定期賃貸住宅標準契約書コメント

定期賃貸住宅標準契約書コメントは、本標準契約書の性格、内容を明らかにする等によ り、本標準契約書が実際に利用される場合の的確な指針となることをねらいとして作成し たものである。

全般関係

(1)
定期賃貸住宅標準契約書は、借地借家法(以下「法」という。)第38条に規定する 定期建物賃貸借による民間住宅の賃貸契約書の標準的な雛形として作成されたものであ り、その使用が望まれるところであるが、使用を強制するものではなく、使用するか否 かは契約当事者の自由である。また、使用する場合も、当事者の合意により、標準契約 書をそのまま使用してもよいし、合理的な範囲で必要に応じて修正を加えて使用しても よい。なお、本標準契約書は、建て方、構造等を問わず、居住を目的とする民間賃貸住 宅一般(社宅を除く。)を対象としている。
(2)
定期賃貸住宅契約は、地域慣行、物件の構造や管理の多様性等により、個々具体的な ケースで契約内容が異なりうるものである。全国を適用範囲とする契約書の雛形として の本標準契約書は、定期賃貸住宅契約において最低限定めなければならないと考えられ る事項について、合理的な内容を持たせるべく規定したものである。したがって、より 具体的かつ詳細な契約関係を規定するため、特約による補充がされるケースもあると想 定されることから、本標準契約書は、第16条において特約条項の欄を設けている。
(3)
なお、本標準契約書については、定期賃貸住宅契約の普及状況等を踏まえ、必要な見 直しを行うものである。
頭書部分 礼金等の一時金(敷金を除く。)については、定期賃貸住宅契約には一般的になじま ないため、それを記載する欄については設けていない。 第2条(契約期間)関係
(1)
法第38条第1項において定期建物賃貸借の要件として「契約の更新がないこと」を 書面によって契約することが規定されていることから、その旨を契約書に明記する必要 がある。
(2)
定期貸賃住宅契約は、その性格上、期間の満了により正当事由の有無にかかわらず契 約の更新がなく、契約が終了するものであることから、当事者間の合意によっても定期 賃貸住宅契約を更新することはできない。更に、契約の終了後賃借人が本物件の占有を 継続し、賃貸人が異議を述べないような場合でも、民法第619条の「黙示の更新」の 規定の適用はない。
(3)
定期賃貸住宅契約は、契約期間の満了で確定的に終了するが、当事者間で賃貸借関係 を継続させることも少なからず生じることと考えられるため、その場合、当事者間で新 たな賃貸借契約(再契約)を締結することができる旨を記するとともに、再契約の際の 賃貸借契約の関係について第14条において規定している。なお、再契約は定期賃貸住 宅契約に限らず、従来型の賃貸住宅契約でも差し支えない。
(4)
定期賃貸住宅契約は契約期間の満了とともに終了するが、賃貸人が第3項(法第38 条第4項)に基づく通知をしなかった場合においては、当初の定期賃貸住宅契約と同一 の条件(ただし期間については賃貸人の通知後6月を経過した日に終了する)による賃 貸借契約が継続しているものと扱われる。したがって、賃貸人は本物件を賃借人に使用 収益させる義務を負うとともに、賃借人は家賃の支払い等の義務を負うこととなる。な お、賃借人が賃貸借契約を継続する意思がない場合は、特段の手続きを経ることなく当 該契約を終了させることができる。
(5)
第3項の通知は、当該通知を通知期間内に行ったことが明らかになるよう、内容証明 郵便等の方法によって行うことが望ましい。
第4条(賃料)関係
(1)
第3項による当事者間の協議による賃料の改定の規定は、賃料の改定について当事者 間の信義に基づき、できる限り訴訟によらず当事者双方の意向を反映した結論に達する ことを目的としたものであるが、法第32条の適用を排除するものではない(すなわち 本項は法第36条第7項の「借賃の改定に係る特約」に該当しない)。
(2)
「借賃の改定に係る特約」を定める場合は、本条に関する記載要領を参考に、第3項 に替えて記載するものとする。
第10条(乙からの解約)関係
(1)
法第38条第5項においては、一定の住宅について、転勤、療養、親族の介護その他 のやむを得ない事情により賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難 なときに、賃借人による中途解約を法律上認めているが、本項では民法第618条(解 約権の留保に関する規定)及び法38条第6項(賃借人に不利でない特約は有効とされ ている)の趣旨に基づき、当事者間の合意による賃借人の中途解約を認めたものであり、 法律上認められた上記事情がある場合はもちろん、上記事情の有無にかかわらず賃借人 による中途解約を認めたものである。
(2)
長期の契約を前提に賃料の割引をする場合等で本項に比べ賃借人の解約権を限定する 場合等は、本案に関する記載要領を参考に、本条に替えて記載するものとする。
第13条(連帯保証人)関係
(1)
連帯保証人が賃借人と連帯して負担すべき債務は、原則として本契約の期間内に生じ る賃借人の債務であるが、本契約の期間が満了した後に賃借人が不法に居住を継続した 場合における賃料相当額、損害賠償金等の賃借人の債務についても対象となるものであ る。他方、賃貸人が第2条第3項の通知を怠った結果、本契約の期間が満了した後も賃 借人が居住を継続することによって生じる債務については、賃貸人の原因で生じた債務 まで連帯保証人に追加的に負担させることは適当でないため、連帯保証人の保証債務の 対象としていない。
(2)
再契約する場合においては、本契約は確定的に終了することから、新たな連帯保証契 約の締結が必要となる。
第14条(再契約)関係
(1)
第2条第3項の通知をする場合において、賃貸人に再契約の意向がある場合において は、当該賃貸人の再契約の意向を賃借人に伝えることが、当事者間の合理的な賃貸借関 係の形成に資することから、第1項の規定を置いている。
(2)
再契約をした場合においては、居住が継続することを考えると、本契約が終了すると しても明渡し義務・原状回復義務を履行させることは適当ではないため、第11条の規 定を適用しないこととしている。
(3)
ただし、原状回復義務については、再契約が終了した場合(更に再契約をする場合は 最終的に賃貸借契約が終了する場合)に、本契約における(更に再契約をする場合は当 初の契約からの)原状回復の債務も併せて履行すべきものであることから、その旨を規 定した。
なお、再契約においては、例えば第11条の規定を以下のようにすることにより、上 記趣旨を担保する必要がある。 第11条 乙は、本契約が終了する日(甲が第2条第3項に定める通知をしなかっ た場合においては、同条第4項ただし書きに規定する通知をした日から6月を 過した日)までに(第9条の規定に基づき本契約が解除された場合にあっては、 直ちに)、本物件を明け渡さなければならない。この場合において、乙は、通常 の使用に伴い生じた本物件の損耗を除き、○年○月○日付けの定期賃貸住宅契約 に基づく原状回復の債務の履行と併せ、本物件を原状回復しなければならない。
(4)
他方、敷金の返還については、再契約をした場合においても、(例えば賃料等の不払 いがある場合にその時点で清算する等)本契約終了時に返還・清算をするとする取扱い で不合理ではないと考えられることから、その旨を規定している。なお、実際の運用に おいては、清算後の敷金について、再契約による敷金に充当する等の取扱いをすること も考えられる。

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