□定期借家権に関するQ&A□(PART2)
平成12年3月作成
(契約段階:事前説明)
Q1 定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明は、契約を結ぶ直前に行ってもかまいませんか。
A 法律では「あらかじめ」とされているだけですから、賃借人になろうとする方に対して書面を交付して説明するのであれば、契約締結の直前であってもかまいません。
Q2 定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明は、賃貸人から委任を受けた代理人が行ってもよいのですか。
A 代理人が行うことも可能です。
(契約段階:重要事項説明)
Q1 賃貸人の仲介をしている宅地建物取引業者が、「重要事項説明」として、「定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」と同様の説明を行った場合は、賃貸人から賃借人への説明が行われたことになるのですか。
A 「重要事項説明」は仲介者としての宅地建物取引業者が行うものですが、これに対して、「定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」は賃貸人自らが行うものですので、それぞれ説明すべき方が異なります。したがって、「重要事項説明」を行っただけでは、「定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」をしたことにはなりません。
なお、仲介者が賃貸人の代理人として「定期借家契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」をする権限を有する場合でも、宅地建物取引業者として行う「重要事項説明」とは説明すべき方が異なることに変わりはありませんから、仲介者は、それぞれの立場で、それぞれの説明を行う必要があります。
(契約段階:契約書)
Q1 現在市販されている従来型の「賃貸借契約書」に、特約事項として、「期間の満了により、契約の更新がなく、借家契約は終了する」旨を記載した場合、定期借家契約の契約書として有効ですか。
A 現在、一般に市販されている従来型の契約書では、契約の更新を前提とした条項などが記載されていますので、単純に「期間の満了により、契約の更新がなく、借家契約は終了する」旨を記載するだけでは、契約書全体としては矛盾が生じ、場合によっては定期借家契約としては無効とされる可能性もあります。
したがって、契約書を作成する際には、建設省作成の「定期賃貸住宅標準契約書」に沿った契約書とすることをお勧めします。
(中途解約)
Q1 法律上の中途解約の申入れができる「その他のやむを得ない事情」とは、どういう意味ですか。
A 「その他のやむを得ない事情」とは、
@契約を結ぶときにおいて、
A「将来のある時期にその事情が生じること」を的確に予測して契約期間を定めることを賃借人に期待することが困難又は不可能な事情であって、
Bその事情の発生により賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となるようなもの
を意味すると解されています。
Q2 次のような事情は、法律上の中途解約の申入れができる「その他のやむを得ない事情」として認められますか。
@夫婦に子供が産まれ、住宅が手狭になった場合
A子供が成長し、住宅が手狭になった場合
A 「その他のやむを得ない事情」とは、Q1のとおりですが、例示の@またはAの事情については、賃借人において予測が困難又は不可能な事情とは必ずしも言えないのではないかと思われます。しかし、個別のケースによっては、判断が異なる場合もあると考えられます。
Q3 「やむを得ない事情以外の事情でも、賃借人は中途解約の申入れをすることができる」旨の特約をした場合、申入れから解約までの期間を3か月とすることはできますか。
A 借地借家法では、定期借家契約の場合で、やむを得ない事情があるなどの一定の要件に該当するときにだけ賃借人からの中途解約権を認めていますが、「やむを得ない事情以外の事情でも、賃借人は中途解約の申入れをすることができる」旨の特約をすることは、賃借人にとって不利益となる内容ではありませんから、可能です。この場合、申入れから解約までの期間を3か月としても、もともと法律で定められている内容ではありませんから、有効となります。
なお、設問のような特約をした場合でも、法律で規定される一定の要件に該当する場合は、1か月前に申入れをすることにより中途解約ができますので、注意が必要です。
Q4 居住用の建物については、賃借人からの中途解約が法律で認められていますが、「賃借人から中途解約をする場合は、損害金のようなものを支払わせることができる」旨の特約をすることはできますか。
A 借地借家法第38条第5項において認められている賃借人からの中途解約権の行使に対して、賃貸人が損害金などの支払いを請求し得るとする特約は、法律上無効であると思われます。
同項で、一定の要件に該当する場合の賃借人の中途解約権が認められている以上、賃借人の中途解約権の行使は適法であるわけですから、損害賠償などを発生させるようなものではありません。
同項は、1か月間の猶予期間をおけば中途解約できることを認めており、この負担を重くするような特約(3か月分の賃料を支払うこと、1か月の猶予期間以外に金銭の支払いを求めることなど)は、賃借人にとって不利なものとなりますので、同条第6項により無効となると思われます。
Q5 法律上、中途解約の申入れができるのは、200平方メートル未満の居住用の建物とされていますが、その床面積は、壁芯面積で判定するのですか、それとも内法面積で判定するのですか。
A 壁芯面積で判定するのが相当であると考えられます。
Q6 生活の本拠として使用している店舗併用住宅の中途解約について、面積はどのように計測すればよいですか。居住部分のみの面積が200平方メートル未満ということですか、それとも、店舗併用住宅全体としての面積が200平方メートル未満ということですか。
A 契約内容、利用実態などにより異なる場合がありますが、基本的には、店舗併用住宅全体としての面積によると考えられます。
Q7 リロケーション会社が、業として、各室の床面積がいずれも200平方メートル未満の賃貸アパート1棟を定期借家契約により賃借した場合、法律で定めた一定の要件に該当すれば、中途解約の申入れをすることはできますか。
また、契約を各室ごとに結んでいる場合は、どうですか。
A リロケーション会社は、賃借したアパートを自己の居住の用に供するわけではなく、これを一般の個人の方などに居住用として転貸することを目的に賃借しているものであって、あくまでも事業用として賃借しているものであると考えられます。
したがって、リロケーション会社に法律上の中途解約権を認めることはできないと考えられます。
(経過措置)
Q1 賃貸人に、「2000年3月1日から法律が変わるので、次の契約の更新時には出ていって欲しい」と言われていますが、出ていかなければならないのでしょうか。
A 従来から結ばれている契約については、そのまま有効です。したがって、賃貸人に正当事由がない限り、契約は更新されることになります。
Q2 2000年3月1日より前に結ばれた居住用の建物の借家契約について、2000年3月1日以後の更新の際、賃貸人が定期借家契約の締結を申し入れ、法律上は切替えができないことを知らなかった賃借人がこの申入れに応じ、合意の上契約を解約した場合で、後日賃借人が切替えができないことを知り、従来の契約の更新を請求したときは、法的にどのような取扱いになるのですか。
A 居住用の建物について、2000年3月1日より前に借家契約を結んでいる方が、その借家契約を合意により終了させその建物を引き続き賃貸借する場合に定期借家契約を締結すること(いわゆる定期借家契約への切替え)は禁止されていますので、設問の賃貸人と賃借人との間では、従来の正当事由による解約制限のある借家契約が継続していたものとして取り扱われることになります。
Q3 居住用の建物について、2000年3月1日以降に従来型の借家契約を結び、その借家契約の更新時に契約を合意終了させ、新たに定期借家契約を結ぶことはできますか。
A いわゆる定期借家への切替えが禁止されるのは、定期借家契約を結ぶことができるようになる日(2000年3月1日)より前に結ばれた居住用の建物の賃貸借についてです。したがって、2000年3月1日以降に結ばれた居住用の建物の賃貸借については、切替えは禁止されていませんので、新たに定期借家契約を結ぶことはできます。
(特約)
Q1 契約書に借賃改定特約を設けた場合、借賃増減請求権は一切認められないことになるのですか。
A 法律では、定期借家契約の場合に借賃改定特約を結べば、借賃増減請求権の定めは適用しない(借賃増減請求権は行使できない。)こととされましたが、この定めを適用しない有効な借賃改定特約とするためには、賃料を客観的に定め得る内容でなければなりません。
したがって、たとえ当事者が借賃改定特約をしたと考えていても、内容によってはそれが借賃改定特約とは認められない場合があり、その場合は借賃増減請求権が行使できることがあり得ます。
なお、借賃改定特約についても、民法の一般条項は適用されますので、その内容が公序良俗や事情変更の原則に違反しているとみなされれば、合意が無効であるとか、特約につき解除をすることが可能となるなどの余地があります。
(転貸借)
Q1 賃貸人からアパートを定期借家契約で賃借している賃借人が、従来型の借家契約で転貸した場合で、定期借家契約の期間満了時に転借人が立退きを拒否した場合、三者の関係はどのようになりますか。
A 転貸借は、賃貸人の承諾を必要としますので、転貸借が承諾のないものであった場合は、賃貸人にとって転借人はアパートの不法占拠者と同様ですから、賃貸人は賃借人に明渡しを請求することができます。
次に、賃貸人が転貸借を承諾していた場合も、定期借家契約の期間満了後は、転貸借の基礎となっている賃貸借契約関係が失われるのですから、転借人は、賃貸人に対抗し得なくなり、このことは判例でも明らかにされています。ただし、正規の手続を経て転貸借を受けている転借人を保護するために、法律では、賃貸人は、転借人に対して賃貸借終了の通知をしなければ、その終了を転借人に対抗できないとされています(ただし、通知をして6か月が経過すれば終了します)。
Q2 転貸借契約を定期借家契約とする場合は、その転貸借について、「契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」、「期間の満了により賃貸借が終了する旨の通知」などを行う必要がありますか。
また、行う必要があるとすれば、これらの説明、通知などは、賃借人が転借人に対して行うことになるのですか。賃貸人から転借人に対して行う必要はないのですか。
A 定期借家契約を基にして転貸借を行う場合、転貸借を普通借家契約とすることも定期借家契約とすることも可能です。しかし、転貸借を普通借家契約で行うと、Q1のように賃貸人と転借人の間などで問題が生じますので、転貸借は、基となる定期借家契約の期間の満了までとした定期借家契約とするのが合理的です。賃貸人は、賃借人に対して「転貸借は定期借家契約によるとする」という条件で転貸借を承諾するなどしておくことが望ましいと思われます。
転貸借を定期借家契約によるものとする場合には、契約関係は賃借人と転借人との間で生ずることになりますので、「契約を結ぶ前に書面を交付して行う説明」、「期間の満了により賃貸借が終了する旨の通知」は、賃借人が転借人に対して行うことになります。
なお、賃貸人は、基となる定期借家契約の終了の通知を転借人に対して行う必要があります。
(その他)
Q1 居住用の建物を定期借家契約で賃貸借する場合の標準契約書は公表されたと聞いていますが、事業用建物の契約書も公表しているのですか。
A 事業用建物の標準契約書については、建設省では作成する予定はありません。
Q2 ホテル業として部屋を一週間貸す場合と、不動産業として部屋を一週間定期借家契約により貸す場合とでは、法的な相違点はどうなりますか。
A ホテル業における宿泊契約は、一般に、付属施設の利用や各種サービスの提供を含む一種の無名契約であることが多く、また、賃貸借契約であるとしても一時的な使用に供するための賃貸借とされる場合も多いと思われますから、結局、借地借家法の規定の適用を受けない場合が多いことになります。
これに対して、定期借家契約を締結し、部屋を貸す場合は、当然借地借家法の適用対象となります。
Q3 公営住宅には定期借家制度は適用されますか。
A 公営住宅については、公営住宅法及びこれに基づく条例に特別の定めがない限り、原則として借地借家法が適用されることが判例上確立しています。
しかし、公営住宅は、住宅に困窮する低額所得者のために賃貸する住宅として、入居者が高額所得者となること等特段の事由がない限り居住が継続することを前提として制度が成り立っていますから、事業主体は、入居者との間で期間の定めがない賃貸借契約を締結しています。したがって、公営住宅は、定期借家制度にはなじまないと考えられます。