国土交通No.130
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14んな一人でした。「初めはまったく音が出なくて…。なのに1ヵ月後には演奏会。そこで練習場近くに部屋を借りて毎日始業前には朝練、夜も通常業務後に深夜まで練習。そのかいあってなんとか演奏できたときはホッとしましたね。その後もメインだった先輩の異動などもあり、精神的にきついことはたびたびありました」そんな永井に対して、所属する海洋情報部海洋情報課の上司は「音楽隊も仕事なのだからしっかりやれ」と励はげまし続けたと言います。「所属課の理解があって、業務の調整ができて、はじめて音楽隊の練習ができるわけで、本当にありがたいことです。そして、音楽が好きという気持ちだけでなく、仕事としてプライドがあるからこそ続けられているのだと思います」通常業務との兼ね合いで、練習時間の確保はすべての隊員にとって頭の痛い問題。クラリネットを担当する愛あいせ瀬有ゆうき輝は警備救難部運用司令センターで当直制業務に就いています。「当直明けの練習は疲労のため集中力を保つのに苦労します。また、聴くことも勉強だと思い、月に一回はほかの官公庁バンドや市民バンドのコンサートに行ったりして、演奏するときの音のイメージを膨ふくらませるようにしています」また、25年4月に入隊したトロンボーン担当の堀ほりうち内彰あきらも所属する交通部企画課で26年4月から早朝勤務となり、練習との調整に苦労していると言います。「最近職場近くに引っ越したので、ずいぶん楽になりました。以前は通勤に往復3時間かかり、通常業務後に時間を見つけ練習場で少し練習するのがやっと。睡眠時間も削られ弱音を吐はくと『好きでやっているんだからちゃんとやれ』と妻に叱しかられました(笑)。思った以上に厳しいけれど、お客さまに『楽しい時間を本当にありがとう』と喜んでもらえると、またがんばろうと思えます」ひとり一人の音の力が高まって全体の力を高められる楽器の経験、現在の仕事、練習できる時間もバラバラ。そんな隊員が音楽隊として一つになり、聴かせるに値する音楽を作り上げるためには、さまざまな調整が欠かせません。齋藤は「地道な調整こそ、隊長の重要な仕事」と語ります。「演奏指導の先生や隊員もいますが、練習の中で気づいた細かい修正点や注意点は私がその場で指導するようにしています。そして音楽隊としての行動全般についても、ひとり一人が当庁の広報業務を背負っているんだという思いを一つにしなければ良い演奏はできませんし、観客に伝わりません。隊員の環境も含め、常に後方から隊全体を見渡し、『より良い音を出すためにはどうしたら良いか』を意識して指導や隊員の所属課との調整などを行うように心がけています」個性の異なる色をまとめて絵を描くように、各人が一つのイメージを共有して結束することで、全員で奏かなでる音として完成させていく……その実感が音楽隊だけでなく、組織全体の士気を高めることにつながっていくのでしょう。「海上保安学校在学中は同じ学生で年齢も近い人ばかり。一方、音楽隊は、年齢・階級・仕事や経歴が違う。そんな異なるプロフィールを持つ者が違いを超えて関係を築き、音楽に昇しょうか華するところに兼務音楽隊としての魅力があるように感じます。その輪の中での経験は自分にとって大きな財産であることは間違いありません」(愛瀬)指揮者による指導のない練習日は、隊員全員で音をチェックしながら進めていく壁には賞状以外にも米国コーストガードとの交流を表す感謝状なども音楽隊専用の練習室のホワイトボードには、各公演で演奏する曲目がびっしり練習中

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