建設省住政発第62号
平成10年9月28日

 住宅宅地審議会
  会 長  大賀 典雄   殿

建設大臣  関谷 勝嗣        

 

住宅宅地審議会に対する諮問について


「21世紀の豊かな生活を支える住宅・宅地政策はいかにあるべきか」(諮問)

趣旨説明

  1.  第七期住宅建設五箇年計画が平成12年度をもって終了することに鑑み、豊かな生活を支える良好なストックを形成する新たな計画の策定に当たって、以下に述べる理由から、住宅・宅地政策の基本的体系のあり方について検討を行う必要があり、諮問するものである。
  2.  我が国の住宅事情は、量的には充足されたというものの、「豊かな生活」を求めて高度化・多様化した、住宅、街並み・コミュニティを含めた居住環境に対する国民のニーズや社会の要請に合致した良質な住宅ストックは依然として不十分な状況にある。
     一方、住宅・宅地政策を取り巻く状況は、経済の右肩上がりから安定成長への移行、人口減少社会の到来、少子・高齢化の一層の進行、環境問題の重要性の増加等大きな変化に直面している。
  3.  また、現在、経済の先行不透明感や閉塞感による将来への不安が国民の間に拡がっており、このことが個人の経済活動の目標を喪失させ、その結果、経済社会全体が一層沈滞するという悪循環を生むことも懸念されている。
     これに対して、良質な住宅ストック、居住スペースの拡大等魅力ある居住空間の形成は、それ自体が国民にとって一つの大きな目標であることから、単に住宅関連投資の拡大のみならず、その達成に向けた国民の活動により、経済社会全般の活性化をもたらすことが期待される。
  4.  このような我が国の状況を踏まえ、国民の多様なニーズに応じて、それぞれの満足する住宅サービスを市場を活用して効率的に供給するための住宅・宅地政策はいかにあるべきかを検討する必要がある。
     この場合において、中期的な視点から、21世紀の安定、成熟した社会において、従来のような高い経済成長が必ずしも期待できない中、国民の「豊かな生活像」の把握を行うとともに、国民生活の向上に対して住宅・宅地が果たすべき役割について再検討を行い、その実現のために住宅・宅地政策が掲げるべき目標、理念、基本的体系の再構築を進めることが求められている。
     このような基本的認識に立った上で、以下の具体的課題について、国民の意見を広く踏まえつつ検討を行う必要がある。
  5. (1)豊かな生活を支えるゆとりある居住空間の創造

     @良好な環境、快適なサービスを備えた良質な住宅・宅地、居住環境のあり方

       21世紀初頭における少子・高齢化の一層の進行、人口減少社会の到来を目前にして、現在のうちに、「快適で安全・安心なゆとりある生活」を支える、良好な環境、快適なサービスを備えた良質な住宅・宅地、居住環境を形成することが求められている。
       このため、21世紀の豊かな生活像と多様な家族の姿を踏まえて、国民の居住水準の向上を図るための新たな目標の検討を行うとともに、地球環境問題の顕在化や地域の特性を踏まえ、環境に負荷をかけず、まちづくりにも調和した住宅・宅地、居住環境のあり方について検討を行う必要がある。

     A大都市圏における良好な住宅・宅地、居住環境の創出

       我が国の居住水準は、全体として向上しつつあるものの、規模等の面において、大都市圏の借家を中心に依然として著しく立ち後れている。
       また、良質な住宅・宅地、居住環境を形成する上で、工場跡地等の低未利用地や密集市街地の存在、市街化区域内農地の無秩序な宅地化などの課題があり、安全性、利便性、快適性や住宅の立地構造等の視点からも大きな問題を抱えている。
       このため、21世紀の豊かな都市居住像を踏まえた、大都市圏既成市街地における居住地の再生、都市の実状に応じた借家対策の推進等について検討を行う必要がある。

     B地域活性化に資する住宅・宅地、居住環境の整備

       近年、都市居住者のUJIターン志向が高まるなど地方定住が進んでいるが、各地域においては、それぞれの地域特性に即した住宅・宅地政策を展開し、定住人口の確保、地域の活性化を図っていく必要がある。
       このため、地域の特性を踏まえ、地方定住、中心市街地の活性化、田園居住等による居住システムにおける地域間交流等を促進し、活力に富んだ21世紀における豊かな地域の生活像を実現する住宅・居住環境整備のあり方について検討を行う必要がある。

    (2)公民の適切な役割分担による市場を活用した居住水準の向上

     @多様な選択肢を提供する住宅・宅地市場の構築

       経済の右肩上がりから安定成長への移行を受けて、高い地価上昇率と所得の向上を背景とした、従来のような「新規の住宅・宅地の取得」のみに重点を置いた居住水準の向上は限界に達している。今後は、「良質なストック形成、維持・管理、流動化」を一体的に実現する幅・厚みのある市場の構築を通じ、国民各層のライフステージ・ライフスタイルに応じた住宅・宅地の多様な選択肢の中からの柔軟な選択によって「豊かな生活」の実現を目指す必要がある。
       このため、公正、透明で効率的な市場の構築をめざして、定期借地権の普及・促進等制度インフラ整備などによる「市場の条件整備」、金融、税制などによる「市場の誘導」及び社会的弱者に対する公的住宅供給などによる「市場の補強・補完」の具体的方策や、リフォーム、中古、賃貸住宅市場などの活性化、住宅サービスに関わる他の市場との連携を推進する方策を検討する必要がある。

     A住宅・宅地供給を担う主体の適切な役割分担

       現在の住宅・宅地の整備状況、家計・民間部門をめぐる経済環境、地方分権、行政改革等を受けて、国、地方公共団体、公団、公庫、公社等住宅・宅地供給を担う公的主体の役割分担及び連携強化、NPOを含む民間部門との新たなパートナーシップの確立方策を検討する必要がある。

    5. 以上のことから、21世紀の豊かな生活を実現するための住宅・宅地政策を構築すべく、審議会に諮問するものである。


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