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14現場力業務密着ルポシリーズFILE33視野を広げた治水の仕事 大学時代は生態系やリサイクルなど、環境系が専門だった五月女。現職に就いたきっかけを聞くと「正直、最初から志こころざしがあったわけではないんです」とはにかみます。入省後、配属先の希望を河川・道路・港湾の三部門から聞かれた際、河川の自然が自分の関心に近いかな、と考えたそうです。「ここに来てから、治水の仕事の重要性を知りました。まず河川の安全・安心があって初めて、私たちは自然環境やグラウンド利用といったことに関心を向けることができるんです。この仕事に閉められることが求められます。 岩淵水門は普段、開いたままで、隅田川を往来する船舶が通過していますが、荒川流域に大雨が降って荒川の水位が一定の高さまで上がると閉鎖します。門の開閉には約45分かかります。台風が荒川流域に接近している時は水門を閉めるタイミングを逃さないように職員らが24時間態勢で水位の変化を監視します。 実際に、岩淵水門は昭和57年の竣工以降、平成3年、11年、13年、19年の4度にわたり水門が閉鎖されました。もしも岩淵水門と荒川放水路がなければ、どうなっていたのでしょうか。ある推計を見ると、平成19年9月の台風9号では、隅田川が氾濫し、北区、荒川区、足立区、台東区で浸水被害が発生し、最大4m以上の浸水、その被害総額は約14兆円に及ぶと見積もられました。 「東京の中枢を流れる隅田川が氾濫すれば、失うものはとても大きい。仕事の責任の重さを感じます」。通常の建築物が支障をきたすような大きな地震であっても、岩淵水門が機能停止することは許されません。最新工法を採用した水門の耐震補強 耐震補強では、まず水門が建設されたときの図面を基に、最大規模の地震でどんな破壊が生じるか、シミュレー就き、視野を広げることができました」 現在、2歳の娘を毎日、保育園へ送迎し、上司や周りの職員の協力を得て、1日7時間、残業無しの勤務体制で仕事をしています。しかし育児・家事との両立は簡単ではなく、「その日その日をなんとかこなす」といった調子だとか。今後の目標は、まず仕事を続け、自分の役割をきちんと果たすこと。娘が大きくなったとき、「お母さんが川に携わる仕事をしていて良かった」と言ってもらいたいと笑います。そして、いつかは河川の水質調査や生物調査に関わる部署で、自分の知識をさらに生かしたいと、少し控えめに、落ち着いた物腰で話す言葉の中にも、力強い意志が感じられました。大きな地震に備えさらなる耐震強化を図る 岩淵水門は現在、大規模な耐震補強工事をしています。この工事業務を担当し、施工業者と連携しているのが、岩淵出張所管理第二係長の森田貴之。今回の耐震補強工事は、平成7年1月の阪神淡路大震災、そして平成23年3月の東日本大震災での教訓を踏まえ改正された、新たな耐震基準に基づいています。新基準では、想定できる最大規模の地震が起きても、水門を確実に近隣住民や利用者の声に耳を傾け、周囲の理解の下で施設を維持管理するのも大切な仕事。なかには「女性だと話しやすい」という利用者もいる。もしも荒川放水路と岩淵水門が存在しなかったら?平成19年の台風9号の場合この台風では岩淵水門上流の笹目橋地点で毎秒4500m3の流量が観測された。もし放水路と水門がなければ、北区・荒川区・台東区を中心に都市部の約50km2が浸水。一部の鉄道が止まり、広範囲で交通網が寸断されることになったと考えられる。※シミュレーションは荒川本川からの洪水流下のみ考慮。利根川その他の河川の影響は考慮していない。※地盤高は航空レーザー測量データに基づいて設定。
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