともに、法定期間の短縮とそれによる定期借地権付住宅供給の活発化との関係について基礎的な検討を行う。市場の自立的な発展を助長するため、公的機関が定期借地権付住宅等のあっせん・普及活動等を行ういわゆる定借バンクの仕組みを構築する必要がある。
・税制の特例
相続税における底地評価の見直し、定期借地権付住宅の底地に対する固定資産税の特例措置について検討する。
・共同事業の推進
定期借地権の活用による共同事業等、依然として高い地主の土地保有志向に合致した宅地開発の促進方策を検討する。
・定期借地権を活用した賃貸住宅供給
定期借家権の早期導入を促進し、また、定期借地権との組合わせによってファミリー向けの低廉で良質な賃貸住宅の供給促進を図る。
ウ)戸建賃貸住宅の供給
低層の住居系地域の宅地化農地等における良質な戸建賃貸住宅の供給を図る。
エ)新たな就業スタイルへの対応
SOHO、テレワーク等就業者の就業並びに生活スタイルに対応するため、情報インフラ整備を行い、インテリジェント化に対応した宅地供給を推進するとともに、SOHOにふさわしい、豊かな自然環境に囲まれたアメニティの高いスペースの確保を図る。
(2)アフォーダブルな住宅宅地取得等への支援
@ライフステージに応じた買替え、住替え
利便性を重視して、ライフステージに応じた居住を行うためには、住宅を取得する際に適切な選択を行うとともに、取得した後も適宜買替え、住替えを行うことが重要となる。取得、買替え、住替えを円滑に行う上で重要なのは、住居関連支出割合が低いアフォーダブルな住宅宅地取得等に関する選択肢が豊富にあることである。
住居関連支出の割合の高低は個人により異なり一律に定まるものではないが、平均的な勤労者世帯を想定した、ある仮定の下での試算では、近郊部において床面積125u、敷地面積200uの戸建の定期借地権付住宅を取得した場合、生涯収入に占める住居関連支出が2割程度で、かつ、最も住居関連支出の割合が高くなる取得当初の時期においても2割程度となっており、同一地域において同等の規模の戸建持家を取得した場合と比較してその割合が低いことが解る。
様々なニーズに応じて、定期借地権付住宅等のアフォーダブルな住宅宅地の取得、買替え、住替えを活発化させるため、市場における障害を除去することが必要である。
A解決すべき課題
住宅宅地周辺の安全性・快適性についての情報が十分に消費者に提供されていないことや、定期借地権付住宅は制度としての歴史が浅いため、市場が未だ小さく、十分な物件情報の把握自体が難しい段階にあること等による流通市場での情報提供の不十分さの問題点がまずあげられる。また、不動産売買の仲介に際し、提供されるサービスとそのための手数料が、消費者に十分説明されていない例も多い。流通税のうち登録免許税の水準は、登録サービスの対価としての面でも、資産保全のために要する経費という面でも、その検証を踏まえた適正な負担水準を検討する必要がある。
B政策による支援
@)流通市場における宅地周辺の環境等に関する情報提供の充実
住宅市場や住環境の状況に係る情報提供を先導的に図るとともに、消費者からの相談体制を整備することで市場を円滑に機能させる。
具体的には、U1(3)@B)及びC)の再掲。
A)流通費用の低減、適正化
仲介については、あらかじめ提供するサービスと手数料を十分に消費者に説明すべきである。登録免許税は手数料としての性格を重視した方向での見直しを検討する。
B)宅地の性能に関する評価手法の検討
売り手・買い手双方が納得できる、宅地についての性能の評価手法を検討する。
C)定期借地権付住宅市場における流通の促進
定期借地権付住宅の中古価格の適正評価による中古市場の育成を推進する。定期借地権の保証金の返還を確実に担保するため、地主負担により返還を保証する制度や保証金を信託して地主が運用利益のみを受け取るシステムを検討する。
(3)環境と安全性の重視
@環境と安全性の重視
環境の関心の高まりに応じた宅地供給を図るとともに、環境負荷の抑制を図る。また、造成宅地の土砂災害に対する防災性の向上等を支援する。
A解決すべき課題
@)緑地・オープンスペースの不足と環境の悪化
都区部や近郊部では、緑地や公園が不足しており、ヒートアイランドの形成、環境負荷の増大や、住環境の悪化が懸念される。近郊部の農地のうち、良好な都市環境の形成にも寄与すると考えられるものについては、その適切な保全が必要である。
郊外部では依然として林地の開発行為を伴った宅地供給が行われている場合があり、緑の減少が懸念される。また、軌道系の公共交通基盤整備が伴わない開発が進行し、車社会の形成に伴う環境負荷増大の問題が懸念される。
A)安全性・防災性の低下
都区部においては、安全性・防災性の観点から課題を有する老朽木造密集市街地や老朽化集合住宅が多数存在する他、都区部や近郊部等では、採算性から旗竿敷地の上に住宅を建設し分譲する例が見受けられ、防災性に問題がある。
平成11年6月末の梅雨前線豪雨による広島県の災害に見られるように、宅地造成地において甚大な土砂災害が発生しており、宅地開発時において安全・防災上考慮すべき点が見られる。また、軟弱な土地での宅地造成に起因すると思われる不同沈下を原因とした建築物の変状の顕在化とともに、宅地擁壁等の老朽化に伴う防災機能の低下のおそれ等も指摘されており、宅地そのものの安全・防災上、解決すべき問題点がある。
B政策による支援
@)緑地・オープンスペースの確保と環境保全
・都区部
都区部においては、既存の緑地の適切な保全を図る他、低未利用地等の積極的な活用による公園の確保を推進するとともに、市街地整備等に当たりオープンスペースを創出していくべきである。
屋上緑化や生け垣の設置、保全等に関し、促進、支援策等の充実を図ることが必要である。
・近郊部、郊外部
市街化区域内の良好な都市環境の形成に資する農地については、その緑地機能に着目し、適切な保全を行うことが必要であり集約化等による機能向上について検討する。
住と農の共存という観点から、市民農園の整備等を促進する。
生け垣の設置、保全等の促進、支援策等の充実を図ることが必要である。
宅地開発は緑地保全、環境負荷との良好なバランスを維持しつつ行う。
A)安全性・防災性の向上
・安全な宅地の供給・需要の誘導
土砂災害のおそれのある地域における住宅等の立地抑制方策等を検討する。また、地域造成された宅地が長期間、建物の構造上の機能を維持できる安全性を確保したものであることを表示する等、宅地の安全性を客観的に判断しうる情報提供の検討を行うとともに、技術的基準のあり方等について安全かつ安心できる宅地の供給誘導方策の検討を行う。なお、情報については、消費者が利用できかつ総合的に判断できることが必要であり、宅地取引時に情報提供の一環として行えるものとなるよう検討を進める。
既存擁壁の老朽度の診断、その危険度等に係る指標を明らかにするとともに、その積極的な活用等により、既存宅地の安全性の程度を把握するシステムの構築を図る。
(4)既存の宅地の有効利用
@既存宅地の有効利用
新規開発一辺倒にかえ、既成市街地内の工場跡地、市街化区域内農地、既存住宅地等の活用による宅地供給の推進と宅地の細分化防止、老朽木造密集市街地の改善等による良好な市街地形成を重視する。
A解決すべき課題
@)敷地分割や農地の無計画な転用等による宅地ストックの劣化の進行
基盤整備が伴わない無計画な開発の進行や、道路沿いに集中した住宅建設により、非接道農地が多く残る等、無秩序な街並みの住宅市街地が形成されている。
良好な宅地環境を形成するためには、市場メカニズムだけでは困難な場合もあることから、土地利用計画の策定、道路・公園等の基盤整備に関し、公的主体の果たす役割は依然大きい。また、宅地規模の確保、統一された外観の構築・維持等が必要である。しかし、政策的に誘導すべきビジョンやまちづくりの将来像が不明確であるため、街並み形成においても誘導すべき方向を見定めることが困難な状況にある。
最低敷地規模規制についても土地所有者の理解が得られない場合が多く、地区計画等による既成市街地への対応は進んでいない。既存不適格とはならないよう法的措置がなされているにもかかわらず、かなり小さめに設定される場合が多い。
また、良好な宅地環境を備えるためには、一定水準の敷地規模が必要であるが、近郊部や郊外部においては、宅地化農地を相続税を支払うために必要な限度で売却や物納が行われたり、新規宅地開発の段階で敷地が適正な規模に保たれた良好な地区環境であっても相続等により敷地分割が行われ、時間の経過とともに宅地ストックは劣化している。同時に敷地を分割し売却することで、地主の利益が敷地の一括売却よりも大きくなることがある。
A)現行制度に宅地の小規模化を促進する要素が内包
住宅宅地のうち200u以下の部分については固定資産税などの保有コスト面において有利に扱われており、敷地分割が進展している面がある。また、開発許可の対象となると、事業者側に一定の基盤整備が求められるため、基準面積未満の小規模開発を助長している側面がある。
B政策による支援
@)良好な宅地ストックの維持・形成
・まちづくりの方針の充実
良好な街並みを形成していくためには、その地区の将来像を示すマスタープランが不可欠である。住民に最も身近な市町村レベルで策定が進められている市町村マスタープランを活用し、街区の状況に応じた共同住宅化推進地区、一定規模の宅地が連なる戸建住宅の街並みを確保する地区等のまちづくりの方針の作成等により今後の街並み形成を進めていくことが必要である。
・宅地細分化の防止
良好な地区環境を保全するには、コミュニティによるまちづくりを積極的に支援するとともに、敷地規模の最低水準を維持できるような地区計画等の策定を支援することが重要である。特に新市街地や宅地開発事業による分譲住宅地区においては、地区計画・建築協定等により、良好な居住環境を維持できるようにする必要がある。
また、宅地規模拡大の促進方策等、税制、開発許可、都市計画等関連する制度のあり方から、規制、誘導方策まで効果的な対策を検討する。例えば、固定資産税、相続税等における優遇限度の200uを例えば330uに引上げ等の見直しを検討する。
A)良好な宅地環境の形成
・小規模な宅地開発事業を良質なものへ誘導
今までの大規模な宅地開発から、今後は既成市街地における小規模な宅地開発が多くなることから、関連公共施設整備促進事業等の公的補助もこのような傾向を踏まえて、面積要件等をはじめとする適用条件の見直しを行うことにより、小規模な宅地開発事業を基盤の整った良好な環境へ誘導する。
現在、容積率が100〜200%の地域では戸建住宅の方が人気があるというのが開発者の判断であり、敷地規模の小さい戸建住宅が多く供給されている。しかし、土地の有効活用や良好な宅地環境の形成を考慮すると共同化した方が望ましく、そのためにはテラスハウス等の魅力の向上等、供給促進へ向けた制度の検討が必要である。
・定期借地権の活用で広い宅地規模を実現
土地の所有より利用を重視する中で、住宅宅地に係る初期負担を軽減し、広い宅地規模を実現する定期借地権付住宅の供給を促進する。
(5)高齢社会への対応
@高齢社会
全人口の6分の1、2,000万人を超える高齢者が既にいる高齢社会に対応したコミュニティの維持・形成を図るとともに、高齢者の生活パターンに即した居住状況改善のための支援策を講じる。
A解決すべき課題
@)一斉高齢化
近郊・郊外部のニュータウンにおいては一斉高齢化が進展しており、まちの活力低下を引き起こしている。
同様に、都区部の一部地域においても高齢化問題が顕在化しつつある。特に広い敷地に1〜2人の高齢世帯が居住している例も多く、ストックのミスマッチという点でも問題が発生している。
A)高齢者の買替え等に対する意欲
高齢者は、一般的には買替えや住み慣れた家・地域を離れることを拒む意識が強い。持家以外に資産がなく年金主体の生活をしている高齢者の場合、保有する住宅を売却しようとしても、買替え、住替えに必要な追加費用負担への懸念がそれを抑止することもある。
B政策による支援
@)高齢社会に対応したコミュニティの維持・形成
・入居者の年齢階層の多様化
団地及び地域の一斉高齢化によってまちの活力が低下するのを回避するため、常に年齢階層のバランスのとれた世帯が居住しうるような住宅宅地の供給が必要であり、そのためには既存ストックの建替えを含め供給する住宅宅地についても均一的なものではなく、様々な年齢階層が入居可能となる宅地供給上の配慮が必要である。
・面的なバリアフリー化
高齢者にやさしい生活空間については住宅単体における対策に加えて、まちづくりの観点から面的なバリアフリー化を検討するとともに、子供の遊び場の確保等生活機能を充実することが必要であり、これらにより、誰もが住みやすい住宅宅地を目指す。
・学校用地等の活用
少子化による児童の減少で廃校になる学校用地等の福祉施設等への円滑な更新が可能となるような仕組みについて検討する。
A)高齢者の生活パターンに即した居住条件改善のための支援
・老後の生活資金確保
一時的に資金が必要となった者のために、住宅宅地を一時的に買い上げ、賃貸住宅として居住させる「リースバック方式」の検討を行うとともに、リバースモーゲージの一層の普及促進策を検討し、公的主体が預かる定期借地権の保証金を担保にしたリバースモーゲージを進める。
(6)地方部における宅地供給
@地方部における宅地供給
この章の地方部とは、三大都市圏以外の人口5〜30万人程度の都市を指すが、そこでは、住宅宅地の規模や自然環境は比較的良好な状態にある。大都市圏ほど宅地需給は逼迫しておらず、住宅宅地価格も高くはないが、中心市街地の衰退や宅地需要の減退等の課題が発生している。「(3)環境と安全性の重視」はここでも当てはまる課題である。
A解決すべき課題
@)まちの顔である中心市街地の衰退
地方都市の中心市街地は郊外部と比して高い地価がネックとなって、新規に進出する企業、産業が少なく、商業施設が郊外のロードサイドに進出することに伴う空き店舗等の発生により商業機能の低下、空洞化の危機に直面している。大都市圏よりはるかに通勤事情が良いため郊外部での宅地開発、住宅建設が盛んであり、従来中心部に住んでいた人も転出する傾向が強いことも、これを助長している。高齢者が中心部に取り残されるという傾向も見られる。
中心市街地でこうした問題に対処しようとしても、敷地が狭小で複雑な権利関係が存在するため、土地利用の再編、流動化、高度利用の促進が難しく、公共公益施設等の不足やにぎわいの喪失等も問題となっている。
A)宅地需要の減退による計画的開発の衰退
地方都市にゆとりを求めて来るUJIターン希望者等が定住できる環境の整備を進めることは必要であるが、今後は地方都市が急激に肥大化することは考えにくい。大都市圏に比べ地方都市では早くに人口・世帯数のピークが来るが、人口・世帯数が増加しない場合でも、宅地需要は一定程度発生する。しかし、その場合、計画的開発が行われにくくなる可能性があることが懸念される。
B政策による支援
@)中心市街地活性化
ア)宅地供給を含むまちづくりの計画に沿ってバランスの取れた整備を行うことが重要であり、これらの整備に対する再開発の促進、特定優良賃貸住宅等の住宅供給の促進、公的主体を活用したまちづくり等多様なメニュー方式による支援を検討する。
イ)定期借地権制度等の活用
空家、空室、空き店舗及び空地の有効活用を図るために、定期借家権の早期導入の促進を図り、定期借地権制度の活用を行う。
A)自然環境等と調和した宅地供給の実現
地方分権の本旨に則して、各自治体が宅地需給バランスについて判断した上で、地域の特性に応じた宅地供給を誘導することが求められる。地方都市では、中心市街地からすぐ近いところで農地等が広がっている。こういう中でスプロール化、中心市街地の空洞化を抑えつつ、地域の特色を活かし、農村環境、自然環境との調和のとれたまちづくりにつながる住宅宅地供給を推進するため、公的融資等の拡充等の支援制度の強化を行う。
UJIターンの支援メニューの多様化を図るために、営農に従事できるような仕組みの検討や、優良田園住宅の一層の普及を図る。
住宅に限らず事業用借地権を利用して利便施設の供給を促進するとともに、売り上げ連動型の地代の仕組みの検討を行う。
(7)宅地政策における税制のあり方
@我が国土地税制の経緯と現状
我が国経済社会は、戦後の高度成長と都市への人口集中が続いた時代から、本格的な少子・高齢化を背景とした安定成長時代へと移行しており、それに伴って、地価についても、これまで続いた恒常的な上昇の時代から、右肩上がりが常態でない時代へと移行している。また、経済は一層グローバル化し、もはや国境の垣根が認識しがたい分野も出現している。
このような社会システムの根本的な転換の中で、これまで述べてきたように、宅地政策やそれを取り巻く諸制度は大きな変革を求められているが、土地税制もその例外ではない。戦後の高度成長とともにあった土地税制が、ポストバブル期の安定経済の中でいかなる姿であるべきか。そのあり方の再検討が、今求められていると言えよう。
A今後の土地税制のあり方
宅地政策に関しては、住宅宅地供給に直接関わる種々の税制措置が講じられてきている。しかしながら、今後の宅地供給が消費者志向型の供給とストックの有効活用に重点を移行していく中で、これらの税制のあり方について新たな視点に立って見直しを進める必要が生じている。
また、バブル後の地価下落と長期にわたる景気低迷の中で、土地の流動化がより重要な課題としてクローズアップされるなど、保有課税や流通課税等の資産課税全体のあり方が、宅地政策と深くかつ複雑な関わりを持つに至っている。こうした観点から、土地に係る一般的な資産課税制度についても、新たな視点に立った見直しが要請されている状況にある。
以下では、住宅宅地供給に直接関わる税制のあり方と、宅地政策との関連で見た資産課税のあり方の二つの面から、今後の土地税制のあり方を展望してみることとする。
@)住宅宅地供給に直接関わる税制のあり方
まず、住宅宅地供給と直接関わる税制については、戦後の高度成長期以来の大都市への人口集中等に対応して、基本的に住宅宅地の大量供給を支援するものとして構築されてきた。しかし、消費者ニーズへの対応、ストックの有効活用といった上述の宅地供給をめぐる環境の変化を踏まえれば、こうした転換を踏まえて、そのあり方の見直しの検討を以下のような視点から進めていく必要がある。
第一に、郊外から近郊或いはさらに都心近くへと宅地供給エリアがシフトすることに伴い、開発規模が従前よりも小さくなることが十分考えられることから、特に各種措置の規模要件の緩和を進めていく必要がある。
第二に、もはや地価の恒常的な右肩上がりが考えにくいポストバブルの時代にあっては、これまでのように開発に伴うリスクをキャピタルゲインで吸収することは期待しづらくなっている。したがって開発期間中の諸コストを軽減するための保有税等についての措置が従来以上に必要になる。
第三に、ストックの有効活用の観点からは、完成したストックを良好な状態で維持することも重要であり、敷地細分化を未然に防止するための措置等についても検討が必要である。
なお、特に住宅宅地関係の政策税制については、税制度上は特例措置でありながら、事実上恒久化されているものも多く、特例自体も極めて複雑化しており、税本来の簡素の原則からもそのあり方を見直すべきものもあると考えられる。
A)宅地政策との関連で見た資産課税のあり方
次に、固定資産税等の保有課税や各種の流通課税等の資産課税全体のあり方については、租税制度全般や社会経済状況等を見通した総合的な議論が必要であることは言うまでもない。しかしながら、先に述べたように宅地政策が資産課税全体のあり方と深い関係を有するに至った現状においては、土地政策の観点からどのような税制が望ましいかについて検討し、議論を深めていく必要があるものと考える。検討の方向としては、次のようなものが考えられる。
第一に、保有課税については、地価が下落する中で国民や企業の負担感が重くなっているが、土地保有税が土地の利用にとって過大な負担とならないよう、適正な税負担のあり方を検討していく必要がある。特に、保有課税の大宗を占める固定資産税については、地方公共団体のいわゆる対人社会サービス(福祉、教育等の必ずしも土地に便益が帰属しない行政サービス)に係る税負担のあり方という観点にも配慮して検討を進める必要がある。また、こうした検討に当たっては、固定資産税が土地の処分ではなく、保有の継続を前提としたものであることに留意して、課税標準である適正な時価についての考え方を整理することも重要である。
その他の保有税についても、現在はそれぞれ創設時の社会的な状況と比べて相当な環境の変化があり、そのあり方について総合的な観点から見直しを図るべきである。
第二に、流通課税についても、上に述べたポストバブルの社会経済の構造変革の中で、抜本的な再構築を行う必要がある。
具体的には、資産課税としての課税の根拠にまでさかのぼって、そのあり方を考えていくことはもとより、ボーダーレス化する経済の中で国際的に見ても高い我が国の流通税負担をどうしていくか、また、宅地政策の重点が既存ストックの有効活用やライフスタイルに応じたアフォーダビリティの実現にシフトする中で、より円滑な流通を促進するためにはどうすれば良いか、という観点からの検討が必要である。
3.新たな住宅宅地政策を支える公民の役割分担
(1)基本的考え方
21世紀の豊かな居住は、市場における
・自由な競争に基づく適正な価格の良質な住宅宅地の供給
・十分な情報に基づく自立した個人の選択
により実現されることが基本である。
このため、公の役割は、制度インフラの整備や適切な土地利用計画の策定、公共財の提供等の市場が適正に機能するための環境整備、外部性の存在等の市場の失敗が存在する分野、将来の経済社会の姿を見据えて早急な整備が必要な分野に関する市場の誘導、民間賃貸住宅等においては適正な水準の住宅の確保が困難な低所得者、高齢者等に対するセーフティネットの整備等の市場の補完に限定していくことが必要である。
また、公の役割の発揮に当たっては、地方公共団体等地域の住民に密着した行政活動を行う機関が主体的、自立的な役割を発揮することが重要であり、今後の住宅宅地政策の展開に当たっては、地方公共団体が自らのビジョンに基づき、地域の実状を反映した施策展開を行いうる環境整備を図ることが必要である。
以上のように、市場機能、地方の独自性、自主性を最大限活かすという観点から公民の役割分担を再構成することによって、「新たな居住の姿」「新たな産業活動」等を自律的に生み出す創造的システムの構築を目指す必要がある。
(2)公的主体の役割の考え方
国民の多様な居住ニーズに効率的に応えていくためには、市場の活用を住宅政策の基本とし、その際の公的主体の役割は、下記の観点に限定することが必要である。
@市場の環境整備(基盤整備と制度的枠組みの整備)
A市場の誘導(適正な資源配分の実現)
B市場の補完(社会的弱者に対するセーフティーネットの整備)
@市場の環境整備
自由な競争より適切な価格で供給される良質な住宅の多様な選択肢の中から、自立した個人が十分な情報に基づいて、自己のライフスタイル、ライフサイクルに合致した適切な居住を選択できることを確保するために、住宅市場が円滑かつ適切に機能するための各種条件の整備を図る。
このため、公共が行うべきことは、民間では供給できない公共施設整備、住宅市街地の安全性を確保するためのまちづくり等の基盤整備に対する政策資源の重点配分であり、また、個人や民間事業者が市場で行動する際の前提となる制度的な枠組み(制度インフラ)の整備である。
制度インフラは、市場の枠組みとなる基本的かつ普遍的な制度であって、例えば都市計画・建築規制制度、借地借家制度、消費者保護等市場における取引を支える制度の他、税制、消費者、供給者が主体的に判断できる的確な情報の提供・流通のためのシステムの確立、適正な契約ルールの普及、相談体制の整備などを含むものである。制度インフラの整備に当たっては、中古市場の市場環境整備等適正な市場機能を発揮するための新たなルール、システムを創り上げていくという視点とともに、現行借地借家法の正当事由制度等により市場に歪みをもたらしている制度を中立的なものへと改善していくという視点が重要である。
A市場の誘導
市場の環境整備を行った上でも、なお、市場に委ねただけでは適切な供給がなされないと考えられる、
・住宅の耐震性、耐久性の確保、住宅宅地の省エネ性、環境に対する配慮、良好な居住環境の確保等外部性が存在する分野
・高齢者向け住宅、ファミリー向けの良質な賃貸住宅等極めて少量しか供給されていないため、経済社会の変化を踏まえて、早急な整備を各種政策誘導策によって図る必要がある分野
については、下記のような対応によって、公共が市場を大きくゆがめないよう留意しつつ、市場の誘導を行うべきである。
・中長期的な視点に立った各種政策実施プログラムと、それによって目指すべき住宅ストック、居住水準等のビジョンの提示
・財政、税制、金融上の住宅宅地に対する各種支援措置、政策的ガイドラインの設定、リーディングプロジェクトの実施等
B市場の補完
上記の市場の環境整備、市場の誘導の政策努力を通じて、市場においてできるだけ多くの国民が良質な住宅を確保できるようにすることと併せて、高齢者、障害者等市場において自力では必要な住宅サービスを確保できない者に対してはセーフティネットの観点から公的賃貸住宅制度の充実を中心に、より的確な供給を行う必要がある。
その際、高齢者に対しては、必要な床面積、設備、機能を備えた住宅を供給するのみならず、身体機能の低下に対応するため、生活援助員の配置等必要なサービスの提供を行うなど特段の措置を講ずることが重要である。
また、民間賃貸住宅の貸主側の様々な不安を背景に、高齢者に対する賃貸住宅の供給が妨げられているという実態が存在するため、貸主の不安を軽減するためのシステム等高齢者居住を安定化するための特別の環境整備を図る必要がある。
さらに、大都市圏の広域的な地域を対象とした良好な居住環境整備等社会的要請の高い事業についての積極的な参画が必要である。
(3)地方の独自性、自主性の発揮
上記の考え方に沿って公共側が適切な機能を担うに当たっては、地方公共団体等地域の実状に通じた機関が、その状況を反映した独自のビジョンに基づいて主体的、自立的な役割を発揮することが最も重要である。特に今後、福祉、まちづくり等の分野と住宅宅地政策との連携が求められることを勘案すれば、総合的な行政主体としての地方公共団体の役割は増大するものと考えられる。
このため、国は、
・経済社会の状況を踏まえた全国的、広域的計画の策定
・市場のルールづくり
・市場誘導、補完のための財政、税制、融資制度の構築
・都市基盤整備(資金、技術面等から国の支援が必要なもの)
・新技術の開発、先進的事業の実施
という面で機能を発揮すべきであり、地方公共団体は、
・地域の独自の実状を反映したビジョン、計画の策定
・公的賃貸住宅の供給等市場の誘導、補完のための施策の実施
・地域の実状を踏まえた独自の住宅宅地政策の展開(独自の融資制度、補助制度 等)
・住環境整備
等においてその機能を発揮すべきである。
特に地方公共団体が主体的な役割を発揮するに当たっては、独自のビジョンを持つことが重要であり、地域の住宅事情等に係る現状の分析、住宅宅地対策の基本的方向、地域特性に応じた具体的施策の展開方針等からなる住宅マスタープラン等を活用することが必要である。また、例えば、まちづくりと密接に関わる開発許可制度について、開発許可に係る事務が地方公共団体の自治事務になることやまちづくりに対する考え方が多様化していること等を踏まえ、地域特性を反映し、地域の実情に応じて必要かつ十分な開発規制を行うことが可能となるような制度にすることが必要である。
(4)総合的な行政領域における政策展開
市場の機能の十全な発揮、地方公共団体の役割重視に加えて、今後の住宅宅地政策の展開に当たっては、在宅介護をにらんだ住宅宅地政策と福祉政策との連携、情報通信技術と住宅関連技術の連携等総合的な行政領域における展開を図ることが重要である。
これらの住宅宅地政策の新たな展開が、地域の実状を踏まえた「新たな居住像」の提案、賃貸住宅管理業と介護サービス業が融合した新たなビジネスの展開等「新たな産業活動」の創出を自立的にもたらし、21世紀の我が国経済、国民生活の新たな展開を支えるシステムとなることが期待される。
(5)住宅宅地政策を担う多様な主体等
現在の住宅政策は、国、地方公共団体のみならず、住宅金融公庫、住宅・都市整備公団、地方住宅供給公社等多様な主体が担ってきている。これらの主体については、住宅宅地政策の新たな展開方向、行政改革、財政投融資改革を踏まえた改革を実施することが求められている。また、住民に密着したきめの細かい住宅宅地政策の展開を図るためには、NPO等新たな住宅宅地施策の担い手を育成、連携することが重要である。
以上のような、多様な主体によって担われる住宅政策の整合性、効率性を確保するためには、国、地方公共団体、その他の様々な主体間の協調体制を作り上げていく必要がある。
@住宅金融公庫改革の必要性
住宅金融公庫融資は、居住水準の向上等の住宅政策の目標実現に多大に寄与し、多くの国民にとって不可欠なものとなっている現状を考慮すれば、わが国の住宅政策において引き続き重要な役割を担っていくべきと考えられる。同時に、国民に対して多様な住宅金融サービスを提供するため、民間住宅ローンの発達を促進することも重要な政策課題と考えられる。
このため、公庫融資について、良質なストック形成、都市の居住環境整備等への対象分野や支援の重点化、併せ貸し促進のための融資額の縮減など民間住宅融資との協調体制の確立に向けて不断の見直しを行うとともに、財政投融資改革の進捗状況に応じて資金面でも金融市場との連携強化を図るべきである。また、民間住宅ローンの債務保証やリファイナンスに関しても、今後の重要課題として、住宅融資保険の改善や住宅金融公庫による民間住宅ローンの証券化の支援方策等を検討すべきである。
@)民間住宅融資との協調
政策金融について民業補完の徹底が求められている中で、公庫融資については、政策誘導の充実を図るとともに、経済政策上必要な際に住宅投資促進のための措置を機動的に実施できるように留意しつつ、民間住宅融資との協調を図っていく必要がある。
ア)併せ貸しの促進
民間住宅融資との協調のみならず、民間住宅融資を引き出す観点からも、公庫融資と民間融資との併せ貸しを促進すべきであり、中低所得者の住宅取得に支障のない範囲での公庫融資額の縮小、民間住宅融資との選択性が生ずるような特別割増融資の金利設定等を検討すべきである。
イ)民間住宅金融の円滑化の方策
今後民間住宅ローンとの協調の観点から公庫融資額の段階的縮減を図り、併せ貸しを促進する場合において、民間住宅ローンにより、縮減部分が適切にカバーされるようにするため、住宅融資保険について保険財政の健全性に配慮しつつ、民間金融機関にとって利用しやすい制度に改善することを総合的に検討する必要がある。
ウ)民間住宅ローンの証券化の支援
社債発行が困難な中小の金融機関にとっては、住宅ローン債権の証券化は長期資金の調達手段として有用性が高いと考えられるが、一つ一つの金融機関ではロットが小さいので住宅ローンの規格や保証機関を統一し、複数機関の住宅ローンを束ねて証券化できるようにすることが望ましい。こうした観点からの住宅融資保険の活用も今後の検討課題と考えられる。また今後公庫が自らのローンの証券化を通じてノウハウを蓄積して、それを活かして、民間住宅ローンの証券化債権の元利金の期日通りの支払い保証を行うことも将来の検討課題と考えられる。
A)ALMの徹底
住宅金融公庫の調達・運用の期間のミスマッチを少なくすることにより、できるだけ少ない補給金で安定的に長期固定の住宅ローンを供給するため、ALM(資産・負債管理)の徹底を図る必要がある。
B)資金調達の多様化
現在公庫は、資金調達の大宗を資金運用部からの借入れとしているが、その償還条件は23年元金均等償還に限定されており、繰上償還により変化する貸付金の償還期間との調整ができない状況にある。このため資金調達の多様化が必要不可欠である。しかし、その場合においても、長期固定の住宅ローンである公庫融資の原資としては、長期固定資金が中心となり、その安定的かつ低利の調達が不可欠である。財投改革の具体的な姿は明らかになっていないが、金融市場の現状等を踏まえれば、少なくとも当面は、政府信用を活用した安定低利資金が確保できる政府からの借入れを引き続き公庫の資金調達の中心とすべきである。その上で、多様な期間の資金調達の手段として補完的に政府保証債の発行や住宅ローン債権の証券化を金融情勢に応じて適切に併用できるようにすべきである。
C)公庫の住宅ローン債権の証券化
公庫債権の証券化については、資金調達の多様化の一手段として有用であるほか、
ア)証券化を通じ、金利変動や償還状況(繰上償還)の予測について市場の情報が得られ、ALM上の指標として利用していくことができる。
イ)証券化により、当該住宅ローンに関して将来生ずると考えられる財政負担が明確化され、政策効果との比較が容易となる。
等の意義があり、公庫住宅ローン債権の証券化を実施する必要がある。
なお、証券化に当たっては、公庫債権の繰上償還に関するデータ開示や証券化対象債権の抽出・管理のための新たなシステム開発、格付けの取得等を行う必要があるが、これらの準備には相当の期間を要すると見込まれるため、公庫において鋭意作業を進めるべきである。
我が国においては資産担保証券の市場が未成熟であることから、証券化による公庫の資金調達量は当面限定的にならざるを得ず、今後市場の成熟に向けて、公庫による定期的な証券発行と並行して、資産担保証券の市場整備に関する制度インフラの一層の充実や機関投資家を中心とする市場の受け入れ体制の整備が必要であると考えられる。
A都市基盤整備公団の活用
住宅・都市整備公団は、「特殊法人等の整理合理化について」(平成9年6月閣議決定)に基づき廃止され、新たに都市基盤整備公団が設立されることとされたところである。新公団の業務については、
・市街地整備改善業務については、公共施設の整備や土地の整序を伴う敷地の整備や宅地の造成を推進。建築物の整備は、基本的に民間の建築活動に委ねる
・民間による供給が見込まれる分譲住宅業務については、再開発等に伴い必要なものを除き撤退
・新規の賃貸住宅業務については、
@)民間による十分な供給が困難な都心居住住宅
A)再開発の一環として供給される住宅
B)地方公共団体との連携による建替事業で供給される住宅 等
政策的なものに限定する
こととされており、この改革の趣旨を適切に活かしつつ、市街地の整備改善並びに賃貸住宅の供給及び管理に関する業務を着実に実施することが必要である。
また、新公団には大都市圏等の再編整備に向けた広域的政策を推進する役割、健全な住宅宅地市場を整備する先導役としての役割、その他国家的見地から必要な政策の実現、保有する経験・ノウハウを活かしての住民や地方公共団体への支援の役割が求められており、これらの広範な業務の実施に当たっては、採算性の確保に配意して効率的執行を旨とするとともに、地方公共団体との適切な役割分担等を行う。
B今後の地方住宅供給公社業務の展開
地方住宅供給公社はこれまで、地域の住宅政策の実施機関として、地域の実情に応じた中堅所得者向けの良質な住宅宅地の供給を行い、地域のすまいづくり、まちづくりに大きな役割を果たしてきた。
地方住宅供給公社は、高齢者向け住宅、良質なファミリー向け賃貸住宅、過疎地域中山間地域等における人口定住化に資する住宅等、市場に委ねただけでは適切に供給されない住宅の供給を促進するとともに、今後住宅政策の重点が既成市街地、既存住宅ストックの再生に置かれることから、
・阪神大震災時の倒壊マンションの建替えに際して、地方住宅供給公社が地域の実状を踏まえた専門的ノウハウを有する公共的組織として大きな役割を果たしたことから、今後増加することが予想されるマンションの建替えについて、地方住宅供給公社の積極的活用を検討すべきである。
・密集市街地の整備や中心市街地の活性化等まちづくりと連動した面的住宅整備促進するため、地域に密着した地方住宅供給公社の積極的活用を検討すべきである。
・公営住宅の管理戸数の少ない市町村においては、ストックの改善、更新に係るノウハウ、体制等が必ずしも十分ではないことから、地方住宅供給公社等を活用した支援体制の整備等を検討すべきである。
CNPOとの連携
今後国民の様々なニーズに応じた多様な住宅を供給し、市街地再開発のような大規模な住宅市街地の再生のみならず、修復型の居住地再生を図っていくためには、住民自ら又は住民と建築、法律、金融等様々な専門家が参画したNPOによる住宅の供給、まちづくりを推進していく必要がある。特に、零細な地権者等が多く、権利関係も錯綜している市街地においては、長期にねばり強く地権者等の立場に立って働きかけることが合意形成には不可欠である。NPOは一般的に、地域の情報に詳しいことからそのニーズに柔軟に対応でき、コミュニティの支持を得やすいことが指摘されている。また、長期にわたる事業等への関与、継続的活動を特長とするのが普通である。実際に、海外ではコミュニティ再生のための計画立案、民間デベロッパーが手がけない衰退地域の非市場ベースの良質な住宅宅地の供給・改善・保全の事業等を実施したり、街並みの段階的な改善・更新や宅地周辺の緑地・オープンスペース等の管理等の地域密着型の活動を行っている。今後の住宅宅地政策の展開に当たっては、こうした主体としてのNPOとの連携も期待されるため、NPOを住宅宅地施策を担う新たな主体として積極的に位置付け、その支援策について検討を行っていく必要がある。
D宅地政策における公民のルールづくり等
これまでの宅地開発事業には高コスト構造が内在しており、それを是正するために以下の点に関する公民のルールづくりの検討・提唱が公的部門に求められる。
@)事業期間の短縮と金利負担の軽減
行政手続の迅速化、簡略化の徹底や、宅地造成に対する公的機関による低利融資制度の拡充等により、事業スピードの向上と資金調達コストの低減を図る。
A)国と地方公共団体の役割分担の見直し
国と地方公共団体の適切な役割分担の観点から、それぞれが推進すべき施策について見直しをする。
B)公共公益施設整備費負担の見直し
地方公共団体の指導要綱等の行き過ぎの是正の徹底、関連公共施設整備促進事業等を拡充させるとともに、計画的開発への誘導等を図る。
開発者負担、関連公共施設整備促進事業等の制度については、宅地の需給緩和、経済の低成長という構造的変化に対応し、小規模な公共施設の整備費に関する事業者と公との負担の見直しも含め基本的な制度のあり方を検討する。